ある日の夜の『オカンの店』 麻由美編
「それで? 宗ちゃんと美花ちゃんは何時するん?」
いつもの何気ない会話から、いきなりドキッとさせられる疑問を二人に投げかけて来たのは、一緒に呑んでいた桜絵ちゃんやった。
宗ちゃんは、何か勘違いしたみたいで飲んでいたビールをブッと吹き出して慌てておしぼりで口を拭いていた。
美花ちゃんは桜絵ちゃんの質問に全く動じずに、自分のおしぼりを使ってテーブルを拭きながら、宗ちゃんの膝を叩いて結婚やろ?と少し笑ってから桜絵ちゃんに答えていた。
「ゆっくり考えてるんよ、うちの親はうちらの好きにしたらええでって言うてくれてるし、宗ちゃんの両親は多分うちに気を使ってくれてて、宗ちゃんには急かすような事を言うてくれてるみたい」
美花ちゃんは、膝に擦り寄って来た看板猫のがんもの頭を撫でながら宗ちゃんの顔を見てニィっと笑った。
「するんやったらこうちゃんらみたいな結婚式がええな~ってこの前、宗ちゃんと二人で話した所やねん」
ちょっとのろけた感じで美花ちゃんが目を潤ませてる横で、宗ちゃんがウンウンとまた嬉しそうな顔で頷いている。
「桜絵ちゃんと拓ちゃんは? そっちこそ、何時するん?」
今度は美花ちゃんが攻めに回って、桜絵ちゃんと拓ちゃんに言葉を返していた。
すると拓ちゃんがへへへと頭を掻きながら桜絵ちゃんと顔を見合わせてから口を開いた。
「実は俺ら半月前から一緒に住んでるねん。行ったり来たりが面倒になって来たし、家賃も勿体無いなぁ~って話になってな! 桜絵ちゃんの親には了解貰えたし」
拓ちゃんがちょっと照れ臭そうに白状した。
「人それぞれで色んな形の付き合い方があるから、二人で納得して一緒に住んでるんやったらええんちゃう? 拓海もなんかあったら責任取れる歳やしな!」
横から大人な意見を放り投げたのは健ちゃんやった。
「俺らは隣同士やったから、そんなん考えたことも無かったな~……。どっちも自分の家みたいに行き来してたしな! そやから結婚して二人で一緒に住んだ初日は、めっちゃお互い緊張して変な感じやったよな?」
こうちゃんが話を私に振って来たので、その夜のことを思い出してついつい笑ってしまった。
話を聞いてたオカンが、新しいおしぼりと頼んだ唐揚げの大皿を運んで来て座敷に座ってる面々を見渡してしみじみ言った。
「こんだけカップルがおると、次は誰と誰が結婚するか言うて年寄り連中は皆で楽しみにしてるんやで!」
ニコニコとオカンが笑って話しているとカウンターの中から比奈ちゃんがこっちに向かって叫んだ。
「何時別れるかって言うて賭けしてるおっさんらもおるんやで!」
そして比奈ちゃんは意地の悪い顔をして、カウンターに座ってるおっさん達を見て笑っていた。
聞いていた美花ちゃんや桜絵ちゃんがカウンターに座ってるおっさんらに酷いわ~~って怒って叫んでから「うちらは絶対に別れたりしませんからね! 残念でした~」と言って笑った。
店の戸がゆっくりと開いて仲睦まじく帰って来たのは、亜紀ちゃんと真斗さんやった。
この店で一番ホヤホヤでアツアツのカップルや(笑)
すると、ゴンッという音がして「痛てっ!」と言ったのは真斗さんやった。また頭を入り口でぶつけたらしい。
「真斗! 店の戸が壊れるから、気をつけて入っておいでってあれだけ言うてるやろ?」
「すんません! 三回に一回はぶつけてますね」
比奈ちゃんに怒られて、真斗さんはぶつけた頭を撫でながらペコペコと頭を下げて謝っていた。
「座敷いっぱい? もう座られへんかな?」
亜紀ちゃんが心配そうにして聞いて来たので、すぐに横におったこうちゃんが立ち上がって皆でテーブルを二つ引っ付けて囲んで座れるようにしていた。
「俺もたまには、嫁さん連れて来よかな? お前ら見とったら一人で飲んでるんが寂しなって来たわ」
座敷の面々を見ながら健ちゃんが寂しそうに言ったら比奈ちゃんがカウンターの中で驚いていた。
「健ちゃんって奥さんおるん? 独身やと思ってたわ!」
「おるおる! 子供もおるで! 娘が一人、もうすぐ中学二年や! 難しい年頃やねんけどな」
健ちゃんは、少し苦笑いしながら比奈ちゃんに答えてまた話を続けた。
「嫁はんは、看護師やからめっちゃ忙しいねん。夜勤もしてるしな! そやから娘は小さい頃から、ほとんどうちのババァが見てくれてる。俺は家におってもおらんでもあんまり役にたたんねん」
健ちゃんが珍しく弱気な発言をしていたら横からオカンが口を挟んだ。
「そんなことないで! 一生懸命両親が働いてくれてるから、ご飯も食べられて学校へも行けるんや! ちゃんと健ちゃんは役にたってる!」
「俺の事をそんな風に言うてくれるんはオカンだけや~」
オカンが健ちゃんの背中を叩いて励ますと、健ちゃんはオカンに抱きついて笑っていた。
さっきから起きてウロウロしてたがんもが、お腹が空いたみたいで「ニャーンミャーン」と鳴き出したら、座敷の端で寝ていた絵美里ちゃんも目を覚まして起きてしまった。
「あらら~がんもにつられて起きてしまったなぁ~」
オカンがすぐに飛んで来て、グズってる絵美里ちゃんを抱っこしてカウンターにおる比奈ちゃんのとこまで連れて行った。
こうちゃんは、いつの間にか裏口の方に置いてあるがんものご飯を持って来てがんもに食べさせながら、美味しそうにご飯を食べているがんもを見て嬉しそうに笑っていた。
「うちも絵美里と少しご飯食べるわ~」
比奈ちゃんが絵美里ちゃんと座敷に来て座ったら、こうちゃんがゆっくりしときって比奈ちゃんに言うてからカウンターに入ってオカンを手伝い始めた。
「こうちゃんは家でもあんなん? それともここでだけ?」
比奈ちゃんがコソコソっと聞いて来たから、私は笑って家でもあんなんやわと笑うとこうちゃんの方を見ながらそうやろうな~と笑って納得していた。
「それで? 赤ちゃんは、まだなん?」
比奈ちゃんが今度は真面目な顔をして私に聞いて来たから、ちょっと私は焦って言葉に困ってしまった。
「なんかあったら相談してな! ちょっと頼りないけど一応先輩やしな!」
比奈ちゃんはそう言うと、返事に困ってる私の肩をポンポンと叩いて笑ってから、絵美里ちゃんの口の周りについたケチャップをおしぼりで拭いていた。
「私も女の子がええなぁ~」
絵美里ちゃんを見ていた桜絵ちゃんが言うと拓ちゃんもウンウンと笑って頷いていた。
今度は、絵美里ちゃんと比奈ちゃんを見つめてる真斗さんを見ていた亜紀ちゃんが唐突に真斗さんに聞いていた。
「真斗さん、子供早く欲しい?」
「自然でええよ! 自然で、焦らんでも自然でええから!」
これは、図星やったみたいで絵美里ちゃんと比奈ちゃんを見て自分の子供と亜紀ちゃんの姿を想像してたみたいで真斗さんは真っ赤な顔で亜紀ちゃんに答えていた。
「付き合い始めたばっかりで気が早いわ!」
宗ちゃんと美花ちゃんに、すぐに突っ込みを入れられて真斗さんがめっちゃ困っていたので私も思わず笑ってしまった。
「実は、二ヶ月ほど月の物が遅れてるからもしかしてと思って病院へ昨日行ったら、出来てたみたいやねん。赤ちゃん」
私は、お腹をさすりながら比奈ちゃんにコソッと小声でまだ誰にも内緒やねんけどと言ってから打ち明けた。
すると、話を聞いた比奈ちゃんが、すぐに声を上げそうになったので私は比奈ちゃんの口を抑えて比奈ちゃんの耳元で言った。
「もうちょっと黙ってて! もう少し落ち着いてからこうちゃんには話そうって思ってるねん」
「なんで? すぐにそんなん言って教えとかなアカンやん! 一番大事な時やねんで!」
比奈ちゃんはそう言うと私の手を握って真剣に心配してくれてた。
「なんかタイミングが難しくてな、もうちょっと落ち着いてからでもええかな? とか思ったりしてるんよ」
「まゆちゃんは、ほんまおっとりしてると言うか、のんびり屋と言うか、まぁ、そやからずっとこうちゃんを好きでおったんやろけどな~」
なんか褒めてくれてるのか、けなされてるのかがよく解らんかったけど、確かにそうかもしれへんなと私も思った。
「こうちゃん! まゆちゃんが大事な話があるらしいで! ちょっとおいで!」
比奈ちゃんはわざと怒ってる風な口調でこうちゃんを呼びつけた。
「何? どうしたん? 俺、何かした? どないしてん?」
こうちゃんは慌ててカウンターから座敷に来て私の前に正座して座った。
「まゆちゃん! 早く教えたり! こういう事は早いほうがええねん!」
比奈ちゃんに言われてこうちゃんが更に不安そうに私を見ていた。
「昨日、病院へ行ったら、出来てるって言われてん。うちらの赤ちゃん」
私がお腹をさすりながら伝えるとこうちゃんは暫く固まっていた。
聞いた本人よりも、周りの宗ちゃんや美花ちゃん達のほうが先に声を上げて立ち上がっていた。
「出来たん? ほんまに? 凄い! おめでとう~~!」
皆が喜んでお祝いの言葉を口にしている横で、こうちゃんはそうっと私のお腹に顔を近付けて聞いていた。
「ほんまに? ほんまにお腹におるんか?」
「ほんまやで! 嘘じゃないで! ほんまにここにおるんやで!」
私が、真面目な顔でこうちゃんに答えると、こうちゃんはガッツポーズをして立ち上がっていた。
「やった~! オカン! お父ちゃんやで俺、俺がお父ちゃんになるんや~!」
こうちゃんは声を上げて叫ぶと、オカンのとこへ行ってオカンに抱きついていた。
「良かったな~こうちゃん! 麻由美ちゃんの事、大事にしたらなアカンで! 今がほんまに一番大事な時やからな! 二人ともおめでとうさん!」
オカンは、こうちゃんの頭をポンポンと叩いて乾杯しよか~っと言って皆にビールを注いでくれた。
もちろん私はオレンジジュースを渡されたけどね。
その後は、こうちゃんが男の子やったら一緒に釣り行ったりガンプラ作ったりするねんとか、女の子やったらお風呂はずっと俺と入るねんとか、アホみたいなことばかり言って皆を笑わせていた。
みんなが騒いでる中で、がんもと絵美里ちゃんは仲良く座敷の隅に敷かれたベビー布団で気持ちよさそうにまた、スヤスヤ寝てしまっていた。
それを見て、一年後にはここに自分の子も混ざるのかと考えたらなんか嬉しいのと、その時のこうちゃんと生まれてくる子を想像して笑ってしまった。
翌日、両親とこうちゃんのお母さんに赤ちゃんが出来たことを報告したら、私が想像いていた以上に凄く喜んでくれていた。




