機械世界の守護者
メタリックに光る門が山中に聳える。門を通り中へ足を踏み入れたら、ブゥゥンと何かのマシンの電源が入る音がした。
パツ、パツ、パツと、鉄でできた赤錆の浮かぶ通路の壁に照明が灯る。所々割れていたり、機能を失っているものがあるので薄暗かった。
一歩、二歩、三歩、ピィーーと不快な電子音が鳴り、赤いランプが点滅を始める。構わず進む。
分かれ道があったり、床が抜けていたりと悩む部分もあったが、問題ない。ご先祖様が残してくれた地図もあるし、機械で強化したこの体では大抵の難事は解決できた。
手に持つ地図に力が入る。いよいよだ。頑丈なスライドドアをガリガリと動かす。
「何者だ。」電子音の声が問う。
「迎えにきたよ。」
赤い警告ランプのように目を光らせた、錆びだらけのグリフォンが柔らかい金属でできた羽をリィィンと動かす。
「愚かな侵入者よ。永遠の眠りを神に代わり授けよう。」億劫そうに伏せていた体を持ち上げる。
「僕は神の信奉者。喪われた神の再生をする為に君に会いに来たんだ。行こう!ここにはもう彼はいない。探しに行くんだよ、彼の力を。」
「出来ぬ。長き時の流れの内にこの体は錆びた。いまや残された力も僅かだ。信奉者よ、去るがいい。ここにはもう何もない。神の遺産は朽ちて、鉄屑に還るのを待つばかりとなった。」
「それは嘘だ。神の最大の遺産である半身機械のグリフォン、君が残っている。再生を約束した僕の祖先は必ず君を元に戻すと誓った。」
「ネジが心臓に、オイルが血に。神の再生と共に機械神は対である調律の神を目覚めさせる。これは調律の神が君の為に残した鍵。機械神の頑固な守護者を外に出すためのね。」ナイフのような茶金の鍵を不意を打ってグリフォンの額に刺す。ギィと不快な音を立て体を震わすと金属片がパラパラとグリフォンの体から降る。
鉄くずから真っ白な羽毛が生まれた。円いレンズが顔から落ちて本来の猛禽の目を現す。
「調律の神もまた目覚めを待っている。」額に刺さっていた鍵が錆び、崩れて塵になる。
グリフォンは己と同じ半身が機械の生き物に伸び上がって視線を合わせた。
「確かにこれは調律の神の力。よかろう。神の望みであるなら是非はない。」
グリフォンの体に血肉が戻った。彼は機械神の守護者であるが、対である調律の神の願いを疎かにするような不遜の者ではなかった。
二柱の神が喪われてからかなりの時が経過していた。世界が歪み、大地の底が腐っている。滅びの時が迫っていたが、調律の神はこれを見越し対策を立てていたのだろう。グリフォンは嘴から息を洩らして笑う。
「さぁ行こう。」淀んだ世界に対し半身機械の生き物は零れるような笑顔で云う。
青銀の髪に黒い金属でできた腕、人の部分は少ないがその表情は柔らかい。
二人は並んで旅に出た。何時終わるともしれない世界の調律の旅に。
機械世界における二柱の神
ここでは血肉を持つ生き物が機械を組み込み半身機械となって生活している。なんでも機械神という神が存在し、あらゆる病、老いをその世界から追放したらしい。ただ、メンテナンスや経過する時、死を調律の神が定め世界のバランスを保つのに四苦八苦したらしい。この二柱の神にはそれぞれ守護者がいて、機械神には血肉ある機械のグリフォンが、調律の神には黒い腕の機械の体に血肉を持った人形が常に仕えているという。
ちょっとだけ説明
描写忘れですがこのグリフォンの大きさは大型犬を一回り大きくした位のサイズです。また調律の神の力で錆びたり使えなくなった機械部分を血肉に変えただけなので変わらず半身機械のサイボーグです。