狼の歌
「オオォーーン。」遠くから吠える声が聞こえてくる。
「オォーーン。」それに応え唱和する声。
断崖の狭間に響く、狼達の遠吠え。
「オオォーーン。」何処までも続く山並みに、そこかしこから響いていった。
蒼毛の狼が身を踊らせる。獣道を通り、他の獣を威かしながら。
真っ青な瞳が川面のようにきらりと光り、土を踏み締める脚が軽やかに交差する。
「オオォーーン。」
高々に響く声に、風が混じり草木がうねる。
世界に目覚めを齎す狼。その声に地上の風が喜び踊り、その声に地に伸びる草木がざわめく。
足を止め、大木の合間から差し込む陽光を蒼毛の狼が一身に浴びた。
「オオォォーーン。」歌う狼達。地上の風が彼等の声で、その体が草木である。
狼がまた走りだした。世界は目覚めていく。彼等は喜び歌う。その後に風が草木がざわめきを残す。
蒼毛の狼は世界を駆け巡っているのだ。
世界がまだ造られて間もない頃、地上は深い霧に覆われていた。その時代、まだ人の姿はなく力ある者が世界を駆け巡り様々な事象を巻き起こした。そうして今の世界を形作ったと神話には語られている。この蒼毛の狼はその創世の者の一つに数えられていた。昔はこうした力あるものの姿を見掛ける事は珍しくなかったそうだ。
蒼毛の狼の神話