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ある寄せ集めの話  作者: 二十日子
ヨセアツメ
3/10

幽界の馬

ははははっー!


笑い声


手に剣を掲げる兵士の群れ


ぐちゅり


粘着質な音が足元で起こる。


「ボケッとすんなライハルト。」前を行く兵士が、こちらに呼び掛けた。私は足元の物体を蹴り、剣を引き抜く。


「ねぇ、貴方。あの子と親しいのかしら。」剣には血がべったりと付き、切りつけるには些か不便になっているようだ。そうした剣を見ていると、傍で鈴の転がるような声が聞こえた。


私は首を振る。指されたのはライハルトと名を呼んだ兵士のことだろう。


「そう。」子供が笑う。戦場に不似合いなあどけない顔に反し口調は大人びていた。


「あの子は死ぬわ。」口ずさむように、死神の言葉を告げる。


流れ矢が、剣の打ち合う音に紛れて飛んだ。


運の悪い兵士の首に深々と、その切っ先を埋め込み膝を折らせた。


「ほ~らね。」無邪気に笑う子供に警戒し、剣を構えて距離を取る。


「敵か?」問い掛けを放つ。


「違うわ。」間髪入れず答えが返ってくる。


「貴方の傍が安全だもの。それ以外は地獄行き。だから私、貴方から離れないわ。」コロコロと笑う子供。



「来たぞ!死馬の戦士だ!固まれ、盾を構えて押し返せ!」人ならざる者と盟約を交わし、敵国ユゥリスはリア国を攻めて来た。


なだれるように駆けてくる、肉の削げ落ちた幽界の馬。その背に乗るのは蒼い顔のユゥリスの兵士だ。


体の芯が熱せられる。子供の存在を無視して駆け出した。


幽界の馬は足を踏みならし、ぐちゃぐちゃと兵士の体を肉塊に変えていく。空洞の目にオレンジの火が灯り楽し気に揺らめく。


固まった兵士が盾で攻撃を防ごうとしているが、蹄に打ち抜かれてよろけた隙を敵国の兵に討ち取られ戦力を削られていた。


じりじりと味方が減っていく。



ライハルトは駆け出した勢いに乗り、盾を構えた敵国の兵士の頭を踏みつけた。ゴキリと骨の音がするのと共に空中に飛び出し迷う事なく刃を幽界の馬の頭部に振り下ろす。


ほとんど骨が剥き出しになった馬が、鳥のようなけたたましい声を上げ暴れる。傷を負わせたもののライハルトの剣は砕けてしまい、また不安定な姿勢で切り付けたことで彼は受け身もとれず地面に転がった。


味方の兵士が錯乱した幽界の馬に殺到しとどめを刺す。


ライハルトは打ち所が悪かったのか身動きが取れず戦の様子を眺める事しかできなかった。


「見てなさい。ほぅら、あちらもそちらも人で無し。ねぇライハルト。」一人残されたライハルトの耳に子供が顔を寄せる。


幽界の馬は一頭ではない。数十の群れが遠くに駆けている。


そして


リア国の方からは、赤い大きな獣が飛び出す。長い鼻に湾曲した牙を持っていた。

それからは悪夢のようだった。最初は敵味方の兵士が入り乱れて戦っていた。しかし、暴れる赤い獣は味方共々火炎の息で焼き尽くし、踏み潰した。幽界の馬が屍を踏み鳴らす。生きていてもお構いなしに。狂気が渦巻き、もはや何を相手に戦っているのか判別もできない。


やがて、戦場に残ったのは幽界の馬数頭と、赤い獣。人に類するものは屍に変わり、地の肥やしとなった。


「くすくすくす。」


「お前は魔女か?妖魔か?」


「あら、違うわ。私は運命を視る渡り人。」


「こんな子供のなりをしているのはまやかしか。」


「いいえ、私は前世の記憶を引き継ぐの。年相応の体よ。」


ガーンと大地が揺れる音がして、炎の柱が上がる。赤い獣の体が燃え、火柱の中で身を崩していく。


ははははっー!


きゃきゃきゃきゃ!


二重の笑い声


「くすくす。幽界の王も炎界の王もご満悦。楽しんだようね。」焼け野原を子供が歩く。


その背をライハルトは痛む体に鞭を打って追いかけた。勿論これも運命を視る渡り人の思惑の通りである。




大人が夜眠らぬ子供にネムアが攫いにくるぞと脅すが、このネムアというのはどうやらリア国滅亡の話しに出る幽界の馬そのものらしい。真偽の定かでない与太話しではあるが。


幽界の伝承より抜粋



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