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君がいない食卓

掲載日:2026/04/22

ただいま。

……遅くなった。

ごめんな、またこんな時間。

どうせ「無理すんな」って言うんだろうけど。

ああ、これ?

買ってきた。

こういうの、好きだったろ。

甘すぎないやつ。

たまにはいいかなって。

最近、ちゃんと食ってるか分かんないし。

……いや、分かってるよ。

分かってるけどさ。

座る。

いただきます。

やっぱこれ、変わんないな。

お前が最初に作った時さ、

焦がしてさ。

「失敗した」ってめっちゃ落ち込んでたよな。

あの時さ、

別にそんな気にしてなかったんだけど。

……言えばよかったな。

うまいって。

少しだけ、間。

なあ。

今日さ、帰り道でさ。

お前が好きそうな店見つけたんだよ。

今度、行こうか。

……ああ、そうだな。

「今度」なんて、ないか。

苦笑する。

俺さ、あんま変わってないよ。

相変わらず仕事ばっかでさ。

お前、よく文句言ってたよな。

「ちゃんと休め」って。

……なあ。

ちゃんと休んでたら、違ったのかな。

箸が止まる。

静かすぎる。

前はさ、

こんなに静かじゃなかったよな。

テレビつけっぱなしでも、

お前がなんか喋っててさ。

「それ前も見た」って言ったら、

「いいの」って言い返してきて。

……あれ、ちょっと好きだったんだよな。

小さく息を吐く。

なあ。

聞いてるか?

いつもみたいにさ。

「うん」って。

それだけでいいんだけど。

沈黙。

「……そっか」

視線が、向かいの席に落ちる。

そこには何もない。

最初から、何も置いていない。

なあ。

なんで、こうなったんだよ。

声が少しだけ震える。

俺、何かしたか?

あの日か?

それとも、その前か。

もっと早く帰ってればよかったのか。

ちゃんと話聞いてればよかったのか。

「大丈夫だろ」って、

あんな軽く言わなければよかったのか。

言葉が途切れる。

なあ。

一回でいいからさ。

もう一回だけ、

「うるさい」って言ってくれよ。

それでいいから。

沈黙。

テレビの音だけが流れる。

「……遅いよな」

笑う。

全然、笑えてない。

「今さらだよな」

目を閉じる。

「……ごめんな」

その言葉は、どこにも届かない。

ただ、部屋の中で消えた。

この作品は大きな出来事ではなく、ただの“いつも通り”の延長で崩れる関係を描いています。

だからこそ、最後に残るのは感情ではなく、声だけにしました。

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