ゴブリン退治がこんなに辛いだなんて思わなかったんだよ。
異世界転生ものへのイメージが崩れる可能性があります。ご注意ください。
力も、富も、名声も、全部いらないから、元いた世界に戻してほしい。
異世界ってのは……狂ってる。
────────────────────────
俺は数年前、異世界に転生した。
それはもう皆様が思い描くようなチート街道まっしぐらで、少し力を見せればみんなが俺を肯定して、両手には女性、足元には媚び諂って許しを請う男ども、毎日適当に正義感ぶっては、(誰が定義したのか分からない)悪党どもを偽善的な言葉と圧倒的な力で改心させて、適当に仲間にして……その後は下僕のように全肯定させて……
順風満帆だったんだ。俺の異世界生活は。
何も不満なんか無かった。
「最強」は、肩書だけで満足してたんだ。
────────────────────────
「最強」の噂が広まってくると、やがて、魔物退治の依頼が入るようになった。
オーク……ドラゴン……魔人……
そんな人間では太刀打ちできないようなバケモノを、俺は簡単に木っ端微塵に粉砕しては、優しい作り物の笑顔を向ける。
自分より大きくて力がありそうなものを簡単に斃せる自分に、酔ってたんだと思う。
いつしか、こう呼ばれるようになった。
「救世主」と。
────────────────────────
「救世主」は、魔王を斃すことになった。
好みの女性を3人ほど連れて、魔王城に乗り込む。
魔王も俺の相手じゃなくて、無駄に派手な大技を簡単に相殺しては、後ろから聞こえる黄色い歓声に耳を傾ける。
結局魔王も瞬殺で終わった。
「世界がこれで平和になる。」
馬鹿馬鹿しい、くだらない。全く実感も沸かないし、嬉しくも何ともない。みんなが笑えてくるほどに喜んでるから、合わせただけだ。
別にそれでも良かった。
全肯定女達とイチャイチャしてるだけで楽しかった。
────────────────────────
魔王が退治されても、残党の魔物達は残っていた。
特に、弱小種と呼ばれるゴブリンやスライムなどだ。
ある日、その残党共の処理の依頼が入った。
ゴブリンの小さな村が新しく発見されたそうだ。
俺は軽い気持ちで出向いた。
可愛い個体がいたら、持ち帰ってやろうとすら思ってた。
────────────────────────
ゴブリンの村の周辺に、少し開けた場所があった。
草原には、緑の身体をしたゴブリンの少女が、綺麗な花を選んで集めていた。
「何してるんだ?」
と、軽く声をかける。
軽いナンパ気分だったのを覚えている。
そのゴブリンの少女は、俺を見るなり、目の光を無くした。
そして、震える声でこう言った。
「勇者……貴方……勇者よね……?一つ……一つ聞かせてよ……なんであなたは簡単に私の家族を殺せるの……?」
は……?
最初に聞いたときは、意味が分からなかった。
そんなの魔物だからに決まってるだろ。
魔物は人間に害をなす生き物だから、殺していい……
そこまで考えた時に、違和感を覚える。
魔物も「生き物」なんだ。
自分の身体があって、心があって、意志がある。
生き物を殺していい理由なんて、この世界にあっていいのか……?
なかったはずだ。
あっていいはずがなかった。
そうだ……異世界は誰も、「魔物の命を奪うこと」に、疑問を持ってなかった。
何も発せなくなった俺を、ゴブリンの少女は暗い目で見つめてくる。
そして、こう続けた。
「私もみんなと同じ場所に送ってよ。寂しいよ、勇者様。」
俺はその言葉を聞いて、自分勝手にも「絶望」してしまった。
無意味に同胞を葬られ、君主を殺され、本当に絶望していたのは、彼女の方だというのに。
いつも、簡単に命を奪っていた。
爽快感すら覚えていた。
罪悪感なんか感じたことも無かった。
それが「正義」だと思っていたからだ。
みんなが求めていたからだ。
みんなが……命を奪うことを求める……?
そこまで考えた後、急に猛烈な吐き気が襲い、その場を離れた。
少女の問いにも、懇願にも、こたえることはできなかった。
初めての「依頼失敗」だった。
────────────────────────
それから、異世界の連中が誰も信用できなくなった。
人が命を奪っている様を見て、喜んでいた女達も、魔物を殺すことを嬉々としていた住人達も、異世界だからという理由で魔物を殺していた自分自身も。
俺の手は血で汚れていたことに、ここにきて初めて気付かされた。
異世界は……この世界は狂っている。
そして、狂った世界に飲まれた俺も狂っている。
なんの面白みもなく、引きこもってネットに悪口を書き込んでいたあの日々の方が、ずっとマシだったんじゃないかと思える。
でも、俺はもう戻れない。
狂った世界の住民になってしまったから。
俺の異世界生活はまだまだ終わりそうにない。
そして、これを読んでくれた人に伝えたい。
異世界は夢の世界じゃない、どす黒く濁った内面を、上辺だけの華やかさで取り繕った地獄だ。
あくまで、俺が転生した異世界はそうだったとだけここに書き記しておきたかった。
このような駄文を最後まで読んでいただき、ありがとうございました。




