私のママは人魚姫 ママ!私が浮気して出来た子ってどういう事!?
私のママは人魚の国のお姫様だった。
私たち人魚はこの世界では異質な存在だ。
人間やエルフ、ドワーフ、獣人、この世界には様々な人種がいるのに、人魚はそのどれにも属さず、人魚族と言われている。
そう大人の人魚に教わった。
犬の獣人も猫の獣人も兎の獣人も、全部一括りに獣人と呼ばれているのに、どうしてそこに人魚は入らないんだろう?
難しいことは私には分からない。
この世界の唯一神、女神カリナリーベル様がそうお決めになったのかもしれない。
絶世の美女だと有名だったママは、たくさんの人魚に求婚され、パパと結婚した。
ママは謎の病気で、私が生まれる前に声を失ってしまったらしい。
私には五人の姉がいて、私は末の娘として生まれた。
私には生まれた時から不思議なチカラがあった。
私たち人魚には足がない。
でも私は人種のように、尾を足に変化させる事が自在に出来た。
もてはやされた。
人魚の国はじまって以来の奇跡の子だと、まるで聖女のような特別な存在だと、国中から私は祝福された。
私は毎日、綺麗な海の中を楽しく泳ぎ回っていた。
あの日が来るまでは……
ある日、ママが人魚の国から消えた。
そして、私はなぜか牢に入れられてしまった。
どうして?私は何も悪いことなんてしてないよ!
答えはすぐに分かった。
ママのお世話係の人魚が全てを知っていたから。
ある日ママは嵐で難破した船を見つけ、一人の人間の男性を助けたらしい。
そしてママは見事に一目惚れ……
でもママは人魚。陸には上がれない。
助けられた男性は、自分を助けた何者かを探しに、毎日のように海岸へ来ていた。
そしてママの前に、怪しい魔法使いが現れた。
その魔法使いは、自在に人間の足に変化できる魔法があるが、その代償に声を失う。さらにあの男性から愛を得られなければ、その身は泡となって消えてしまうと言ったらしい。
ママは即答で魔法使いにお願いしたんだって……ちょっとママ?
でも声を失ってはどうする事もできないじゃん。
ママ、全力で筆談したらしい……ママ?
そしてママは何度も何度も人間の姿になり、その男性とこっそり会っていた。
それで身籠ったのが私って訳。
私の不思議なチカラってそういう理由だったんだね。
相手の男性は、どこかの国の王子様だと告げ、ママを側室にしたいと言った。
一切の迷いなくOKしたってさ……
そして私はママの不義の子として、牢屋へ入れられてしまった。
奇跡の子だと言われていた私は、人魚でも人間でもない半端な存在だと蔑まされた。
毎日牢の中で泣いている私の前に、姉たちがやって来た。
姉たちは私に一本のナイフを渡すと、それで王子を刺せと言った。
そうすれば私は本当の人魚になれると言われた。
私は牢から出されると、陸の上に投げ捨てられてしまった。
人魚は15歳にならないと海の上にあがってはいけない。
私……まだ6歳だよ……
誰もいなくなった海を見つめながら、私は姉たちから渡されたナイフを海に投げ捨てた。
子供だからって馬鹿にするな!王子を刺したって、私が本当の人魚になれない事くらい分かるよ!
私は絶望はしていなかった。
陸の上での生活なんて初めてだし、毎日が必死で絶望してる暇がなかった。
幼過ぎて、自分がどれだけ危険な状況なのか、理解できていなかったのかもしれない。
私はたぶん、倒れていたんだと思う。
木の実や雑草ばかり食べていては、栄養なんて足りなくて当然だ。
ぼんやりとする意識の中、私を覗き込むように見つめる、高貴な格好をした女性がいた。
その女性は、命の抜け落ちたような無表情な顔だったけど、不思議と怖くはなかった。
女性は私を助けてくれるつもりらしい。
女神カリナリーベル様……私、もう少し生きられるみたいです。
連載中の『たたかう聖女さま』に登場している、とある女の子の過去のお話でした。
この女の子が誰なのか明かされているのか、どうなっているのかは、連載の方でお楽しみ下さい。