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夏合宿

 夏休みが始まっても吉之は特にやることが変わらなかった。毎日麗奈の部屋を片付けつつ2人の食事を用意し、合間を縫って夏休みの宿題に手をつける日々。せっかくの高1の夏休みがこんな簡単に過ぎ去ってしまっていいのだろうかと吉之は内心不安に思いつつも、なんだかんだ気に入りつつあるこの学校に在籍しつづけるために自分のやるべきことに集中していた。そんな吉之をよそに麗奈は気ままな生活を送っている。毎日のように昼過ぎに起きてきては夕方まで窓のそばで黄昏して、日が暮れる頃になると思い立ったかのように執筆を始める、そんな調子である。

 合宿を前日に控えた日の夕食の席で麗奈は

「明日から楽しみだな」

と吉之に話しかけた。吉之も

「そうだな」

と答え、続けて

「姉さんは持ち物の用意終わってるのか?」

と尋ねると麗奈は

「持ち物?吉之が用意してくれるんじゃないのか?」

と答えた。そんなことだろうと吉之は呆れた。部室では部長らしくみんなに語っていても、生活のことは全て吉之頼みなのである。

「はあ……食べたら準備するぞ」

「ああ!」

食事が終わると吉之と麗奈は麗奈の部屋で準備を始めた。

「まずは服だろ。それから洗面道具。それに水着と……って姉さんこんなセクシーなのどこで買ったんだよ」

麗奈が用意していた大人の色気漂う水着に吉之は思わず驚き、それと同時に姉の趣味に気恥ずかしさを覚えていた。

「いいだろうその水着。今から着るのが楽しみだ」

「まったく……他には何か持っていきたいものあるのか?」

「やっぱり花火は欠かせないな」

そう言うと麗奈はガサゴソとクローゼットの中を探し始めた。いつの間に用意していたのかと吉之が呆れていると、吉之のクラスのグループチャットに1件の通知が来ていた。送り主は櫻庭であった。海に行ってきたのであろうか夕日が沈む海辺の写真を送ってきていた。意外とロマンチックなところがあるのかと吉之が驚いていると、続けて文章が送られてきた。中身はなんと漢詩であった。しかもちゃんと押韻や対句などの技法も押さえている。正直わけがわからないが、やはりこの学校には何かしらの能力に秀でた人がいるものだと吉之は改めて実感した。

「吉之、どうしたんだ?」

花火を見つけた麗奈が、スマホを見ながら呆れている吉之に尋ねた。

「いや、クラスの奴がチャットでこんなものを送ってきたんだ」

吉之がそう言って漢詩を麗奈に見せる。

「へえ、どれどれ。ふむ、なかなか風情があって良いじゃないか」

麗奈は漢詩の内容に感心して答えた。やはり読む人によっては良さが分かるものなのだ。

「あとは肝試し用の懐中電灯だ」

そう言うと麗奈は花火と懐中電灯を吉之に手渡し、吉之はそれを麗奈のカバンにしまった。

「吉之は何を持っていくんだ?」

麗奈がそう吉之に尋ねる。吉之は

「俺は特にこれといったものは用意してないよ。着替えと洗面道具と水着、それくらいだ」

と答えた。

「そうか……吉之、もしかして合宿は楽しみじゃないのか……?」

麗奈は急に不安そうな顔を浮かべた。吉之は慌てて答える。

「そんなことはないぞ!海なんて夏休みの定番じゃないか。楽しみじゃないはずがない!」

「そうか、ならよかったが」

麗奈はホッと胸をなでおろした。実際、夏休みに海で合宿、しかも自分以外全員女子などという状況が楽しくないわけないと吉之は思っていた。


 次の日、吉之と麗奈が約束の時間に駅前に到着すると、すでに4人がそれぞれスーツケースを脇に置いて時計の下で待っていた。

「麗奈、遅い!」

優花がそう言うと真奈美が

「ま、まあまだ9時まで2分くらいありますし……」

とフォローした。

「ごめんごめん、姉さんがなかなか起きてくれなくてさ。遅刻しなくてよかったよ」

吉之がそう言うと優花と美波はやっぱりねという感じで顔を見合わせていた。

「久しぶり、吉之くん」

真奈美に声をかけられ吉之は

「ああ、まだ1週間しか経ってないのに、なんか久しぶりな感じするな。原稿の方はどうだ?順調に進んでるのか」

と尋ねた。

「うーん、順調ではないかも。部屋で1人でやってるとどうしても詰まっちゃって。だからこの2日で先輩に色々アドバイスもらおうと思って」

唯一真面目に文芸部としての合宿をやろうとしている真奈美がそう意気込んだ。

「じゃあ早速出発しようか!」

優花がそう言うと一行は電車に乗り合宿の地へと向かった。

 電車に揺られること2時間、6人は合宿先の海辺の駅にたどり着いた。その道中では楓が大量に持ってきていたお菓子をみんなに配ってちょっとしたパーティー状態であった。

「着いたー」

そう優花が叫ぶ。楓も

「潮の香りがして気持ちいいですね」

と言って海風の空気を感じ取っていた。

「で、泊まる場所はどこにあるんだ?」

吉之がそう尋ねると美波が答えた。

「この道をまっすぐ行った先だよ」

「美波先輩が宿とってくれたんですか?」

「うーん、宿っていうか泊まるのは私の家の別荘だから」

美波が笑顔でそう答えるのを聞いて、吉之と真奈美、楓の3人は「え……?」と驚いた。

「なんだ、お前たち聞いてなかったのか。夏休み前の最後の部活で説明したじゃないか」

どうやら吉之と楓が真奈美に宿題の相談をしている時に説明があったらしい。吉之は

「もしかして、この合宿に美波先輩が参加されるのって、文芸部が美波先輩の別荘をタダで使わせてもらうためなんじゃ……」

と、文芸部員ではない美波がこの合宿に参加している理由を推測した。

「ちょっと、人聞きが悪いじゃない!」

優花はそう言うと続けて

「たしかに私たちは美波の別荘にお世話になるけど、美波は一緒に海に行く友達が私たちしかいない状況だから、これはウィンウィンなんだよ!」

と主張した。

「まあ、美波先輩がそれでいいならいいですけど……改めてお世話になります」

「お世話になります」

真奈美と楓も吉之に続いた。

 駅から5分ほど歩くと6人は別荘に着いた。海辺の別荘は開放感溢れるリビングやベランダから海が一望できる素晴らしい場所だった。吹き抜けの天井から差し込む太陽の光が、部屋を温かく照らしている。

「わー、すごーい」

真奈美と楓は初めて訪れる別荘に感動していた。

「うちはプライベートビーチじゃないから、遊びに行くときは近くの海水浴場になるけどね」

美波がもじもじしながらそう言うと楓は

「大丈夫です!この別荘だけでも感動ものです」

と言った。美波は

「あ、ありがとう」

と照れながら答えた。

「ではみんな水着に着替えてビーチへと行こうか」

麗奈がそう言うと美波が

「脱衣室狭いから1人ずつ着替えてね」

と付け足した。最初に着替えたのは麗奈であった。麗奈のセクシーな水着姿に一同は「おお……」と声を上げた。吉之を除いて。吉之は姉の水着姿に目のやり場に困っていた。

「先輩、素敵です!」

そう言ったのは真奈美であった。続けて優花も

「麗奈はやっぱり絵になるよね」

と感心した。その後全員が水着に着替え終わると、各々スーツケースから砂浜に持っていくための荷物を取り出した。美波はスポーツバッグのようなものを肩にかけている。楓は浮き輪を準備していた。そして真奈美はクーラーボックスに飲み物を入れて運ぼうとしていた。

「重そうだけど、俺が運ぼうか」

吉之が真奈美に尋ねると

「でも重いよ?なんか悪いよ」

と言うので

「俺これでも力はそれなりにあるから。まあ任せとけって」

と吉之は真奈美からクーラーボックスを受け取った。

 6人が海水浴場に着くと、そこはちらほらと人がいる程度の静かなビーチであった。海辺には一軒海の家が建っているが、とても繁盛しているようではなかった。一方で人が少ないせいか海の水は澄んでおりきれいであった。

「海だー」

またしても優花が叫ぶ。そして一番乗りで海へ入っていった。

「ほら!みんなもおいでよ。すごく気持ちいいよ」

その声に引きつられて美波と楓も海へと走っていった。

「私たちも行きましょうか」

真奈美が吉之にそう呼びかけ、2人もまた海へと続いた。

 5人はしばらく泳いだり水遊びをしたりなどして海を楽しんだ。その間、麗奈はビーチパラソルの下で原稿を眺めながら時折5人が遊ぶ風景を眺めていた。

「先輩は海に入らないんですか?」

しばらくして真奈美が麗奈にそう声をかけた。

「ああ、私は泳げないからな」

麗奈は笑いながらそう言うと続けて

「それにこうしているとデキる先輩って感じがするだろう?」

と言った。真奈美は「あはは…」と苦笑いを浮かべると麗奈の横に腰掛けて原稿の相談を始めた。

「先輩、ここの表現なんですけどどう思いますか。私としてはあまり納得がいっていなくて……」

「うーん、そうだなあ……」

そうして2人が相談をしていると楓が話しかけてきた。

「あの、これからみんなであそこの海の家に行ってお昼にしようと思うんですけど、どうでしょうか?」

「おお、そうだな。お昼にするとするか」

その後6人は海の家で昼食を食べた。焼きそばやたこ焼きなど海の家の定番メニューであったが、みんなで食べれば美味しいのであった。

昼食が終わると6人は浜辺に戻り、美波が次の遊びを切り出した。

「みんな、次はビーチバレーをやるよ!」

そう言って美波は先ほどのスポーツバッグからバレーボールを取り出した。

「ビーチバレーって……先輩はバレー部じゃないですか。ずるいですよ」

吉之がそう言うと

「大丈夫、ハンデはちゃんとつけるから」

と美波は言った。そしてくじ引きをしてチームを決めた。吉之は麗奈と優花と同じチーム。真奈美と楓は美波のチームだ。

「麗奈、同じチームだね」

優花はそう喜びつつ吉之に対して

「きみ、足引っ張らないでよ!」

と釘を刺した。吉之はこれでも中学の時は陸上部だったのだ、運動神経は悪い方ではない。足を引っ張ることなんてないだろうと吉之は心の中で思いつつ「大丈夫です」と答えた。一方美波は真奈美と楓に対して

「まあ大船に乗ったつもりでいてよ」

と声をかけていた。試合は21点先取の1マッチ制。ただしハンデとして吉之たちのチームは10点からスタートとなった。

「ハンデをつけたこと、後悔させてあげるんだから」

優花はそう息巻いていた。しかし、いざ試合が始まると美波たちのチームの一方的な攻撃が続いた。やはりバレー部のスパイクは砂の上でも強力であった。19対13で美波たちのチームの勝利が近づいていた時、麗奈から吉之に絶好のトスが上がった。吉之はここで決めるしかないと思い渾身のスパイクを打とうとした。

グキッ。

……吉之は思い切り突き指をした。

「大丈夫か!?吉之」

「吉之くん、大丈夫!?」

「きみ!大丈夫なの!?」

みんなが声をかける中、吉之は痛みで悶絶していた。

 真奈美がクーラーボックスに入っていた氷を袋に入れて持ってきて突き指をした吉之の手を冷やした。しばらくして痛みが引いてきたころ

「なんかごめんね……」

美波が申し訳なさそうに謝った。

「いえ、俺の不注意ですから……」

吉之がそう答えると真奈美が

「なんともなさそうでよかったです」

と安堵の気持ちを吐露した。


 夜になると別荘のベランダでバーベキューが始まった。吉之も何か手伝おうとしたが、突き指が悪化するといけないとみんなに止められてしまった。女子たちがせっせと肉や野菜を用意したり火を起こしたりしているのを眺めながら、自分は何をやっているのだろうと吉之は1人考えていた。

「はい吉之くん、食べていいよ」

そう言って真奈美が焼きたての肉と野菜を盛り付けて渡してきた。

「おう、ありがとう。うん美味い」

その様子を眺めていた麗奈は少し不満そうな表情を浮かべると吉之に

「私が焼いた渾身の肉も食べるか?」

と声をかけた。しかし麗奈が焼いている肉はまだ生焼けでとても食べられる状態ではなかった。吉之は

「せめて食べられる状態になってから言ってくれよ」

と言って断った。麗奈の表情には今度は悲しさが漂った。その後も吉之は女子たちが焼いてくれた肉を食べる係として席に座り、片付けまで女子たちのお世話になった。


 夕食が終わると麗奈が「肝試しをするぞ」と言って懐中電灯を2本取り出した。

「ルールは簡単だ。この近くに古い神社がある。2人1組でその神社に行ってお参りをしてくるのが今回のコースだ。ただし、最初の一組がこの封筒を持って行って賽銭箱の近くに置いてくること、そして次の一組が封筒の中身を開けてきて、最後の一組が封筒と中身を持って帰ってくること。以上だ」

麗奈が説明を終えると続けて美波が

「この辺りは電灯もないから夜は暗くて怖いんだよ」

と念押しした。

「なんか怖そうだね」

吉之の隣で真奈美はそう呟いた。今回もくじ引きで組を決めた。初陣は優花と真奈美のペア、次に吉之と楓のペア、最後が麗奈と美波のペアに決まった。優花と真奈美は1番手ということもあり明らかに怖がっている様子だった。一方でこの肝試しの発案者である麗奈と、この辺りのことをよく知っている美波のペアは余裕の表情を浮かべていた。

 まず優花と真奈美のペアが出発した。途中「キャー」という叫び声が静かな夜にこだましたが、2人は30分ほどでどうにか帰ってきた。

「ふーっ、余裕だったね」

そう優花は言ったが、額には冷や汗をかいており相当怖かったのだろうと容易に推測できた。真奈美は別荘の明かりに安心したのか腰が抜けてしまった。

「おいおい大丈夫かよ」

吉之が声をかけると真奈美は弱々しい声で答えた。

「吉之くんも、気を付けてね……」

「お、おう……」

続いて吉之と楓のペアが出発した。

「楓はこういうの平気な方なのか?」

神社へ向かう途中、吉之が尋ねると楓は

「まあね、私怖い話好きだし」

「そういや怪談もしてたしな」

「ところでさ、吉之くんは好きな人とかいるの?」

「な、なんだよ急に。この雰囲気の中でする話か?」

「こうして2人きりになれたのも何かの縁だし、聞かせてよ」

「いないよ、別に」

「えー!文芸部にはこんなに女子がいるのに?」

「1人は姉さんだけどな」

「真奈美ちゃんとはいつも一緒にいるけど、何とも思ってないの?」

「真奈美にはいつも助けてもらってるし感謝してるけど、住む世界が違いすぎるだろ。向こうはちゃんと試験に合格して入ってきた天才なんだぞ」

「真奈美ちゃんはそうは思ってないと思うけどなあ。それに、ちゃんと試験に合格して入ったって私みたいに落ちこぼれる人もいるよ?」

「そうは言うけど、俺からしたら楓も頭の出来が違うように感じるぞ」

「考えすぎだと思うなあ。IQなんて目が良いとか足が速いとかと同じで、それを使って何をするかが決まってないと意味のないものだよ」

「な、なるほど……。楓は何かに自分のIQを活かそうとは思わないのか?」

「何もないから学校で落ちこぼれてるんじゃん!」

「そっか、ごめん」

「とにかく!私も真奈美ちゃんも吉之くんに対して頭の出来が違うなんて思ってないし、それは優花先輩や美波先輩も同じだと思うよ」

「そうかなあ……」

そんな話をしていると神社の境内が見えてきた。賽銭箱のそばには優花と真奈美が置いていったであろう封筒が立てかけてあった。

「さて、開けてみますか」

そう言って吉之が封筒を開けると、中には写真が1枚入っていた。一見すると学校の教室で撮ったただのクラス写真でしかないそれには、よく見ると後ろの黒板に人の顔のような模様が浮かんでいた。

「うわ、気持ち悪っ……」

吉之は思わずそう呟いた。一方楓は

「なにこれ。もしかしてうちの学校には幽霊がいるってことなのかな?」

とウキウキしながら言った。本当に怖い話が好きなのだろう。

「姉さんもどうやってこんな写真を手に入れたんだ?戻ったら説明してもらわないと」

その後、帰りの道中も吉之と楓はたわいもない話をした。お互いクラスが別々ということもあり、それぞれのクラスがどんな様子なのかについても話した。吉之が櫻庭や皆川のことを話すと楓は「なにそれ、おもしろーい」と笑っていた。楓のクラスでは授業中にスマホゲームで感動して号泣してしまい、先生にバレて怒られた生徒がいたらしい。どこのクラスにも変わった人はいるものだと吉之は思った。

別荘に戻ると入れ替わりで麗奈と美波がすぐに出発した。吉之は写真のことについて麗奈に聞きそびれてしまった。

「吉之くん、楓ちゃんとどんな話してたの?」

吉之が写真のことについて考えていると真奈美が尋ねてきた。

「たいした話はしてないよ。お互いのクラスにどんな人がいるのかとか、そんな話だ」

真奈美は「ふーん」と一言言うと、急に小声になった。

「吉之くんは楓ちゃんのことどう思ってるの?」

「え…?どうって……勉強ができない仲間って感じかな」

「そうなんだ……(よかった)」

「ん?」

「ううん、なんでもないんだ」

そして30分ほどすると麗奈と美波が戻ってきた。

「あ、姉さん!その封筒に入ってた写真は何なんだよ。どこであんなの手に入れたんだ?」

吉之は麗奈が戻ってくるなりそう尋ねた。

「写真?何を言ってるんだ吉之。封筒の中身はただの白い紙だぞ。ほら」

そう言って麗奈は白い紙を振ってみせた。

「封筒の中を開けさせたのは2人がちゃんと神社の賽銭箱まで行ったかどうかを確かめるためだ。だから写真とか中身のあるものは用意してないぞ」

「でも、俺たちが封筒を開けたらたしかに写真が入ってたんだ。楓も見ただろ?」

「うん、うちの学校で撮られた心霊写真みたいだった!」

「さてはお前たち、キツネにでも化かさせたな?」

麗奈はそう言ってニヤニヤしていたが吉之は

「冗談はよしてくれよ。これもどうせドッキリなんだろ?はやく教えてくれよ」

と、麗奈に詰め寄った。しかし麗奈は困った表情で

「本当に何も知らないぞ。お前たちが開けて置いていった紙がこれだし」

と言ってもう一度白い紙を振ってみせた。

 吉之は恐怖で震えながら同じ心霊現象に遭遇した楓の方を見た。すると楓は目をキラキラさせながら吉之に対して訊いてきた。

「吉之くん吉之くん、やっぱりうちの学校には幽霊がいるんですかね?」


 夜、唯一の男子である吉之は一人部屋に泊まることになったが、先ほどの心霊現象が脳裏に焼き付いて眠れずにいた。そして気分を変えようと夜のビーチに散歩に出かけた。

 夜のビーチは星空が水面に映し出されて幻想的な空間であった。吉之は一人異世界に迷い込んだような気分で、この学園に入ってからの4か月間を振り返った。最初は不安しかなかった。姉を助けるという名目で分不相応な学校に入ってしまい、周りは変わった生徒も多く本当にやっていけるのかと。そしてその不安が的中し、授業のスピードが速すぎて追いつけないでいたこと。しかし、幸いにも吉之は麗奈の導きで文芸部に入り友達もできた。真奈美はいつも親切に吉之の勉強を見てくれるし、楓とは学校の勉強が分からないことに対する愚痴を言い合えている。優花は未だに吉之のことをライバル視しているが、それでも困ったことがあれば助けてくれる。みんながいるおかげで自分は楽しい学園生活を送れているのだと、吉之は改めて実感した。

「あの……!吉之くん……だよね?」

吉之が夜のビーチを歩きながら一人物思いにふけっていると、後ろからそう呼びかけられた。先ほどの心霊現象をまだ心の片隅で引きずっていた吉之は、その声に思わずのけぞりながら恐る恐る振り返った。そこには少女が1人立っていた。

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