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麗奈の誕生日

 優花と、麗奈の誕生日プレゼントを、いや麗奈の相部屋に相応しいのはどちらかをめぐって勝負をすることにした吉之だったが、実際のところ今の吉之にそんな勝負をする余裕などなかった。どんどん遅れていく学校の勉強に日々の麗奈の世話にと追われていたら、麗奈の誕生日プレゼントを探す暇もないうちに2週間が過ぎていた。麗奈の誕生日はゴールデンウイークが明けたすぐあとの5月7日だ。この連休に誕生日プレゼントを決めなければと思った吉之は、1人近くのショッピングモールへと向かった。

 吉之がショッピングモールで目ぼしいものはないかと探しながら歩いていると、書店のところに真奈美がいるのが目に入った。なんと真奈美はショッピングモールでは普通の私服で仮面もつけていなかった。いよいよ学校での姿はなんなのかと吉之は疑問に感じつつ、せっかくなので真奈美に声をかけることにした。

「あれ、真奈美?」

声をかけられた真奈美は驚きつつ「え、吉之くん?」と返した。

「真奈美も買い物?」

そう聞かれた真奈美は「はい!」と答えたあとでこう続けた。

「吉之くんは……あ!もしかして先輩の誕生日プレゼント選び?」

「そうなんだよね、勉強が忙しくて全然考えられてなかったからさ……」

「じゃあ、私も一緒にプレゼント選び付き合ってもいいかな?私は勝負には参加しないけど、この後先輩のためにプレゼント買おうかなって思ってたところなの」

「いいの?助かるよ」

「私の方こそ、先輩の好みは吉之くんの方が知ってるだろうから助かるよ。じゃあ、この本だけ買ってくるからちょっと待ってて」

そう言うと真奈美は何冊かの本を手にレジへと向かっていった。さすが麗奈の小説に憧れて入部した文芸部員である。

 その後、吉之と真奈美は一緒にショッピングモール内の店を回りながら、ファッションやインテリア、雑貨店などを見ていった。時間はあっという間に過ぎ、お昼どきになろうとしていた頃、真奈美が新しくできたラーメン屋が気になっていると言い出した。吉之は特に昼を何にするか決めてなかったので、一緒にそのラーメン屋に行くことにした。

 ラーメン屋はショッピングモールの2階にあり、真新しい木目調の佇まいからなんとなくオシャレさを感じさせる雰囲気だった。開店したばかりということもあり若干並んでいたが、ラーメン屋らしい回転率の早さでそこまで待たずにお店に入れた。

「ここは塩がオススメらしいよ」

カウンターに着席すると真奈美はそう話始めた。それに対して吉之は

「じゃあ俺もそれにしようかな」

と追従する形で塩を注文した。いつもは麗奈の全てを決めているぶん、今日は流されるままである。

 2人が注文を終えて待っている時、隣のサラリーマン風の2人組が大声で会話しているのが聞こえてきた。

「あーし本当に美味いラーメンはスープまで飲み干すんだよね」

上司と思しき人がそう言うと、部下らしき人が

「さすが社さん、通ッスねー」

と上司を持ち上げた。その後先にラーメンが来たサラリーマン風の2人組は無言でラーメンを食べると、スープを残してそそくさと帰っていった。

「ねえ、今の人たち大声であんなこと言ってスープを残して帰るなんて、どういう神経をしてるんだろうね」

真奈美は2人組がいなくなったあとの席を眺めて小声で吉之にそう話しかけた。

「俺たちはああいう大人にならないようにしないとな」

吉之はそう答えるしかなかった。それに対して真奈美は

「当たり前です!」

と答えた。その後2人のもとにもラーメンが来たが普通に美味しくいただいた。やはりさっきのサラリーマン風の2人組が、マナーがなっていなかっただけのようだ。吉之も真奈美もラーメンのスープを飲み干す習慣はないため残して退店した。スープを飲み干すのは体にも悪いためやめた方がいいだろう。

 昼食を終えると2人は再び麗奈の誕生日プレゼント選びに戻った。しばらく見ていると、2階に動物の毛皮を専門に扱った雑貨屋があるのが見つかった。面白そうなので2人は中を覗いてみた。

「皮と言っても牛や羊だけでなくワニや虎とか色々あるんだね」

真奈美はそう感心しながら見ていた。

「姉さんは動物が好きだから、こういうのもありかもな」

吉之がそう言うと真奈美が

「動物が好きなら、動物を殺して作った毛皮製品はやめた方がいいんじゃ……」

ともっともな疑問を投げかけた。それに対して吉之は

「でも、ここの毛皮は『動物園で亡くなった動物から頂いたものを大切に加工して作られてます』って書いてあるよ。だから殺してるわけじゃないし大丈夫でしょ」

と答えた。最近はポリコレに対する配慮も大変なのである。

「まあ、それならいいかもしれないね」

真奈美も納得したようで、2人はこの店でプレゼントを探すことにした。

「先輩は緑色が好きなんだよね?」

真奈美がそう言うと

「そうだな、割と緑のものを使ってることが多いな」

と吉之が答えた。すると

「このワニ柄の財布なんてどうだろう?」

真奈美は近くの棚にあった財布を1つ手に取ると吉之に見せてきた。濃い緑色が大人っぽさを演出しており、だらしない麗奈にはいささか勿体ないと思いつつ吉之は

「いいんじゃないか、オシャレで」

と返し、続けて

「俺も何かこの色合いで探そうかな……」

と言ったその時、ふと昔麗奈と一緒に動物の図鑑を眺めていた時のことを思い出した。その時麗奈が特に気に入っていたのは虎だった。

「いや、虎かもしれない……」

吉之はそう呟くと店内の虎柄の商品を物色し始めた。そして、美しい虎柄の手帳カバーを見つけた。

「これだ!」

吉之は思わずそう口にした。これを見て真奈美は

「ちょ、ちょっと派手すぎるんじゃないかな」

と言ったが

「真奈美、分かってないね。姉さんはああ見えて物を失くすプロなんだ、このくらい派手じゃないとすぐどこか行ってしまうんだよ」

と吉之は反論した。

「そ、そうなんだね……」

真奈美はたじろぎつつそう答えた。こうして2人は買い物を終え、吉之は虎柄の手帳カバーを、真奈美は例のワニ柄の財布を手にしてショッピングモールの外に出た。

「吉之くん、今日はありがとう。おかげで良いプレゼントが選べたよ」

真奈美がそうお礼を言うと、吉之もお礼を返した。

「こちらこそ今日は付き合ってくれてありがとう。姉さんの誕生日プレゼント、お互い良いものが買えたな」

「そ、そうだね……。優花先輩との勝負、勝てるといいね……」

真奈美が言葉に詰まりながら答えた。あの変わり種の手帳カバーを麗奈は果たして気に入るのだろうかと真奈美は疑問だった。それでも、麗奈のことを一番わかっているのはおそらく吉之なのだから、きっとあれが正解なのだろうと真奈美は自分に言い聞かせた。そして、逆に自分の無難なチョイスは麗奈に受け入れられるのだろうかと一抹の不安を覚えていた。そんな真奈美の不安をよそに吉之は

「おう、この勝負もらったようなものだ」

と自信満々だった。

 そして2人は帰路についたのだった。


そして、誕生日当日。

「ついに勝負の時がきたね!」

全員が揃った部室で優花が開口一番に切り出した。

「あの、一応今日の主役は私、なんだよな?」

麗奈は自分が蚊帳の外にいるような感覚にモヤモヤしながらそう確認を求めた。

「もちろんだよ、私とっておきのプレゼントを用意してきたから」

優花はそう言うと「君はどうなわけ?」とでもいうように吉之の方を見つめた。それに対して吉之は

「俺だって、スゴいものを用意しましたよ」

と返した。お互いの目から火花が飛び散っているかのような緊張した空気である。

「あの、ささやかながら私も先輩にプレゼントを用意しました。私のは大したことないので先に受け取ってください」

真奈美はそう言うと例のワニ柄の財布を取り出し麗奈に手渡した。麗奈は財布を受け取ると

「へえ、なかなかセンスいいじゃないか、ありがとう」

と言い、真奈美は「えへへ」と満面の笑みを浮かべた。

 これを見て優花は

「ふーん、まあまあやるじゃない。でも、そんな地味な見た目だと麗奈が失くしちゃうじゃない。お世話係はそこまで考えないといけないのよ!」

と吉之と同じようなことを言い出した。そして優花は

「じゃあ私のプレゼントを見なさい!これよ!」

と言うと眩しいほどのビビッドグリーンの手提げカバンを取り出した。優花は既に「勝った…」と言いたげだが麗奈は戸惑い顔で

「これを外で使うのか……?」

と呟いていた。そして吉之の方を見てはやくそっちも見せてくれと目で訴えた。これに対して吉之も

「先輩、発想は良いですけどまだ足りないですね。俺が選んだのはこれです!」

と言って虎柄の手帳カバーを取り出した。優花はカミナリに打たれたかのように「なんだって!」と言ったが、一方で麗奈は呆れて固まってしまっていた。

 麗奈はどうにか平静を取り戻すと一言「コホン」と言った後続けて

「お前たち、ふざけているのか?」

と言った。これに対して吉之と優花は「どこが?」という顔をして麗奈を見返した。

「そもそもこれはいつどこで使うためのものなんだ、理由を説明してみろ」

麗奈がそう言うとまず優花が

「いやー、まず麗奈は緑が好きじゃん?この色なら絶対失くさないでしょ!それに前にもう少しちょうどいい大きさのカバンが欲しいって言ってたし」

と言い、続けて吉之も

「姉さんが、虎が好きだってことを思い出したんだ。それで虎柄にしようと。これなら絶対失くさないだろ?この手帳カバーをつけてれば手帳自体も失くさないし」

と言った。これを受けて麗奈は

「まず私は、片付けはしないが物をどこかに置き忘れることは絶対にしない!だからお前たちから見て失くしたように見えても必ず部屋のどこかにあるんだ!それなのに……こんな派手なものむしろ外で使いにくいだろ!」

と言った。部屋のどこかにあるとしても場所が分からなくなっている時点で失くしているのだが、麗奈の認識ではそれは失くしているには当たらないらしい。

「あのー、それで勝負の方は……?」

優花は恐る恐る麗奈に訊ねた。麗奈は

「本来はこんなことに優劣をつけたくないが、まあまだ使えるという点では優花の勝ちかな」

そう答えるとため息をついた。これを聞いて優花は急に元気になり

「聞いた?私の勝ちだって。やっぱり君より私の方がパートナーに相応しいみたいだね。相部屋も交代してくれてもいいんだよ」

と吉之に詰め寄ったが、

「それはダメだ。第一に相部屋は学校の決め事だし、この勝利だって積極的なものではなく消極的に選んだ結果なだけだからな。なんなら真奈美のくれた財布が一番良かったくらいだ」

と、麗奈が遮った。優花は「うっ……」と言うと引き下がった。

 こうして波乱の誕生日は辛くも優花の勝利に終わった。この勝負自体のレベルが低かったこともあり、麗奈はこの勝利に対して何も思っていない様子だったが、一方で吉之と優花の関係にはこの後も大きな影響を与える1勝となるのはまたこれからの話である。

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