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新たな問題

 次の日、朝早くに吉之は目を覚ました。昨日は瞳の提案に頭を悩ませていたら疲れて眠ってしまったのだと吉之は思い出した。結局吉之が起きている間に帰ってくることのなかった麗奈は、今では隣のベッドですやすやと寝ている。吉之は自分のベッドから起き上がると、キッチンスペースにある冷蔵庫を開けた。瞳が作ってくれた夕食が、麗奈のぶんだけそのまま残っていた。吉之は麗奈の机の上に「夕食が冷蔵庫に入っている」と書き置きを残していたのだが、どうやら見ずに寝てしまったようだった。

「姉さん、昨日は何か食べたのか……?」

吉之がそう呟くと、まるでそれに答えるように麗奈のお腹が鳴る音が聞こえた。

「何も食べてないのか」

悪いのは書き置きを見なかった麗奈の方だが、それでも吉之は麗奈に対して悪いことをしたなという気持ちになっていた。吉之がパンを焼いてコーヒーを淹れていると、その匂いにつられたのか麗奈が目を覚ましベッドから起き上がった。

「ん……吉之、起きてたのか」

「あ、姉さん起きたのか。昨日はどこ行ってたんだよ」

「ああ、昨日はちょっとな」

「ちゃんと管理人に許可取ったのか?」

「いや、無断だ」

「はあ……。姉さんこそ、あまり自由にやりすぎて退学になったりするなよ」

「ふふん、私なら大丈夫だ。それより吉之、すごいことを……」

麗奈が最後まで言い終わる前に吉之が言葉を遮った。

「姉さん、昨日夕飯食べなかっただろ。机の上に書き置き残したのに。冷蔵庫の中にまだ残ってるから食べたらどうだ?」

「なんだ吉之、用意しなくていいって言ったのに夕飯作ったのか?」

「いや、俺が用意したんじゃないんだ。一昨日、息抜きで外に出た時に校門のところで中学の時の友達に会ったって言っただろ?そいつが、俺が今は毎日レトルトで済ませてるって言ったら、俺と姉さんのぶんの夕食を作ってきてくれたんだ」

「へえ……。いや待て。夕食を作ってくるなんて、もしかして女子か!?」

「ああ、そうだけど」

「本当に友達なのか?か、彼女なんじゃないだろうな?」

麗奈は明らかに取り乱していた。

「まあ、告白はされたけど。でも断ったんだ。俺は今、勉強に姉さんの世話に忙しくてとても彼女どころじゃないって」

「む。それじゃなんで夕食を作ってくるなんて話になるんだ?学校も違うんだし、断ったならそれで終わる話じゃないか」

「それが、俺は断ったけど向こうはまだ諦めてないみたいで……」

「それで吉之と会う口実を作るために夕食を?吉之、悪いことは言わん。その女はやめておけ。たぶん面倒くさいぞ」

「一応中学の時仲良かった友達でもあるんだけど……」

「とにかく!私はそんな女の作った飯など食べないぞ!」

麗奈はそう言うと、ぷいと横を向いた。

「じゃあ俺が食べるから、姉さんはさっき焼いたパンでも食べてくれ。捨てるなんてもったいないだろ」

吉之はそう言うと冷蔵庫から麗奈のぶんの夕食の残りを取り出し、電子レンジで温めた。吉之は温めなおした夕食の残りを電子レンジから取り出すと、テーブルの上に置いた。麗奈はそれを眺めて

「う、美味そうだな……」

と呟いた。しかし吉之が「なんだ、やっぱり食べるのか?」と訊くと、麗奈は「いや、いらん!」と突き返した。

 吉之と麗奈がテーブルにつき、吉之が昨日の残りを、麗奈が吉之の焼いたパンを食べ始めると、麗奈が話を始めた。

「そうだ吉之。昨日、お前の追試対策を思いついたから、それについて話そうと思ってたんだ」

「お、俺の追試対策?」

「ああ。実は昨日な、夜にこっそり学校の職員室に忍び込んで、吉之の期末試験の答案を見たんだ」

「いや、それ絶対ダメなやつだろ」

「吉之のためだ、この際手段は選んでられん。それでだ、見たところ吉之はものすごい記憶力を持っているようじゃないか。私も14年も一緒にいながら気づかなかったよ」

「記憶力?まあ、たしかに物覚えは良いほうだけど、それがどうしたんだよ。いくら単語やら公式やら覚えてたって、上手く使えなきゃ意味がないだろ?」

「問題はそこだ。答案を見たところ吉之は問題の解き方を間違っているパターンが多かった。そこで私が考えたのは、とにかくたくさんの問題の解き方自体を覚えてしまうというものだ」

「解き方を覚える?」

「ああ。世の中問題の種類は無限じゃない。たくさんの問題の解き方を覚えておけば、たとえ初めて受ける試験でも問題自体は必ず覚えたもののうちのどれかと似たようなものになるはずだ。その記憶の中にある似たような問題の解き方をそのまま拝借すれば、初めて出された問題でも解くことが可能というわけだ」

「なるほど、解き方を覚えまくるという考えはなかったな。でも、そんな上手くいくかな」

「どのみち追試までは時間がない。吉之が今から短期間で成果をあげるためには、これしか方法はないと思うが?」

「まあ、他に何か妙案があるわけでもないし、ここは姉さんの言う通りにやってみるか」

そう話がまとまると、2人は朝食を食べ進めたのだった。


「なるほど、解き方を覚えるね。考えたね、麗奈」

 放課後になって部室で麗奈が朝の吉之とのやり取りで決まったことを他の部員のメンバーに伝えると、優花はそう感心した。

「私も解き方を覚えるという発想はありませんでした。さすがです先輩」

真奈美も麗奈の考えに賛辞を贈った。唯一楓だけは「大変そう……」と漏らしていたが、やるのは自分ではないからか笑顔で吉之に対して「頑張って」と言った。

「でもさ、解き方を覚えるって言っても何の問題の解き方を覚えるの?手元には私たちが1年だった時の期末試験の問題と、今年の1年が受けた期末試験の問題しかないよ。市販の問題集の問題じゃ、期末試験の解き方を覚えるってのには適さないし」

優花はそう疑問を投げかけた。これに対して麗奈は

「そこが問題でな……。知り合いの先輩に当たってみればもう2年分くらいは問題が手に入るかもしれないが、それでも覚えるべき量に比べたら全然足りない。どうしたものか……」

と打ち明けた。真奈美も

「よく宿題で出されてる問題も、期末試験の問題とは難易度が違いますもんね」

と悩んだ。一方楓は、

「東大の問題でも覚えたらいいんじゃない?日本で1番難しい大学なんでしょ?うちの学校の期末試験と通じるものもあるんじゃないかな」

と言い出した。すると真奈美が

「さすがに範囲が違いすぎて無理があると思うけど……」

と言った。

「そっか。大学の入試問題は高校3年間の範囲から出題されるもんね。いくらうちの学校が進むの速いって言っても、高1の今の段階だと知らないことも多いよね。どうしたらいいんだろう」

 5人が解決策を見いだせずに悩んでいると、部室の扉をノックする音が聞こえた。

「誰だろう?」

優花がそういいながら扉の方へと向かい

「はーい」

と答えると、外から

「美波だけど、入ってもいい?」

と返事が返ってきた。

「えっ!?美波!?どうしたの?」

優花は驚きながら扉を開けた。美波は笑顔で「ありがとう」と言いながら部室の中に入ると、手前の椅子に座り話を始めた。

「いやー、盗み聞きするつもりはなかったんだけど、たまたま廊下を歩いてたら君たちの話が聞こえてきちゃってね。要するに、期末試験の過去問が欲しいって話なんでしょ?それなら私良い話知ってるよ」

それを聞くと麗奈が反応した。

「本当か?美波。どういう話なんだ?」

「うちの学校、この部室棟の中に資料室っていうのがあってね。そこに今までうちの学校で行われた期末試験の問題が全部保管されてるんだ。だから、資料室に行って貸してもらえればなんとかなるんじゃないかな?」

「おお!でかした美波!」

麗奈はそう喜んだ。一方優花は

「資料室なんて、そんな話聞いたこともなかったけど。なんで美波がそんなこと知ってるの?」

と美波に尋ねた。これに対して美波は

「私、顔が広いからね。資料室の管理を任されてる生徒会の子とも知り合いなんだ」

と笑顔で答えた。

「資料室は生徒会が管理してるんですか?」

吉之がそう尋ねると美波は

「そうだよ。だから一般生徒は勝手に入室できないけど、生徒会室に行って許可もらえば大丈夫なんじゃないかな」

と答えた。すると今度は真奈美が

「ちなみに美波先輩は資料室に入られたことあるんですか?」

と美波に尋ねた。

「ないよ。どのみち普通の生徒は資料室に用事なんてないしね」

資料室について話を聞いた麗奈はここで

「ならば善は急げだ。今から生徒会室に行って資料室の入室許可をもらおうではないか。ほら、吉之も行くぞ」

と言って立ち上がった。


 吉之と麗奈、美波の3人が生徒会室の前へとやって来た。そして麗奈が生徒会室の扉をノックした。中から「どうぞ」という声が聞こえてくると、麗奈は「失礼する」と言って生徒会室の扉を開けた。部屋の中では生徒会の役員4人が机を囲んで何かの相談をしていた。

「あら、神崎麗奈さん?」

 麗奈が中に入ると、一番奥の椅子に座っていた青い瞳とブロンドの髪を持つ綺麗な顔立ちの女子生徒が反応した。すると麗奈が

「お疲れ様です。会長」

と、その女子生徒に対して返事をした。麗奈のあとに続いて吉之と美波も生徒会室に入った。

「あの一番奥の人が会長さんなんですか?」

 吉之が小声で美波に尋ねると、美波が小声で答えた。

「そう。生徒会長の天空橋マリアさん。3年生の成績学年トップで、ハーフで帰国子女なんだって」

「なんか、姉さんに負けず劣らずの才色兼備っぷりですね」

「うん。でも生徒会長の自分を差し置いて下級生の麗奈が校内で人気なことを、天空橋先輩は良く思ってないみたいでね」

そんな2人の会話が聞こえたのか、マリアは麗奈に対してキツめの口調で尋ねた。

「今日はまた何の用かしら?神崎さん。悪いけど、今生徒会は来月の学園祭の準備で忙しいのよ」

 これに対して麗奈は

「会長の手を煩わせるつもりはないですよ」

と答え、続けて

「生徒会が管理している資料室に入らせてほしいんです」

と言った。マリアはそれに対して

「資料室?どうしてあなたたち一般生徒が資料室なんかに?言っときますけど、資料室にはあなたたち文芸部が喜びそうな小説の類はないですわよ。あそこは学校の資料を保管しておくための部屋なだけですから」

と答えた。麗奈は吉之の追試対策のためにこの学校の期末試験の過去問が必要だということ、その過去問が資料室には保管されていると聞いたことをマリアに伝え、改めて資料室に入らせてほしいと頼んだ。

「ダメですわ」

 マリアはきっぱりとそう答えた。

「な!なぜですか!」

 麗奈は驚きつつマリアに食って掛かった。

「資料室の資料は学校の貴重な財産で、公共の利益に資する目的でしか利用を認められておりませんのよ。一個人の、しかも追試対策などに使うために資料室の資料を公開するわけにはいきませんわ」

「そ、それは……」

 麗奈が珍しく言い負かされそうになっていると、美波が会話に入ってきた。

「私からもお願いできないかな。吉之くんはそもそもこの学校の都合で入学させられたのに、それでも頑張って勉強についていこうとしてるの。なんとか留年は回避させてあげたいんだ」

「美波さん、あなたがうちの青山さんと仲がよくて生徒会メンバーの信頼も厚いことはわたくしもよく存じてます。ですがこれは学校の規則ですのよ、分かってちょうだい」

すると、マリアの隣に座っていた書記の青山七海が続いた。

「ごめんね、美波ちゃん。美波ちゃんのお願いだから私も聞いてあげたいところなんだけど、生徒の模範でいなきゃいけない生徒会がルールを破るわけにはいかないの」

「七海……」

そう七海に説得されて美波も黙るしかなくなってしまった。吉之はその様子をただ黙って見守るしかなかった。

「とにかく、ダメなものはダメですわ。用はそれだけでして?では今日はお引き取りください。わたくしたちも忙しいので」

 マリアはそう言うと吉之たちに対して帰るように促した。3人はマリアに促されるままに生徒会室をあとにした。


 3人が文芸部の部室に戻ると、真奈美が

「どうだった?吉之くん」

と吉之に尋ねた。吉之は首を横に振ると

「姉さんと美波先輩が必死に頼んでくれたんだが、ルールだからダメだって……」

「そんな……」

すると麗奈が腕を組みながら不満を漏らした。

「フン、融通の利かない生徒会長め」

そう言いながら麗奈が窓際の自分の席に座ると、美波も

「吉之くん、力になれなくてごめんね」

と謝った。

「いえ、もとはと言えば俺が追試になってしまったのが悪いので」

申し訳なさそうにこちらを見る美波を見て、吉之も罪悪感を覚えていた。

「困ったわね、もう試験まで時間もないってのに……」

と優花も頭を抱えていた。真奈美は

「とりあえず、宿題で出されたことのある問題を覚える方向で進めてみる?」

と言ったが吉之は

「それが、宿題でやった問題はだいたい覚えてるんだよな。この学校の普通の生徒なら、宿題の延長であの期末試験が解けるのかもしれないが、俺からしてみると難易度が違い過ぎて参考にならなかった」

「そっか……」

振り出しへと戻ってしまった問題を前に一同が頭を抱えていると、椅子に腰かけたきり考え事をしていた麗奈が口を開いた。

「こうなったら、アレしかないな」

「アレ……?」

麗奈の意味深な発言に、他の5人は頭に疑問符が浮かんだ。

「そう、アレだ。つまり、夜中に資料室に忍び込む!」

「え……?」

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