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第8話 芽生え

 俺は電磁波のようなものを浴びながら、炎を消したり火傷を治したりし、その間にアマネに攻撃する手段を考えていた。

 いつしか痺れにも慣れ、安定した思考と行動ができるようになっていく。

 やがて、俺はこの痺れを「浴びている」のではなく「纏っている」のだと気づいた。


 俺はとりあえず右手の人差し指を突き出して、アマネのいる方向を指差した。そして照準を合わせるスナイパーのように人差し指に力を入れる。

 その瞬間の出来事だった。

 俺は見逃さなかった。


 俺の人差し指から、恐ろしく早い速度で光の矢のような形をしたものが飛び出し、アマネの身体を狙った。

 アマネの方を見てみると、どうやら避けたようだが彼女の背後に生えている草は小火程度ではあったものの、燃えていた。


「あんた、痺れるのねっ、色んな意味で」


 アマネは「待ってました」と言わんばかりの笑顔を顔に浮かべて、スピードの上がった火球をどんどんこちらに投げつけてくる。

 俺はその火球全てに右手の人差し指で触れることができた。触れた火球を俺の指から出る光で切断し、無効化することができた。


 2、3回その技を出したので、俺はだんだんコツが掴めてきた。アマネが放つ火球を切断しながら少しずつアマネに近づいていける。


 俺たちの距離が1メートルもなくなったあたりで、アマネは攻撃方法を変えてきた。

 出す炎に、形・が・あ・る・のだ。鋭利だ。歴史の授業で学んだ石槍の先端みたいな形状で、俺の指を重点的に刺しに狙いに行っている。


 これも、切れるのか?

 俺は半信半疑の状態だったが、3方向から確かに火の槍がやってきていたので、ダメ元で人差し指を三角形を描く形に揺らした。


 炎の刃は、俺の手によって切断された。

 ぼろりと情けない燃え殻の音を立てて切断された炎は地面に落下していた。


「なんだ、この無敵感ーー」


 俺は一気にアマネとの距離を詰めようとした。距離を詰めながら、人差し指に思い切り力を込める。これを脱力するとビームのようなものが出るのだ。

 しかし俺が距離を詰めた瞬間、アマネの方から俺へと距離を詰めてきた。


 予想外だ。

 俺はしっかりとアマネの肩を狙って人差し指を構える。大丈夫だ。今すぐ発射すれば、アマネを殺さないけれども、確かにアマネを倒す程度の実力は持ち合わせていることを示すことができる。

 さあ、出ろーー。


 ビームは出た。しかしそれはアマネの身体には当たらなかった。


 俺はアマネに、いよいよビームを撃てるという刹那、右腕を掴まれていた。そのせいで照準が合わなくなり、アマネの身体をかすめもせずに稲妻は空中を進んでいき、轟音と小さな爆発と共に自然消滅した。


「掴んだら、出せないんだね」


「どうやらそうみたいだな」


 アマネはそっと俺の腕から手を離した。

 その途端、アマネからさっきのような戦意を感じなくなった。

 アマネが俺から離れるのを確認し、俺は再び人差し指の指先に力を込めた。


 その人差し指はアマネの左肩を指し示していた。


 指先から電撃が一閃発射され、アマネの左肩の上部の方の肉を少しだけ抉った。


 これが、戦闘に用いる魔法か…。

 成功したら、めちゃくちゃ気持ちいい。


 アマネに撃ち込んでしまった罪悪感よりも、魔法で相手を倒した、ということによる快楽や愉悦の方が強くなっていた。

 一瞬だけハイになってしまっていたが、俺は慌てて我を取り戻す。

 そうだ、アマネだ。俺の魔法ががっつり身体に当たってしまったけど、大丈夫なのだろうか。


 アマネは仰向けに倒れ込んでいた。俺はそんなアマネの顔を覗く。

 心配は杞憂だった。本当に嬉しがっている感じの笑顔を浮かべていた。全然死ぬようなそぶりなんか見せない。

 しかも、俺が肩に打ち込んだことによってできたはずの傷は、もうすでに治癒していた。


 それでも、一応言っておかなければ俺の心が安心しない。


「大丈夫か、アマネ」


 訊いた瞬間、アマネはむくっと起き上がって、立ち上がった。そして俺に向かって爽やかな笑顔とグッドポーズ。


「いやー、強いね、あんた。やっぱり私のことを心配したほうがよかったじゃない。まあ余程のことがない限り死なないけど」


 強者感漂うセリフだ。格好いい。

 俺は対抗して、


「炎を切断できたの、めちゃくちゃ気持ちよかった」


 という柄にもない台詞を吐いた。


「私の炎、今まで斬られたことなんてなかったから驚いた。これが第二王子の能力なのね」


「やっぱり俺、強いってこと?」


 アマネは大きく頷く。


「最初あなたのことを見た時、魔力の出力に大きなムラがあるからあまり強くないって思ってたの。でも、さっき戦った瞬間にわかった。あんたは戦っている時は逆にそれが相手にとって読めないイレギュラーな要素になる。ーー強いよ。雷の魔法の威力も凄まじかったし」


「雷の、魔法ーー」


 俺は自分の手のひらをまじまじと見つめた。

 この手から、あの電撃を放ったのか。

 この手で、戦っていたのか。


 俺は、強い。

 はっきりと言い切ることができた。

 アマネの言っていることはおそらく本当のことだ。アマネもこの世界では強い部類であるのだろう。そして、俺はそんなアマネに強い者、として認められた。

 これだけあれば、俺は自分のことを、強い、と言い切るには充分すぎた。


 俺は人差し指を少し舐めた。塩っ辛い。どうやらたくさんの手汗が応戦していく過程で出ていたようだ。


「でも!」


 突然大きな声を出したアマネに、俺は驚いて震えた。


「魔力の量の調節をしないと、強者だってバレて数でゴリ押されてしまうかもしれない。だから、これから毎日、戦闘の時以外における魔力の出力の調節を私に特訓させて」


 そう告げるアマネの頬は、少しばかり赤らんでいたように見えたのは気のせいか。


 しかし、俺はさっき魔力という概念に目覚め、さっき初めて魔力を扱った、魔法童貞卒業したての新人だ。調節なんて、わかるはずがない。


「いや、魔力の調節のことなんて、わかんないよ。だってさっき初めて俺の魔力っていうものを体感したんだし」


「私だったらその感覚を事細かに伝えてもらうだけで、魔力の抑え方をあなたに教えることができるわ」


 あまりに真剣な目でこちらを見つめてくる。

 俺はどうにかアマネの言っていることを信じてみることにした。


「じゃあ、教えてもらおうかな〜」


 アマネの顔が先刻までの何かを訴求するような顔から一転、元気になる。


「とりあえずどういうふうにしてあの魔力で魔法を使ったか、教えてみてよ」


「なんて言うかな…、すごい自然な感じってわけじゃなくて、人差し指にこう、グッ、って一気に力を入れるんだ、そしたらあんなふうになった」


「そうなんだ、天才ってこと?」


 俺が頑張って言語化したことを「天才」の二文字で片付けられた。


「え、俺天才なの?」


「訊き方を変えるわ。ーーあんたは初めの1回を出した後は、もう自然に電撃を出せたの?」


 いざ訊かれると確かにわからない。

 俺は二度目の電撃を放った時を思い出す。意識は、確かに大部分を発射口である人差し指に集中していたと思う。

 でも、明らかに1度目の発射よりも気楽だった。


「俺があの1回を出した後、人差し指に雷のようなオーラがつき始めたからかな。1度目よりも楽に電撃を放つことができるようになってたよ」


 素直に思っていたままのことを答える。


「えー、やっぱり君は天才みたいだね。バルトロメオ『第二王子』」


 その声は、アマネの声ではなかった。中年くらいの男の声だった。そして第二王子という部分で語気を強めて話していた。裏庭に通じるガラス戸のところから聞こえてきた。

 声のした方向を見てみると、タキシードを身に纏った美麗な雰囲気の男性が足を組んで立っていた。

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