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第7話 発現!

「ねえ、1回だけ戦ってみない?」


 アマネからの一言を聞いて、俺は驚いた。

 戦う? え? 俺のこと味方だと思ってくれたというか味方にしようという気があったからあの屋敷から連れ去ったんじゃないのか?


「ちょっとタイム。戦うってどういうことだよ」


「普通に、命の関わるような魔力でのやり合いをする、ってだけだけど」


 恐ろしい内容であるにもかかわらず、淡々と答えるアマネ。むしろどこか心の奥底にワクワクを隠しているかのようにさえ見えてくる。


 もうあの姉貴はいないのだから、自ら死に向かっていくような茨の道を歩む必要はないと思ってたのに。

 そんな俺の心中の心配や不安を顔から察し取ったのか、アマネは、


「大丈夫、大丈夫。殺さないと思うし、なんなら私よりもあんたの方が強いから大丈夫よ」


 これは全くもって俺にとっての励ましにはなっていない。ますます訳がわからなくなった。


 俺はついこの間まで魔法というものが存在することすら信じていなかった、現実ではない世界に夢見ていたただの可哀想な少年だ。当然魔法やそれに近しい能力が存在することもこの世界にやってきてから初めて認識した。

 つまり、魔法に関してはぺーぺーのど素人。魔法童貞だったのだ。


 そんな俺がいきなりアマネと戦い合うことができるのだろうか。そもそもまだ自分の力で魔法というものを出したことがない。

 安心させようという言葉の掛け方が下手だ。絶対この世界で早速短い生を終えてしまうことになる。


「うじうじしてないの、男でしょ? 中性的って言えば聞こえはいいけど、やっぱ男らしくない。怖いの?」


 かちん、ときた。


「わあ゛ったよ、アマネ。やるよ、早く戦う場所まで俺を連れて行ってよ」


 心にも思ってない言葉がどんどん口をついて出る。一瞬の怒りに身を任せて放ってしまった言葉が俺の身を本気で死へと近づけようとしている。

 やばい。心臓がバクバクと鳴るのを感じる。


「いいね。じゃあちょっと着いてきて」


 アマネは微笑むと、俺とマーケットさんに背中を向けた。俺は慌ててアマネの背を追っていく。


 一度玄関ロビーまで出たのちに、180度方向転換してアマネは中央階段に向かい、そして中央階段の壁に触れた。

 するとどういう仕組みかわからないが、この屋敷な数多くあるものと同じタイプのドアが階段の物置きが一般的に作られている場所に現れた。


「すごいな、やっぱりこれもアマネの家の術式なの? 馬の首以外隠したりしてたやつと同じタイプのやつ?」


「そうね」


 アマネはドアをゆっくりと開けた。

 ドアを入った右手に、透明なガラス張りの扉があった。そこからは草花が芝生に揺らいでいるミニマムな自然を瞳に映してやることができた。


「この裏庭、普段入ったら怒られちゃうの。でも、バルトロメオが来たからもう怒られてもいい。裏庭で1回、バルトロメオと戦いたい」


 そう語るアマネの顔はかなり真剣だ。

 アマネはガラス張りの扉の方へ行くと、そっと左手をかざした。するとだんだんガラス張りの扉の中に、ガラスの中心を中心として丸い穴が空き始めた。


「すげぇ…」


 いくらここがガチファンタジーの世界だということがわかっていても、いざ某有名な英国の魔法使い映画のような演出を目の当たりにしてみると驚きを隠しきれなくなる。

 本当に、魔法の世界なんだなと思う。


 ガラスにぽっかり空いた穴から、俺たちは外の庭に出た。アマネの言い方を借りれば、「裏庭」である。

 裏庭は広い。テニスコート1面分ほどの広さがあるため、おそらく裏庭というべきではないような存在だった。


 アマネは俺から少し離れた方に行ってから、背伸びして爪先立ちをしては踵を地面に下ろす、という動作を繰り返していた。緊張感をほぐしているようだった。もしくは、


「早く心の準備してよ。私はもう全然今からでもいいのよ?」


 といった意味を内包する煽りを示そうとしていたのかもしれない。

 俺は両頬をビンタした。前世でのスポーツの大会の試合前にも必ずやっていた行動だ。自分の心を奮い立たせて、俺はアマネの目の前に立った。


「お手合わせさせてもらおうじゃない」


 アマネが漂わせている雰囲気が明らかに変わった。目元は、今までよりも無邪気で、されど猟奇的な感じになっている。

 アマネは少し首を振って自分の髪を整えた。

 それと同時に、アマネは炎の球を放ち始めた。


 俺の体に緊張が走る。

 だが不思議となぜか精神的には冷静さを保ててはいた。根拠はないが、なんとなく「勝てる気がした」からだ。

 その勘を根拠を持ったものにするために、俺はアマネの放つ技を、避けながらも一度観察してみることにした。

 技ということだから、必ずどこかでインターバルを要するときが来るはずだ。

 そうしてできた隙を見つけ出す。

 そこから、俺が人力で撃ち込める打撃を与えると言う方法を思いついた。


 しかし俺はその行動で勝ちを取りに行くのをやめた。気づいてしまったからである。


 ーーいや、でもこれ魔法じゃねえな。


 やっぱり俺はアマネに魔法で戦いを挑まれたのだから、初めてでも、魔法を使って勝ってみたい。

 俺はとりあえず打撃を入れるという案を脳内から却下し、観察していくことに徹した。

 そして観察しつつわざと自分自身をピンチに追い込む。ーー普通、一般的なファンタジーならこれをしていくうちに能力を持たない者が能力に目覚めるからだ。

 これは賭けだ。「俺はピンチに陥ったら、この人生において初めての魔法を使うことができる身体の持ち主である」という仮説に全ベットした、賭けだ。


 炎の球は一度にいくつも繰り出され、俺がどこにいても当てられるようにさまざまな方向から満遍なく撃ち込まれている。

 これは逃げながらいろいろなことを考えるのは不可能だと見た。


 いや、でもこれで構わない。あえて炎を受けてみることで俺のこの身体は「バルトロメオ」が本能的に持っている何かしらの魔法を反射で繰り出すはずだ。


 炎がどんどん俺の体に近づいてくる。肩、耳、左足にほんのり熱気を感じ始めた。

 これでいい。とりあえず一度炎を受けてみて、あえてこの身体を極限状態にまで追い込んで魔法のようなものが発現するかどうかを確認するだけだ。


 発現した場合、そのときと同じような感覚を自己暗示をかけて発現した魔法を再現して攻撃に転用する。

 発言しなかった場合、もっと激しい攻撃を受ける。受け続けて、発現するか待つ。これを繰り返す。


 俺は右足、次に耳、最後に肩から灼熱に襲われた。これが本物の炎か、かなり熱い。思っていたよりも熱い。命に関わるということを実感する。


 さあ、発現しろーー。


 俺は微かに願う。その瞬間、俺の体を今度は電磁波のような痺れが襲った。痺れの代わりに、炎の熱さもない。炎が当たった体の位置を見ても、炎の玉はついていなかった。

 そしてその代わり、身体の周りに稲妻のようなオーラがパリパリと小さな音を立てながら巻き起こったのを目視。

 これ、覚醒の前振り的なアレなんじゃないの?


「いいじゃん…」


 アマネの口角が微かに上がったのを俺は見逃さなかった。

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