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第6話 計画通り

アマネ過去編です。一旦挟ませてください。

 アマネは屋敷を案内されるバルトロメオを見送ると、はあ、と嬉しさの入り混じったため息を溢した。なんせアマネの夢の実現のために必要なピースを得ることができたのだから。


⭐︎


 アマネは第二王子離宮にて軟禁されていた。

 いや、正確には軟禁「されに行った」と言うべきか。

 この軟禁からの脱出を自身の成長と、そして自身の夢と野望を叶えるためのピースにする。


 あえて自分の名で第二王子のことを貶すような声明文を発表するだけだ。

 それだけでアマネのことを狙ってやってきた第二王子離宮の者たちに誘拐されることができた。


 誰かが第二王子離宮側の人死にを前提とした救出にくることはないだろうと踏んで、この地を選んだ。

 なぜなら第二王子という存在は、本当にごく一部の権力者以外には都市伝説としての根拠のみ語り継がれているからだ。おそらくここで第二王子に悪口を言っても、王国の新聞屋はそんなことを発表なんてしない。

 おおごとにならない、という確証が持てたからだ。


 そして、アマネは軟禁されながら「第二王子」という存在について考え始めた。

 王国の発表では、第二王子となる予定だったバルトロメオは、生まれてから割とすぐに金属アレルギーを発症して死んでいるということだった。

 これは王の血を持つ一族にとっては恥ともなり得ない声明だ。でもこれだけの声明を出してまでその存在を隠すことになる理由があるはずだとアマネは推測した。


 一つは、弱すぎて王家の恥というように扱われかねないから。

 そしてもう一つは、バルトロメオの持っている能力が突然変異的に高いために王家ですら扱いきれなくなってしまったから。


 どちらの理由も考えうる。

 アマナはそんな中、後者に賭けた。

 もし後者だったら、計画のためにアマネと対等な同僚として圧倒的能力を活かして戦ってもらえばいいのではないか?


 ーーやがて、そのギャンブルが確信に変わる瞬間がやってくる。


 第二王子離宮は、この世の人間とは思えない、まるで強化したゴブリンといったモンスターと言う方がふさわしいようなガチムチマッチョ体型の男たちが守っていた。


 一体どんなものを守るためにこんなに厳つい人たちを使っているんだろう。アマネは不思議でたまらなかった。しかし、以前考えていたことを思い出してみた。


 モンスターでできているかのような護衛隊は、無論王国のそれよりも防御面においては充分屈強であった。


「もしかすると、魔力が暴走してもいいようにここに隔離し、あんなに厳つい男たちを屋敷に配備している…」


 だんだんと今までの自分の「妄想」と「賭け」が一つに繋がっていくような感覚がやってくる。言い知れぬ快楽も付随する。

 

 アマネは毎晩その屈強な護衛たちから強姦されていた。手錠や鎖などはその時以外嵌められなかったのだから割と甘い方だったのだと追憶する。

 10日ほどの軟禁生活の中、九夜護衛たちから犯された。初めの方は痛みこそ感じたが、「この痛みを乗り越えると自分は夢に一歩近づける」と思って我慢していた。


「私を襲いにくる人たちは、確実に合鍵とスペアキーを持っているはずだ」


 軟禁の日々の中盤あたりでアマネは気づいた。

 それ以降、毎日犯されながらも男たちの懐から鍵をくすねるタイミングを見計らっていた。


 見計らい始めてから三日後。

 その日の襲撃は早朝に行われた。男が強引にドアを開ける音で目が覚めた。

 今日の者は道具を用いない純粋な欲望をぶつけてきた。


 これは好都合だ。アマネはほくそ笑んだ。

 アマネの笑みを性的な快楽だと勘違いした男は、さらに興奮して行為をスピードアップさせる。

 そしてついに男のシャツのポケットからカギのチェーンが出ているのを確認した。


 鍵のチェーンを男の押し引きの勢いに合わせて一気に引っこ抜くと、慌てて枕の下に隠す。

 しばらくすると、男の方は疲れたらしい。


「じゃあな、クソガキ。なかなか骨のあることさしてくれんじゃねえの」


 そう台詞を吐いて彼は部屋から出て行った。ーー部屋の鍵を取り返すのはおろか、部屋の鍵を閉めるのすら忘れて。

 これは脱出のチャンスだ。私の計画の始まりを告げる音が鳴り響いているぞ!


 高鳴る鼓動を落ち着かせた。まだ焦ってはならない。第二王子をこちらに持ち帰ることも自分の夢のために自分に課した試練ではないか。


 アマネが男から部屋の鍵を手にした日の夕方のことだった。部屋の窓から、第二王子を目にした。


「へえ、こんな人が、本当にいたんだ」


 青い衣装を体に纏った少年が、おそらく自分の部屋の隣の隣の部屋の窓から庭の芝生に落下していくのを目撃した。

 アマネは直観した。この人が、第二王子だ、と。


 次に魔力を観察した。穏やかなオーラを纏っているような細身の少年だったが、感じ取ることのできる魔力量は絶大だった。おそらく王家と同じく雷の魔法の類いを操ることができると見た。

 王家ーーロースター家も絶大な雷魔法の魔力を誇る名家の血筋であった。一度ロースター家との交流会で一族に対面したことがあり、確かに絶大な魔力量を誇っていたのは覚えている。

 だが、それも今確認したこの少年の魔力には遠く及ばないということがわかった。


「ふーん、いいじゃん」


 アマネは心の中で呟いた。何せ彼女も一族の中ではイレギュラーというふうに評される魔力量の持ち主だったからである。

 純粋に、一度この第二王子の能力を見てみたい。欲を言えば、一度お手合わせしてみたい。


 最初に第二王子に対して抱いていた欲望とはまた別のタイプの欲望が心の底から沸々と湧いてくるのを感じた。

 だが、そのわくわくは一瞬で打ち砕かれた。


 この少年の能力が荒削りだと言うことまで読み取ってしまったのだ。安定感がない。魔力量の最低値も一応王家の血筋の最高値よりかはあるが乱高下が激しい。さっきの安定した状態での読み取りは奇跡に等しい状態だったのか。


 今度はお手合わせを願いたくなる理由が変わった。この少年の力を測ってみるとともに、魔力の安定の仕方を叩き込んであげよう。何せこれから一緒に歩いて生きていくのだから。


⭐︎


 アマネは玄関口で、いろいろなことを追憶した。

 とりあえず第二王子と思われる人物を連れてあの家を脱出できたのだから、彼女としては今のところ万々歳だ。


 隣の壁にかかっている時計に目をやった。


 そろそろ屋敷でマーケットが見せたがっている場所を全て見終えただろう。

 マーケットがいつも客人や新しく入った人に見せる場所、厨房の方へと向かっていくことにした。


 厨房の方には、やはりバルトロメオと若い頃の姿になったマーケットが立っていた。


 彼女はにやけ面を隠すような表情をしてバルトロメオに近づいて行った。


「ねえねえ、1回だけ戦ってみない?」

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