第九話 わたしは処断された
「そうよ。あなたはルシャール殿下のやさしさに対して、なぜそんな酷い返し方をするの!」
継母がそう言えば、オディナティーヌも、
「心やさしいルシャール殿下にこのような対応をするなんて……。なんて酷いことをするの、お姉様!」
と言ってくる。
しかし、内心は三人とも喜んでいるのだろう。
自分自ら「処断」への道を進んでくれていると。
それは理解をしている。
それにしても情けないのは、ここに来るまで、三人がわたしの婚約破棄、そして「処断」に動いていることを全く知らなかったことだ。
継母はわたしに嫌味を言うことは多かったが、このような大胆な企てをするほどの人物だとは思わなかった。
そして、オディナティーヌはわたしに従順で、今まで反発したことはなかった。
それが、いきなりこういう形で反発をしてくる。
想像もしなかったことだ。
感情的なところはあったにしても、わたしはオディナティーヌのことを大切に思ってきた。
それが全く通じなかったどころか、このような仕打ちをするのだから、もう何も言う気がおきない。
ルシャール殿下についても、今までオディナティーヌを婚約者にしようとしているとは全く思っていなかった。
最近、わたしと会う時間が減っていたとはいうものの、会っている時は、いつも微笑んで対応していて、わたしのことを嫌だと思っている様子はなかったからだ。
とはいっても、前兆がなかったわけではない。
今思うと、最近、ルシャール殿下がわたしと会いたがらなかったのは、オディナティーヌと会うようになっていたからだろう。
そうして二人の仲を深めていたのだと思う。
そして、今日の作戦を立てる為、継母も呼ぶことがあったのだろう。
わたしは、そういう動きを全く知らないまま、ルシャール殿下との結婚生活を夢見ていたのだった。
もはやその夢は破れた。
婚約も破棄され、生命さえも失ってしまうところまできている。
それでもわたしは反発したい。
「ルシャール殿下、わたしは正しいのです。ボードリックス公爵家を追放され、『処断』されることは、絶対に認められません!」
わたしがそう叫んだ。
叫んだとしても、どうにもなるわけではない。
いや、むしろルシャール殿下の怒りを買うだけだろう。
しかし、それでも叫ばずにはいられなかった。
ルシャール殿下は、予想通り。
「リディテーヌが反省しない以上、『処断』をするしか方法はなくなった。このものを連れて行け! これから数日後に処断を行う!」
と叫んだ。
ついに、わたしの処断は決してしまった。
ルシャール殿下が叫んだ後、わたしは護衛たちに腕をつかまれる。
そして、この会場から追い出されてようとしていた。
ルシャール殿下も継母もオディナティーヌも、わたしのことを嘲り笑っている。
「わたしに歯向かうものはこういうみじめな思いをするのだ」
「いい気味ね」
「わたしをイジメるからこうなるのよ」
と言う声が聞こえてくる。
出席者たちの多くも、声には出さないものの、
「いい気味だ」
と思っているに違いない。
それが悔しくてたまらない。
「無礼もの! わたしから離れなさい!」
わたしはそう叫ぶ。
しかし、ルシャール殿下に命令された護衛たちが聞くわけはない。
「わたしはなぜ処断されなければならないのでしょう? ルシャール殿下、わたしは納得することができません!」
わたしは最後にもう一度そう叫んだ。
しかし、その言葉は、誰の心にも届くことはなかった。
自分がみじめでたまらなかった。
わたしは自分が処断されることに納得がいかないまま、その数日後、処断され、その短い生涯を閉じた。