第八十八話 わたしに屈服する継母
ただ、わたしが継母との戦いを避けたいと思っている理由は、それだけではない。
先程も思ったことではあるのだけれど、わたしは継母をいい方向に進ませてあげたいと思っていた。
それは、お父様の存在によるところが大きい。
お父様は、継母を愛している。
それは、今も変わらない。
継母の方も、お父様を愛しているとは言っているので、仲睦まじい状態が続いていると言うことはできる。
お父様は、心の底から継母を愛していると言える。
お父様自身、最近も継母に対して、
「わたしは何年経ってもお前のことが好きだ」
と言っていた。
継母のおねだりに応じるのも、仕方がないことだとは言える。
しかし、継母の方は、お父様の思いのままに動かしたいだけで、心の底から愛しているとは思えないところはある。
ただ、わたしはお父様の継母を思う意志は尊重したかった。
継母とリディテーヌはいつも戦っていたので、お父様はその度に心を痛めていたのだ。
お父様としては、愛する継母に肩入れをしたい気持ちは強かったのだろう。
でもリディテーヌだって、お父様の娘。
結局、どちらに肩入れもできない状態だった。
戦わなくなれば一番いいのだけど、どちらも譲る気はないので、それはかなわぬ夢だった。
戦わなくなるには、わたしも継母も変わらなくてはならない。
わたしは既に生まれ変わる努力を続けていたのだけれど、継母は以前のままだった。
ここで、わたしが継母をいい方向に進ませてあげれば、自然と対立はなくなっていき、少なくとも普通の関係になっていくのではないかと思っていた。
そうすれば、お父様が心を痛めることはなくなるだろう。
その為にも、わたしは穏やかな態度で継母に接していこうと思い、それを実行し続けていた。時間がかかるかもしれない。
しかし、やがて、継母にわたしの思いが伝わっていくだろうと思っていた。
しばらくの間、継母は、黙り込んでいたのだけれど、やがて、
「まあ、結局のところ、わたしの負けね。わたしは、今日、あなたに屈服したことになるわ。悔しい気持ちは強いし、残念なことだと思っているのだけれど、仕方のないことよね」
と言った後、涙を少しこぼし始めた。
そして、
「今日は、あなたの『お母様のことを尊敬しています』と言う言葉と、その後のあなたの言葉がわたしの心に入っていったのと、ずっと穏やかな態度をあなたは取っていたので、最後まで攻勢に出ることはできなかった、あなたの勝利ね」
と言った後、しばらくの間、うつむいて涙を流していた。
わたしは継母がそう言ったことと涙を流していることに驚いた。
そして、これで継母がいい方向に進んでくれることを願っていた。
しかし、継母は、涙を拭くと、
「わたしは、あなたがボードリックス公爵家の恥になることを覚悟しているし、仕方がないことだと思っているわ。でも、もし、ボードリックス公爵家の恥になったとしても、最小限で抑えてもらうのが、わたしのあなたに対するお願いよ」
と言ってきた。
トゲのあるいい方に戻っている。
これはつらい。
いい方向に進み始めたと思ったのに……。
そう思っていると、継母は、
「ただ、こういうことを言うのは、あなたにとってはきついでしょうね。今日、あなたの話してくれたことは、わたしの心には残らなかったわけではない。あなたがご招待の時、上手に対応できれば、あなたの評判も高くなるけど、わたしやボードリックス公爵家の評判も高くなると言ったこと。まあ、あまり期待はしていないけど、期待は全くしていないわけではないから、ご招待に応じるからには、一生懸命努力してほしいわね」
と続けて言った後、笑おうとしたのだが、また涙をこぼしていた。
まだ、わたしのことを受け入れようとする気は少ないと思う。
しかし、継母は、
「期待は全くしていないわけではないから、ご招待に応じるからには、一生懸命努力してほしいわね」
と言ってくれた。
この言葉は、まだまだ少しではあるものの、わたしの対する対応がいい方向に変わってきていることを期待させるものだ。
この傾向がさらに進むとうれしい。
わたしも、やさしく微笑みながら、
「お母様のご期待に応えられるように一生懸命努力します」
と言った。
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