第八十七話 継母の怒りはさらに弱まっていく
もしここで継母に許してもらえなくても、招待には応じる。
いや、応じなくてはならなかった。
何よりも公爵家当主のお父様が既に招待に応じている。
この時点で、招待は成立しているのだ。
そして、オクタヴィノール殿下とわたしは相思相愛。
招待に応じ、婚約、結婚へと進んでいきたい。
それだけわたしはオクタヴィノール殿下のことが好きだし。オクタヴィノール殿下もわたしのことが好きだからだ。
継母はまたしばらくの間、黙っていた。
怒りの方はさらに弱まってきている。
しかし、わたしに対する反発とわたしの言葉に対する納得ということが、心の中で戦うことになり、整理がつかなくなっているようだ。
やがて、継母は、
「わたしは、まだあなたに今回のご招待を断ってほしいという気持ちは強いのよ、しかし、あなたの言うことも理解できる自分がいる。悔しいことだけれど、あなたが招待に応じる気持ちを持ち続けている以上、公爵閣下もこのご招待に応じると言っているので、残念でたまりませんが、わたしも従うしかないのでしょうね。ああ、悔しい。もともと公爵閣下は、今回に限り、わたしの意見に賛成してくださらなかった、最近、わたしの言うことは何でも聞いてくださっていたのに……。この頃、贅沢するようになってきて、高価なプレゼントをおねだりしたのが良くなかったのかしら」
と言って肩を落とした。
わたしは、この最後の言葉を聞いて、少し驚いた。
継母は、自分が贅沢をし始めていることを認識している。
これならば、まだこれからいい方向に進めそうな気がした。
継母は、このまま進めば、ボードリックス公爵家の実権を握る立場になる。
その人間が、重税で領民を苦しめるということをしてはならない。
今の内に、贅沢を抑えられるようになれば、そのようなことになる可能性は少なくなる。
わたしは、そうした状態のところを前提として、継母とのこれからの対応で、継母をいい方向に向かわせたいと思っている。
そう思っていると、継母は、
「まあ、いいわ。オクタヴィノール殿下のご招待に応じることをわたしも許すことにするしかなさそうね。悔しくて、悔しくてたまらないのだけれど……。今までは、あなたに負けたと思ったことはなかったけれど、このままでは、わたしが負けてしまうことになる。それは嫌なことだわ」
と悔しそうに言った。
転生のことを思い出す前のわたしであるリディテーヌであれば、さらに継母に戦いを挑んでいくことだろう。
そして、自分の勝利を決定づけようとしたと思う。
しかし、今のわたしは、勝ち負け以前に、継母との戦いは避けたいと思っている。
リディテーヌは継母と戦い続け、その戦いに負けた。
「婚約破棄」され、「公爵家追放」されて、「処断」されることになってしまったのも、継母との戦いに負けたことが、結局のところ大きな要因となっている。
本人はまだ負けを認めていないものの、今回は、継母に勝ったと言っていい。
しかし、「つらい思いをしてきた少女は、素敵な人に出会い、溺愛されていく」でのリディテーヌのように、継母と戦い続ければ、どこかで負ける可能性はある。
継母がそれを好機として攻勢を始めると、せっかくオクタヴィノール殿下との関係がうまくいき始めているというのに、その関係を壊す要素にもなりかねない。
ゲームでのオクタヴィノール殿下ルートでのオクタヴィノール殿下とオディナティーヌの関係と同じ時期で比較すれば、オクタヴィノール殿下とわたしの関係の方が深まっている。
少々のことでは壊れないとは思う。
しかし、継母の力をあなどることはできない。
その意味でも、継母との戦いは避けたいと思っていた。
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