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第七十六話 婚約の申し出

 わたしは、継母の嫌味に対し、いつも、


「ご忠告ありがとうございます。でもオクタヴィノール殿下は、ありがたいことに、わたしに好意を持っていただいております。これからも仲を深めていきたいと思います。ボードリックス公爵家の名になるように、一生懸命努力をしていきます」


 と言って頭を下げていた。


 継母はその度に。


「あなたにそういう第度を取られると、それ以上言う気力がなくなる。あなたが嫌味を言ってきたら、何倍にも返してあげるのに……」


 と口惜しそうにしていた。


 今はまだ少し時間が経つと、またわたしに対する嫌味を言う気力が戻ってくるようだ。


 でもわたしがこの対応を続けていけば、その内、嫌味を言わなくなるか、言ったとしても、力のないものになってくれるのでは、という期待を持っていた。




 八月に入り、夏休みになった。


 わたしが住んでいるところは、七月と同じで、八月も暑くなる。


 ただ、ある程度の湿度はあるものの、蒸し暑さはそれほどない。


 わたしの出発点の人生で住んでいたところは、八月になると、蒸し暑くてたまらなかった。


 もちろん夏は夏で楽しい思い出もあったのだけれど、暑さに弱いわたしなので、つらい思い出の方が多い気がする。


 今も暑さに弱いのは同じだ。


 ただ、蒸し暑さがそれほどないのと、八月に入ると、夜は結構涼しくなってしのぎやすくなるので、わたしとしては助かっている。


 学校が休みになるので、一週間に一度の逢瀬が、三日に一度に増えた。


 これはうれしいことではあったのだけれど、わたしはそれでも満足はできなかった。


「オクタヴィノール殿下に毎日会いたい。一緒に過ごしたい」


 この気持ちは強くなっていく一方だった。




 そう思っていた八月中旬のある日。


 わたしは今日もオクタヴィノール殿下に招待を受けていた。


 三日に一度会えるようになっていたとはいうものの。会えない日は寂しくてしょうがない。


 しかし、オクタヴィノール殿下と会った途端、そういう気持ちはすぐに忘れてしまった。


 それほどオクタヴィノール殿下は素敵な方なのだ。


 庭でお茶会をした後、オクタヴィノール殿下の寝室で二人だけの世界に入っていくのがいつものパターンになっている。


 今日もオクタヴィノール殿下と一緒に、恋人どうしとして過ごせてうれしい。


 特に二人だけの世界に入っていけることが何よりもうれしい。


 ああ、殿下、好きです!


 そうわたしが思っていると。


「リディテーヌさん、今日は、あなたに大切な話があります」


 とオクタヴィノール殿下は言ってきた。


 真剣な表情だ。


 まさか、別れ話?


 もしそうだったら、つらさと苦しさと悲しみにより、この場で泣き伏してしまいそうだ。


 一瞬そう思ったのだけれど、わたしたちは、二人だけの世界にも入った仲。


 それはありえない話だ。


 では、何だろう?


 そう思いつつ、オクタヴィノール殿下の次の言葉を待つ。


 すると、オクタヴィノール殿下は、


「リディテーヌさん、わたしはあなたとまず婚約したいと思っています。そして、結婚したいと思っています」


 と言った。


 わたしは、とても驚いた。


 婚約……。


 オクタヴィノール殿下がわたしと婚約したいと言っている。


 もちろんわたしも、オクタヴィノール殿下と婚約し、結婚したいと思っていた。


 しかし、それはもっと先のことだと思っていた。


 オクタヴィノール殿下ルートで、主人公のオディナティーヌとオクタヴィノール殿下が婚約するのは、学校を卒業した後の四月だ。


 そのことからすると、想像しなかったほどのスピードで、オクタヴィノール殿下とわたしの仲は深まっていると思う。


 うれしいことではあるけれど、戸惑うところはどうしてもある。


 オクタヴィノール殿下は、


「急にこのような話をあなたにして申し訳ありません。しかし、わたしたちは、この一か月ほどで一気に仲を深めました。わたしはあなたが好きでたまりません。あの舞踏会の日以来、わたしはあなたのものになったのです。それだけではなく、妃としても十分な能力があることも理解いたしました。どうか、わたしとの婚約をまず受け入れてくださいませ。お願いです。わたしはあなたと一緒に幸せになりたいのです。そして、あなたと一緒に、ルクシブルテール王国の国民を幸せにしたいのです」


 と言った後、頭を下げた。


「面白い」


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