第七話 処断を決断するルシャール殿下
ルシャール殿下はまた言葉を切り、心を整えた後、
「リディテーヌは、通っている学校でイジメをしていただけではなく、自分の母親に対して酷い扱いをし、自分の妹をイジメ続けた。そして、それだけではなく、わたしのことをこの場で愚弄し、権威を傷つけた。これは、リディテーヌとの婚約を破棄するだけではおさまることではなく、処断しなければならないほどのことだ。したがって、リディテーヌはこのルシャールの命にて、ボードリックス公爵家から追放する。そして、ボードリックス公爵家の人間でなくなったリディテーヌを、このルシャールの命にて処断することとする」
とこれまでにない厳しい表情で言った。
ルシャール殿下の口から、ついに「処断」という言葉が発せられた。
「処断」ということは、わたしの生命が奪われてしまうと言うことだ。
それと同時に、ルシャール殿下の護衛がわたしの周囲を取り囲み、その中の一人がわたしに剣を突きつけてくる。
わたしは一瞬恐怖を覚えた
しかし、ここでわたしを斬ることはありえない。
そう思うと、恐怖心が少しずつ薄れてくるとともに、怒りが沸き出し始めた。
出席者たちは、騒然とする。
継母とオディナティーヌは、表情を変えないようにしているが、うれしさを我慢しているように思える。
なぜわたしがそんな目に合わなければならないのか!
納得がいかない!
「ルシャール殿下、わたしは名門ボードリックス公爵家の人間です。いくら殿下が権限を持っているといえども、ここでわたしをボードリックス公爵家から追放することなどできませんし、まして処断することなどできませんわ。ルシャール殿下はそんなこともおわかりなされないのでしょうか?」
わたしはあふれてくる怒りをなんとか抑えながら、ルシャール殿下に対し反論する。
ルシャール殿下はそれに対し、
「リディテーヌよ。わたしは既にこの王国の権力のほぼすべてを握っている。わたし自身がこの王国のことをすべて決めるのだ。名門公爵家の人間だろうがなんだろうが、関係はない。わたしのことを愚弄し、権威に傷をつけた時点で、きみはボードリックス公爵家を追放し、処断されることは決まったのだ」
と今度は少し冷たく笑いながら言った。
「それは横暴すぎるのではありませんか? ちょっとお気に召さない発言をしただけで処断をするなどというのは、器が小さいとしかいいようがありませんわ」
わたしもルシャール殿下に負けないように冷たく笑いながら言うと。殿下は、
「よくもわたしを器の小さい人間と言ってくれたな! ますますきみのことが許せなくなってきた!」
とまた怒り始めた。
すると今まで黙っていた継母は、
「リディテーヌよ。あなたはどこまでボードリックス公爵家の権威に傷をつけようとするのですか? 母親として恥ずかしくてたまりませぬ」
と言い出し、オディナティーヌも、
「あなたのことを姉と敬っていたのに……。わたしは悲しくてたまりません」
と言う。
言いたい放題だ。
この二人のおかげで、どれだけわたしが迷惑をこうむってきたことだろう。
そのことを棚に上げてよく言えたものだ。
ルシャール殿下は、
「二人の言うことはもっともだ。この横暴な人間に対して、今までよく我慢してきたね」
と今度は継母とオディナティーヌにやさしい言葉をかける。
継母が
「ありがたきお言葉でございます」
と涙をこぼしながら応えると、オディナティーヌも、
「わたしたちをいたわっていただき、ありがとうございます」
と涙をこぼしながら応えた。
わたしは苦笑いをせざるをえない。