第六十二話 褒められたダンス
オクタヴィノール殿下とわたしのダンスは終わった。
この会場に静寂が訪れる。
この後、わたしに対して、
「あなたのような人が、オクタヴィノール殿下のような素敵な方と踊るなんて、身の程しらずが!」
「このような腕前で、このような場所に出てくるなんて……。普通の人だったら恥ずかしくて、家にいるレベルだわ。それなのに、よく平然と踊ることができるとは……。あきれてものが言えないわ」
といった酷い言葉を言われるのでは?
わたしはそう言われるのを覚悟した。
もしそう言われたら、頭を下げればいい。
そして、すぐこの場を去ればいい。
ここは舞踏会の場。
この後は、次の人たちが踊ることになるので、わたしに対して少なくともこの場ではそれ以上の酷い言葉を言うことはないと思う。
もちろん、わたしが、ダンスが下手だという話は残り、笑いものになるかもしれないけれど、それは仕方のないことだと思う。
オクタヴィノール殿下には申し訳ないレベルだったかもしれない。
しかし、わたし自身は決して、舞踏会に出ることができないほどダンスが下手だとは思っていない。
そして、わたしはここで全力を尽くした。
最初はぎこちなかったのだけれど、オクタヴィノール殿下のリードもあって、最後の方では今まで踊った中でも、一番と言っていいぐらいの出来になったと自分では思っている。
それが認められないのであれば仕方がない。
オクタヴィノール殿下の印象は、今は最悪になるかもしれない。
でもオクタヴィノール殿下は優れたお方だ。
今日のわたしの努力は、少し時間が経てば認めてくれるだろう。
そうすれば、やがて、仲良くなるチャンスはつかめるはず。
そう思っていると、拍手が少しずつ聞こえ始めた。
気のせいだろうか?
一瞬そう思った。
しかし、拍手は一気に出席者全体に拡大していく。
ルシャール殿下の時も拍手は大きかったのだけれど、わたしたちに対する拍手も大きいものになっていた。
継母も拍手をしている。
わたしに対してどういう思いを持っているかはわからない。
でも拍手をしてくれるだけでもありがたいと思う。
そして、ルシャール殿下とオディナティーヌも拍手をしていた。
今までは、二人に対して複雑な思いがあったけれども、こうして拍手をしてくれていると、そういうものが薄れていく気がする。
そして、ありがたい気持ちになってくる。
こうした出席者たちの拍手を受けるのは、ありがたいことだし、うれしいことだ。
こういう状態は想定できていなかったので、より一層、そうした気持ちが強くなってくる。
しかし、一体、これはどういうことなのだろう?
皆さん、わたしたちのダンスを褒めてくれているのだろうか?
いや、「わたしたち」ではなく、オクタヴィノール殿下のダンスを褒めているのだろう。
わたしからしても、オクタヴィノール殿下のダンスは良かった。
それが、全体的な評価につながり、わたしへの酷い言葉にはつながっていない可能性はありそうだ。
いずれにしても、オクタヴィノール殿下は素敵ということだ。
そう思っていると、
「リディテーヌ様も素敵だったわ!」
という声が聞こえてきた。
わたしは一瞬、何かの聞き違いかと思った。
転生一度目でルシャール殿下と踊った時は、どんなに上手に踊れたと思っても、声援はルシャール殿下に対してのものだった。
リディテーヌという個人としては、一度も声援を受けたことはない。
「悪役令嬢」化していたので、仕方のない面はあるのだけれど……。
それが今は、わたし個人として声援を受けている。
胸にだんだん熱いものが込み上げてきた。
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