第六話 決断に向かうルシャール殿下
「リディテーヌ、きみはどこまでわたしを愚弄するのだ! これ以上愚弄すると、ただではすまされないぞ! わかっておるのか?」
ルシャール殿下の怒りはますます増してきている。
「何をそこまで怒っていらっしゃるのでしょう? わたしはただ殿下がいとも簡単に、讒言を信じていること対して、異議を申し立てただけだと言うのに。たったそれだけのことで愚弄したことになるのでしょうか?」
「わたしはこの王国の王太子だ。そのわたしに対して、『讒言を信じる』だの『暴君コースまっしぐら』と言うだけでも十分愚弄したことになる。いや、わたしに対して反旗を翻したのと同じだ。それだけでも本来は処断の対象になる。しかし、今ならわたしに謝れば、それだけは回避してやろう。ただし、それでも当分の間は幽閉されることになる。わたしを愚弄したのだから、それは当然のことだ。さあ、どうする! 謝るのか謝らないのか!」
処断!
幽閉!
ルシャール殿下もずいぶんと大きく出たものだ。
確かにルシャール殿下は、国王陛下に権限の多くを移譲されていて、この王国の臣下を処断する権限も持っている。
しかし、わたしはボードリックス公爵家の令嬢。
いくらルシャール殿下でもこの程度で処断や幽閉ができるわけがない。
「ルシャール殿下こそ冗談がお上手ですね。ルシャール殿下がそんなことをおっしゃられるとは。冗談をおっしゃっておられるというのに、なぜ謝らなければならないのでしょう?」
「うーむ。わたしの言っていることを冗談だと言い続けるとは……」
ルシャール殿下は厳しい表情で腕を組む。
「婚約破棄を宣言するなどということは余興として、わたしとの婚約を続けてくださるようにお願いいたします。そして、わたしに讒言をしたこの継母とオディナティーヌをボードリックス公爵家から追放してくださいますようお願いします。このようなものたちは、ボードリックス公爵家の恥だと私は思っております。わたしを妃にして、一緒に夫婦として生きていくことが、殿下の名君の道につながっていくのです!」
わたしは力強く言った。
それに対し、継母は、
「あなたは何を言っているのです。わたしはあなたのことを大切に思い。ここまで育ててきたというのに、それを忘れて、『追放する』などとなぜ言うのですか!」
とわたしに怒りを込めて言ってくる。
オディナティーヌも、
「あなたのわがままさ、傲岸な態度にどれだけわたし、そしてお母様が苦しめられてきたのか、あなたにはわかっているのですか! それを反省するならまだしも、逆に反撃してくるとは!」
と怒りながら言ってきた。
わたしのことを、お姉様ではなくて、あなたという言葉で呼ぶようになっている。
オディナティーヌは、わたしのことを姉とは思わなくなっているのだろうか?
わたしはそれに対して反撃しようとするが、またしてもルシャール殿下に遮られる。
「リディテーヌよ。わたしはオディナティーヌが言ったように、きみが自分の今までしてきたことをここで反省するものと思っていたのだ。そうすれば、婚約破棄だけですまそうと思っていた。しかし、きみの態度はなんだ! わたしのことを愚弄するばかりではなく、継母とはいえ母である人、そして、血はつながってはいないとはいうものの、妹であるオディナティーヌを『追放する』などと言うとは……。怒りを通りこして、あきれてしまうばかりだ」
ルシャール殿下はそう言った後、言葉を一度切った。
出席者たちは黙ってルシャール殿下の次の言葉を待つ。
そして、ルシャール殿下は、わたしにだけではなく、出席者たちに向けて話をする。
「わたしはこのリディテーヌのことを婚約破棄だけですまそうと思っていた。しかし、リディテーヌがわたしを愚弄するので、それだけではすまなくなった、それでも、今までのことをわたしに謝ってくれば、短期間の幽閉ですまそうと思っていた。しかし、リディテーヌは謝るどころか、その母と妹に対しても酷いことを言う。このままでは、ボードリックス公爵家の中は混乱するし、また、わたしの威厳もそこなわれてしまう。そこで、わたしは決断をした」