第五十九話 オクタヴィノール殿下とのダンス
二人のダンスが終わった後、少しの休憩を経て、ダンスは再開される。
ダンスの準備をする人たち。
「リディテーヌさん、それではよろしくお願いします」
オクタヴィノール殿下は微笑みながらわたしに言う。
いよいよオクタヴィノール殿下とダンスを踊る時がきた。
わたしは急激に緊張してくる。
ダンスは自信があった。
幼い頃から一生懸命練習してきて、ダンス教師にも、
「これほどの腕前をお持ちの方は。この王国にはほとんどおられないでしょう」
と言って、褒められていた。
もちろんルシャール殿下には及ばない。
今日のダンスを見て、それは実感した。
でも、ルシャール殿下以外のデュヴィテール王国の人たちには負けない自信はあった。
しかし、推しの方と一緒に踊るということがどういう意味を持つことか、ということまではさすがに想定はできなかった。
胸のドキドキがどんどん大きくなっていく。
この情勢化で、普段通りのダンスを披露することができるのだろうか?
失敗して、出席者の笑いものになり、オクタヴィノール殿下に嫌われる。
「わたしも恥をかかされてしまった……」
と言われるかもしれない。
そして、継母に嘲笑されてしまうだろう。
オディナティーヌは口には出さないと思う。
しかし、内心はここぞとばかりに軽蔑の心に満たされるに違いない。
わたしがマイナスの気持ちに心が占められ始めていた時。
「緊張しなくて大丈夫ですよ。わたしはあなたに合わせますから、あなたの思いのままに踊ってください」
オクタヴィノール殿下がわたしに微笑みながら言ってくれた。
オクタヴィノール殿下がわたしを支えようとしてくれる。
それに応えなければならない!
わたしの心の中に力が湧いてきた。
「力をいただいて、ありがとうございます。わたし、一生懸命踊ります」
「わたしも一生懸命踊ります。お互いにいい思い出として残るようなダンスにしていきましょう」
「よろしくお願いします」
「こちらこそよろしくお願いします」
オクタヴィノール殿下は、わたしを包み込むような笑顔でわたしに言う。
胸のドキドキはなかなかおさまらないのだけれど、緊張の方は少しずつほぐれ始めていた。
とにかく今は、踊ることに全エネルギーを集中しよう!
これだけわたしに気づかいをしていただいているオクタヴィノール殿下の為に!
そして、ダンスは再開された。
王室楽団が上質な音楽を演奏する。
その中では出席者たちが、思い思いの質の高いダンスを展開していく。
オクタヴィノール殿下とわたしも踊り始めた。
最初の内は、心がフワフワして、ぎこちない動きになっていた。
胸のドキドキは、一旦はおさまる方向だったのだけれど、これほどオクタヴィノール殿下と近接してくると、それを抑えることは困難になってくる。
それだけではない。
恥ずかしさが一気に押し寄せてきた。
わたしは一時的に、心のコントロールができなくなる。
こんなことなら、オクタヴィノール殿下の誘いを断るべきだった……。
そんな思いさえもわたしの心の中に湧いてくる。
しかし、そんなわたしを救ってくれたのが、オクタヴィノール殿下の巧みなリード。
そのおかげで、だんだん本来のわたしの動きになっていく。
そして、オクタヴィノール殿下との息もピッタリと合うようになってきた。
もう何年も前から一緒に踊っていたパートナーどうしと思えるほどだ。
これはやはり、オクタヴィノール殿下のダンスの技量が優れているからだろう。
先程のルシャール殿下のダンスと比べても遜色はない。
いや、もうルシャール殿下のことは考えなくてもいいだろう。
わたしは、オクタヴィノール殿下と踊ることができれば、もうそれで十分だ。
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