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第五十八話 ダンスが始まろうとしている

 ルシャール殿下とオディナティーヌのダンスは終わった。


 それと同時に盛大な拍手と祝福が贈られる。


 手を振ってそれに応える二人。


 その応え方は、それぞれ違っていた。


 ルシャール殿下は凛々しく応えていたのに対して、オディナティーヌは少し恥ずかしそうに応えていた。


 ルシャール殿下との婚約前、オディナティーヌのダンスは、技量的に足りなかった。


 そのことをオディナティーヌは以前から注意していたのだけれど、なかなか上達はしてこなかった。


 わたしが転生のことを思い出してからは、このまま注意し続けているとイジメを続けているという認識をされてしまうので、注意をすることを止めた。


 しかし、ちょうどその頃、ルシャール殿下と今回の舞踏会でダンスを踊ることが決まったので、やっと真剣に練習をし始めたという話は聞いていた。


 ただ、ルシャール殿下との婚約前も、何回か真剣に練習をする気になったことはあったのだけど、長続きはしなかった。


 転生の記憶が戻る前とは違い、わたしはオディナティーヌのことを心から心配するようになっていた。


 とはいいつつも、今日のように嫉妬心が湧くこともなかったとはいえないのだけれど……。


 自分で言うのもなんだけれど、複雑な気持ちだ。


 とにかく、わたしは、オディナティーヌの努力が続くことを全体的には願っていた。


 そうして迎えた今日の舞踏会。


 最初はルシャール殿下にフォローされて、ぎこちない動きだったのだけれど、次第に動きが良くなっていく。


 ルシャール殿下のリードが上手だと言うところは大きい。


 ルシャール殿下の力で、全体的に素敵なダンスになったと言えるだろう。


 しかし、練習の成果も現れていた。


 これから練習すればもっとうまくなり、ルシャール殿下との相乗効果で、より一層素敵なダンスを踊れるようになるだろう。


 そして、オディナティーヌは、わたしを含めたここにいる誰よりも、輝くものを持っていた。


 さすがは主人公と言うべきだろう。


 この「つらい思いをしてきた少女は、素敵な人に出会い、溺愛されていく」のゲームの世界は、オディナティーヌという主人公を中心に動いている。


 輝きの面では、リディテーヌはオディナティーヌにかなわないのもあたり前だとは言える。


 それがわかるからこそ、わたしはオディナティーヌとして生まれたかった。


 それはもう言っても仕方のないことではある。


 でもオディナティーヌに対しての嫉妬心がまた生まれてきていた。


 われながら情けないと思う。


 そのオディナティーヌの踊る姿に、貴族の令息たちも心を動かされたようで、


「ルシャール殿下は、素敵な方と婚約することができた」


 と賞賛する声が聞こえてくる。


 わたしはその声を聞くと。


「オディナティーヌが褒められて良かった」


 と思う反面、


「わたしの方がもっとうまく踊れるのに……。この場所でルシャール殿下と踊って賞賛され、祝福されるのはわたしだったはずなのに……」


 ということはどうしても思ってしまう。


 すると、オクタヴィノール殿下が、


「ルシャール殿下とオディナティーヌさん、素敵なダンスをしていました。さすがはリディテーヌさんの妹君ですね」


 と言った。


 オクタヴィノール殿下に、オディナティーヌがわたしの妹であることを伝えてあったのだ。


「さすがはあなたの妹君ですね」


 この言葉は、わたしのことをある程度評価していないと、出てこないと思われる。


 まだオクタヴィノール殿下とここで会ってからそれほど経ってないいのにも関わらず、そう評価してもらえるのは、うれしいことだ。


 オクタヴィノール殿下は、


「二人のダンスが終わりましたので、また皆さんが踊り始めます。わたしたちも踊り始めましょう」


 と言い、わたしに手を差し出した。


 そうだ!


 これからわたしはオクタヴィノール殿下とダンスを踊る。


 ただ踊るだけではなく、この会場にいる人たちを魅了するようなダンスを踊るのだ!


 今度こそ、ルシャール殿下のことを忘れ、オクタヴィノール殿下と仲良くなりたい!


「よろしくお願いします」


 わたしはそう言うと、オクタヴィノール殿下から差し出された手を握った。


「面白い」


「続きが気になる。続きを読みたい」


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