第五十六話 わたしとダンスを踊りたいオクタヴィノール殿下
オクタヴィノール殿下はわたしへ「お願い」をしようとしている。
これは、想定外のことだった。
もしかすると、わたしと交際したいということでは?
少し恥ずかしそうな口ぶりで話をしていたので、そういうことも考えられなくはない。
もしそうだったら、うれしくて、ここで踊り出してしまいそうな気がする。
一気に期待が膨らんできた。
しかし……。
一度会ったことがあるとは言っても、名前さえ覚えてもらっていなかったわたしに対して、そんなに急に心が傾くのだろうか?
少し冷静になってくると、ありえない気がする。
それに、今までのリディテーヌの噂を聞いている可能性はある。
今はわたしの名前を聞いた直後。
もし、噂を聞いていたとしても、すぐには思い出せないのかもしれない。
しかし、噂を聞いていれば、その内、そのことを思い出し、ここにいるわたしの印象は悪くなる可能性はある。
そうなれば、交際をしたいという気持ちがあったとしても、その気持ちはすぐにしぼんでしまうに違いない。
それでもわたしは、オクタヴィノール殿下が、
「わたしはあなたと交際したい」
と言ってくれることを期待していた。
わたしは、少し緊張しながら、
「お願いとはなんでございましょうか?」
とオクタヴィノール殿下に聞く。
「あなたと交際したい」
という言葉が帰ってくることを信じて。
すると、オクタヴィノール殿下は、
「リディテーヌさん、わたしと踊ってくださいませんか? わたしはあなたのような素敵な方とダンスを踊りたいのです」
と言ってきた。
ダンスを踊る?
それはどういうことなのだろう?
わたしは一瞬、何を言われているのかが理解できなかった。
わたしとしては、想定外の返事が返ってきたからだ。
「わたしと踊るのは嫌でしょうか? だとすれば誘ってしまって申し訳ありません」
オクタヴィノール殿下は少し申し訳なさそうな表情をする。
わたしは我に返った。
交際の申し込みではなかったのは残念。
期待をしすぎてしまった。
しかし、ダンスを一緒に踊りたいと言ってきた。
ルクシブルテール王国の王太子殿下から、ダンスを誘われるということは、貴族令嬢として光栄なことだ。
そして、これでオクタヴィノール殿下とうまく踊ることができれば、周囲の人たちの評判が良くなってくるだろうし、オクタヴィノール殿下もわたしのことを評価するはず。
いや、そういうことを考えてはいけない。
オクタヴィノール殿下は、純粋にわたしと踊りたいと思っているに違いない。
わたしもその心に応えなければならないと思う。
そして、もともとダンスは好きなので、オクタヴィノール殿下と踊りたいという気持ちはどんどん高まってきていた。
しかし、今度は、
「今のわたしは、オクタヴィノール殿下にふさわしい女性なのだろうか?」
と思いが湧いてくる。
そしてそれは、オクタヴィノール殿下のような素敵な方と一緒に踊っていいものかどうかという思いにもなってくる。
わたしは、
「お誘いをしていただくのはうれしいです。しかし、わたしのようなものがお相手でよろしいのでしょうか?」
と言った。
すると、オクタヴィノール殿下は、
「わたしとダンスをするのが嫌だと言うわけではないのですね?」
と言った。
それに対し、わたしが、
「そんなことはございません。ダンスに誘っていただけるだけでも光栄なことだと思っております。ただ、わたしのようなものが、オクタヴィノール殿下のお相手になってよいものかどうか? 失礼になるのでは? そう思ったのでございます」
と言うと、オクタヴィノール殿下は驚いたようだった。
そんなに予想外の返事だったのだろうか?
そう思っていると、オクタヴィノール殿下は、
「そういうことは思わないでください。あなたは素敵な方です。そのお方とわたしは踊りたいと思っているのです」
と言った後、やさしく微笑んだ。
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