第五十二話 舞踏会当日
舞踏会当日。
この舞踏会の会場になった王宮内のホール。
今ここにわたしはいる。
王室や貴族が招待され、また。平民の代表者も招待されていた。
ボードリックス公爵家からは、わたしだけでなく、継母とオディナティーヌも出席している。
特にオディナティーヌにとってこの舞踏会は、ルシャール殿下の婚約者としてのお披露目会も兼ねていた。
オディナティーヌは礼儀作法が苦手だったのだけれど、ダンスも苦手だった。
それが、リディテーヌがオディナティーヌに対して小言を言うことにつながっていた。
リディテーヌにはオディナティーヌをイジメている認識はなかった。
しかし、結局のところ、それはオディナティーヌにとってはリディテーヌにイジメられているという認識になってしまっていた。
わたしは、そういうことを理解していたので、ダンスについての小言もオディナティーヌには、言わなくなっていた。
オディナティーヌは、ルシャール殿下と婚約した後、舞踏会において、ルシャール殿下と一緒にダンスを踊ることが決まっていた。
継母とオディナティーヌは大いに喜んだ。
しかし……。
王太子殿下は婚約すると、その後に開催される舞踏会で、自分の婚約者を披露することになっている。
この直後か、その次の舞踏会でそれをするのが普通だ。
ゲームでのリディテーヌは、ルシャール殿下婚約直後の舞踏会でお披露目をしている。
ルシャール殿下とオディナティーヌの場合も、婚約が決まった直後の舞踏会で、婚約者の披露を行うことは検討されていた。
でも、この時点でのオディナティーヌは、ルシャール殿下とダンスが踊れるほどの最低の技量にも達していなかった。
オディナティーヌはもともと心やさしく、気づかいも人一倍できて、才色兼備。
だからこそ、ルシャール殿下の心を最終的につかむことができたのだと思う。
でも「堅苦しいこと」は苦手。
礼儀作法に身が入らないのも、ダンスが苦手なのをそのままにしているのもその為。
それ以外のお稽古事は、幼い頃からきちんとこなしてきたというのに、礼儀作法とダンスについては、「堅苦しいこと」なので敬遠してきた。
わたしからすると、ダンスは特に「堅苦しいこと」には入らないと思っている。
オディナティーヌがそう思っているというのが、どうにも理解できないところはある。
継母はダンスがうまい。
その子供であるオディナティーヌもその気になれば上達すると思う。
いずれにしても、このままではルシャール殿下の婚約者としてのお披露目が、どんどん遅くなっていく。
それではかわいそうだ。
さすがにわたしは、オディナティーヌにそのことを指摘したかった。
でもまたイジメと認識されるだけだと思い、自重せざるをえなかった。
ただ、今まではオディナティーヌを甘やかしてきた継母が、今回についてはオディナティーヌに話をしたらしく、練習を重ねた結果、ルシャール殿下とのダンスはそれなりにできるようになったようだ。
これで、七月の舞踏会には間に合いそうだ。
その話を聞いたわたしは、ホッとした。
ルシャール殿下とオディナティーヌはこのまま結婚まで行くだろうとは思っていた。
でも既にゲームではなかったルートを全員が歩み始めている。
この二人の関係だって、いきなり壊れる可能性はなくはない。
ダンスがもしうまくいかなったとしたら、それで二人の関係が壊れてしまうことだって、ありえなくはないだろう。
もしそうなったら、わたしの人生にどういう影響ができるのか、想定がつかなくなっていくかもしれない。
今の人生の想定は、ルシャール殿下とオディナティーヌが結婚することを前提としているからだ。
とにかく、これで二人のダンスはうまくいきそうなので、ホッとしている。
継母は今日ボードリックス公爵家の屋敷を出る前、わたしに、
「オディナティーヌは今日、ルシャール殿下と踊るのよ。そして、出席者全員の祝福を受けるの。ルシャールは素敵な婚約者として高く評価されているのだけれど、これでオディナティーヌの評価はますます高くなっていくことでしょう。あなたと違って素敵な女性であるオディナティーヌを、あなたも祝福しなさいよね」
と言った後、高笑いをした。
継母は、回数こそ大きく減ってはいるものの、わたしに嫌味をいいたいという気持ちを持っている。
ただ嫌味を今日のように言ったとしても、以前よりは抑え気味の表現になっている。
わたしも、
「あなたと違って素敵な女性であるオディナティーヌ」
と言われるとさすがに少し腹が立ってくる。
しかし、それ以上に、わたしの努力が実ってきて、継母のわたしへの対応は、三月時点に比べると、相当いい方向に向かっていると思っていたので、うれしい気持ちの方が強かった。
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