第三十七話 わたしを説得しようとするお父様
お父様は、腕を組んでじっと考え込んでいる。
これで、わたしが婚約者の座を譲ることを了承してくれるだろうか?
そう思っていると、お父様は、
「リディテーヌよ。わたしはお前が自分でいうほど品性がない人間だとは思っていない。品性がないという人間が、自分で品性がないと言うだろうか? 本当に品性がない人間であれば、その自覚はないだろう。わたしはそう思っている。それに、もし、お前が品性のない人間だとしても、自分自身で品性がないと自覚しているということは、少なくともこれから改善の余地があるということだ。先程も少し申したことだが、短所があったとしても、それは直していけばいいこと。せっかくお前は、お妃になれるチャンスがあるのだから。それを生かして、ルシャール殿下に尽くし愛され、そして、国民に尽くし愛されるお妃になってほしい。これは、わたしだけの願いではないのだ。わたしの妻だった女性で、お前の実のお母さんもそう願っていたんだ。お前の実のお母さんの願いの為にも、受け入れてほしい」
とわたしにやさしく言った。
お母様も、わたしがルシャール殿下と婚約し、結婚することを望んでいた。
これについては、お母様が生きていた時も、リディテーヌに対して話をしていた。
お母様がこの世を去る時も、リディテーヌの幸せを願いながら、その話をしていた。
その記憶が蘇ってくる。
お父様にそう言われると、お母様の遺志でもあるので、だんだんこの婚約を受け入れざるをえない気持ちになってくる。
やはりゲーム内にある、
「リディテーヌはルシャール殿下と婚約する」
という力が働いているのだろうか?
わたしはその力に従うしかないのだろうか?
わたしは、ルシャール殿下との方向に心が傾き始めていた。
「リディテーヌよ、これでもお前はこの婚約者候補の座をオディナティーヌに譲りたいと思うのだろうか? 二人のことなら気にしなくてもいい。オディナティーヌはきっと別の良縁に恵まれるだろうし、わたしもそうなるように動く。だから、お前は気にせずに、ルシャール殿下の婚約者候補になってほしい」
お父様は、さらにそう言ってくる。
わたしはもうこのままルシャール殿下の婚約者候補になり、そして、婚約を受け入れるしかないのだろう……。
わたしはそう思い、お父様に返事をしようとする。
すると、一度目の転生の時の、「婚約破棄」「処断」の記憶が心の中に急激に流れ込んでくる。
わたしは頭を手でおさえた。
とてもつらく、苦しい記憶だ。
嫌だ!
もうこんな思いをするのは嫌だ!
このままルシャール殿下と婚約、結婚をすれば、破滅が待っている可能性が強い。
転生一度目でそれを味わった以上、それをもう繰り返したくはない。
でもお父様は、わたしが素敵なお妃になるのを望んでいる。
この世を去ったわたしの実のお母様も、そう望んでいたようだ。
その期待にも応えたい。
いったいわたしはどうすればいいのだろう?
やはりわたしは転生一度目のようになってしまうのだろう?
せっかくまたこの世界に転生してきたのに、これでは全く意味がない。
わたしの心は絶望で覆われてくる。
その時。
わたしの心に希望が生まれてきた。
わたしが一番好きで、一番の推しであるオクタヴィノール殿下
この方も王太子。
ルクシブルテール王国の王太子だ。
ルシャール殿下の婚約者候補になるのを断れば、婚約も結婚もできなくて、デュヴィテール王国の為になることはできなくなる。
しかし、オクタヴィノール殿下の婚約者候補になり、結婚をすれば、ルクシブルテール王国の為になることができる。
お父様とお母様も、「国民に尽くし愛されるお妃になってほしい」と言っていた。
デュヴィテール王国の国民だけのことを言っているわけではないと思う。
この方の妃になることができれば、別の王国のことにはなるものの、二人の思いがかなうことになる。
わたしは改めて、ルシャール殿下の婚約者候補の座を、オディナティーヌに譲ることを決断した。
そして、オクタヴィノール殿下と恋人どうしになり、婚約した後、結婚できるように、これから一生懸命努力していこうと強く思うのだった。
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