第三十六話 わたしを気づかうお父様
お父様も、周囲の人たちと同様に、わたしについては、わがままを言い、傲慢な態度を取ってきた人間だと認識している。
しかし、逆に、そういう認識があるのであれば、婚約は断りやすくなった気がする。
「お父様や皆様が、わたしのことをそのように思われているということは、王太子妃になるほどの品性がないと思っているのと同じだと思います。わたしもそのように思っているからこそ、オディナティーヌに、婚約者の座を譲りたいと思うようになったのです」
わたしはそう言った。
すると、お父様は、
「しかし、わたしは、お前を妃にする為に育ててきた。周囲の人たちが短所だと言っているところも、『何事にも動じず、気品がある』という言い方もできる。妃というのは、ただ心やさしいというだけではダメだと思っている、何しろ、お前は、この王国を動かす人間になっていくのだからな。まあ、わたしの目から見ても、少しわがままの度が過ぎているところはあるが、それはこれから直していけばよい。リディテーヌよ、ルシャール殿下の婚約者候補になることを受け入れてほしい」
と熱を込めて言った。
わたしは胸が少し熱くなるのを感じていた。
周囲の人たちが、みなわたしを嫌っていて、いい評価をすることはない中にあって、お父様だけは、いい評価をわたしにしてくれている。
お父様さえいい評価をしてくれれば、いいのではないかと思う。
わたしはお父様のことが好きだし、尊敬している。
この話を断れば、お父様は悲しむだろう。
お父様の悲しむ顔を見るのはつらい。
お父様の勧めどおり、ルシャール殿下の婚約者候補になることを受け入れるべきでは?
そういう気持ちが湧き出してくる。
しかし……。
一時的な感情でこの話を受け入れてはダメだ。
受け入れれば、婚約することになることはほぼ確実。
その後は、どう努力をしようとも、良くて婚約破棄、普通に進めば処断が待っている。
お父様には申し訳ないと思う。
でもここは、婚約者候補になることを断るしかない。
わたしは、
「お父様にそのようにおっしゃってくださるのはありがたいことですし、うれしいことでございます。しかし、わたしは、自分で言うのも何ですが、感情をコントロールすることが難しい人間です、ルシャール殿下にその品性のなさで嫌われるのは、多分、間違いないと思います。このまま婚約したとしても、婚約破棄をされる可能性が強いと思います。そういう点では、心やさしいと評判のオディナティーヌであれば、きっと、ルシャール殿下も気に入っていただけると思っております。ボードリックス公爵家にとっても、その方がいいとわたしは信じております」
と言った。
お父様はわたしの言葉を聞いて、
「わたしは、お前に妃となってほしいのだが……」
と言った後、沈痛な表情になった。
沈黙の時間が流れる。
重苦しい雰囲気だ。
やがて、お父様は、
「お前の決心は変わらないのか?」
と聞いてきた。
「もちろんでございます」
「もしかすると、お前の今のお母さんやオディナティーヌに気をつかっているのか? 確かに最近、オディナティーヌはルシャール殿下のお妃にふさわしい女性に成長してきているということは、今のお前のお母さんにも言われてはいる。しかし、少なくともわたしに対しては、お妃にしたいと言っているわけではない。そこは、誤解してほしくはない。もちろん、気をつかっているということを理解はするのだが……」
心配そうなお父様。
お父様も、この二人とわたしの仲を心配してくれているようだ。
継母は、直接的には、オディナティーヌを婚約者候補にしたいとはお父様には言っていないようだ。
オディナティーヌがルシャール殿下にふさわしい女性になった話は、わたしも継母から聞かされていた。
その話をボードリックス公爵家の人たちにすることによって、リディテーヌよりもオディナティーヌの方がルシャール殿下にふさわしい女性だという機運を高めていこうとしていたのだろう。
ボードリックス公爵家の人たちの多くは、この継母の努力で、オディナティーヌを婚約者候補することに対し、支持をするようになっていった。
しかし、お父様は、リディテーヌを婚約者候補にすることにこだわった。
継母は、お父様に遠慮した為、婚約者候補をオディナティーヌにしたいということを、調節言うことはできなかった。
婚約者候補のことを直接言えないのは、継母にとってストレスになっていたようだ。
このストレスが、わたしのことをさらに嫌いにさせているのだと思う。
そして、その継母の影響で、オディナティーヌのリディテーヌに対する印象も悪化させているのだと思う。
わたしとしては、二人に対して、これからは気をつかわなければいけないと思っているところだった。
ゲームでわたしが婚約破棄され、処断をされるのは、この二人がリディテーヌのことを良く思っていないから、というのが大きな理由になる。
今までのリディテーヌは、そうした気づかいは全くと言っていいほどしていない。
この二人と仲が良くないのは、わたしのそうした態度もあるだろう。
とはいっても、機嫌を取ろうとまでは思わない。
それは、わたしとしても決して譲ることのできないところだ。
それでも敵対関係になるのは避けたいとは思っている。
オディナティーヌに婚約者候補の座を譲るということは、わたしの二人への気づかいの第一歩という面もある。
わたしは、
「お二人には、気はつかわなければいけないと思ってはいます。しかし、婚約者候補の座を譲りたいと話は、お二人への気づかいとは関係のない話です。ただ、わたしには品性がないので、品性を持ち合わせているオディナティーヌに譲った方がいいと思っただけです」
と言った。
わたしとしては、一番無難だと思われる返事をお父様にしたと思う。
「面白い」
「続きが気になる。続きを読みたい」
と思っていただきましたら、
下にあります☆☆☆☆☆から、作品への応援をお願いいたします。
面白かったら星5つ、つまらなかったら星1つ、正直に思っていただいた気持ちで、もちろん大丈夫です。
ブックマークもいただけるとうれしいです。
よろしくお願いいたします。




