第二十九話 まだ始まりに過ぎなかった継母とわたしの戦い
継母とリディテーヌの言い争いは続く。
心を沸き立たせてきている継母に対して、リデティーヌは、
「わかりませんわ。全く。わたしの方の立場が上ということは事実なのに、なぜ侮辱をしたことになったり、失礼なことを言ったりすることになるのでしょう? オクノラール公爵家のご出身と言うのであれば、これくらいのことは理解していただくのも当然では?」
と応えた。
オディナティーヌは、悲しそうな表情をしていた。
継母と違い、少なくともオディナティーヌと仲良くしたいと思っているようだ。
でも継母の意志に沿う形で生きてきたので、継母側に常についていなければならない。
リディテーヌと仲良くしたくても、継母が嫌っているのであれば、自分も嫌わなければならない。
逆らうことはできないのだ。
それが、悲しい表情へとつながっているのだと思う。
リディテーヌの方も、さすがにオディナティーヌのことは、ほんの少しではあるもの、かわいそうに思っていた。
リディテーヌと継母の言い合いは、その後も続いた。
どちらも譲るつもりは全くなかった。
やがて、継母とリディテーヌを歓迎する晩餐会の行われる時間が来たので、ようやくこの言い合いも終わろうとしていた。
リディテーヌの主張も継母の主張も平行線をたどっていた。
どちらの方の立場が上か、ということの結論はでないままだった。
お父様の決定を仰ぐ気は、二人ともなかった。
お父様は、二人が仲良くすることが大切なことだと思っていたので、そういう話を持っていくことは、
お父様の信頼を二人とも失ってしまう可能性があった。
それで、二人の間で、決めようと思っていたのだけれど、どちらも歩み寄る気がない。
リディテーヌも継母も、疲労がたまる一方だった。
とはいうものの、少なくともリディテーヌを自分とオディナティーヌに隷属させたかった継母の意志はリディテーヌによって拒まれたので、リディテーヌの方がやや優位な形勢となっていた。
継母は、
「今日はここまでにしておいてあげるわ。でもわたしはあなたを絶対に隷属させる。すぐにはできなくても、近い将来、必ずあなたをわたしとオディナティーヌに隷属させるわ!」
と強い口調で言った。
リディテーヌは、それに対し、
「お母様のことは、母親としては扱いますし、オディナティーヌのことも妹として扱います。それだけでもありがたいと思ってください。喜んでください。でも、そう扱うというだけのことです。わたしの方が立場は上だということはいつも認識してもらいたいものですね」
と今まで以上にあざけり笑いながら言った。
継母は、
「そんな形だけの母親、妹扱いをされて、誰がありがたいと思うのですか? 喜ぶと言うのですか? わたしたちのことを、ただおちょくっているだけでしょう? わたしたちに隷属をしなければ、母親扱いも、妹扱いもしたことにならないのだと、なぜあなたはわからないのでしょう? こんな物分かりの悪い娘を、これからわたしは持たなければならないだなんて……。公爵閣下は、素敵なお方だと言うのに……」
と言う。
わたしも反撃して、
「せっかくわたしが、母親、妹扱いをしようとしているのに、それを理解できないとは……。わたしは悲しい気持ちになってきます」
と言った。
この日の言い争いはここで終わった。
しかし、それは、リディテーヌと継母との戦いの始まりに過ぎなかった。
リディテーヌと継母は対立をしたまま、継母はお父様のところに嫁ぐことになった。
継母はボードリックス公爵家に嫁ぎお父様の妻となった。
そして、その娘であるオディナティーヌは、養子となってボードリックス公爵家の令嬢となった。
お父様は、一目惚れをした女性と結婚をして、とても喜んでいた。
また、リディテーヌに妹はできたことも喜んでいた。
ボードリックス公爵家内の人たちも、オクノラール公爵家での継母のことを知らないので、歓迎ムード一色だった。
オディナティーヌが来たことについても、ボードリックス公爵家の人たちで祝福しないものはいない。
しかし、わたしにとっては、迷惑な話でしかなかった。
リディテーヌと継母とは、初対面の時から、お互いを敵だと認識していた。
継母が来てからは、毎日嫌味の言い合うようになった。
オディナティーヌは、継母と違い、リディテーヌを立てようとはしていた。
リディテーヌもその点は気に入りかけた。
しかし、オディナティーヌには別の問題があった。
継母に甘やかされて育ってきたせいか、礼儀作法があまり身についていなかったのだ。
その点にいら立つようになったリディテーヌは、オディナティーヌについて厳しく指導するようになる。
この指導により、オディナティーヌは礼儀作法を身につけるようになっていく。
しかし、リディテーヌは「悪役令嬢」になりつつある女性。
妹に対して、愛情のこもった指導をすることはできず、
「いい加減になさい! あなたは礼儀作法というものを知らなすぎですわ!」
「わたしの妹だというのなら。これくらいの礼儀作法ぐらいマスターしなさい!」
「あなたはそんなこともできませんの? これではボードリックス公爵家の恥ですわ!」
と厳しい口調で言いながら、しかもあざけるような笑いをオディナティーヌにするなど、オディナティーヌにとっては、イジメと取られても仕方のないような対応になっていた。
オディナティーヌはリディテーヌの言うことを黙って聞いていた。
リディテーヌはそれを自分に対して、服従の意を示したものだと思い、得意になっていた。
もし、リディテーヌがこのような対応を取らなければ、オディナティーヌとの対立はなかったかもしれない。
その意味では、対応を大きく間違えていたと言わざるをえない。
オディナティーヌは思春期を迎え、少しずつ継母離れをし始めていたこともあり、この厳しい指導に対しての不満を継母に話すことはなかったのだけれど、継母とは別の意味で、リディテーヌに対しての敵対心が養われていった。
リディテーヌと継母、そしてオディナティーヌとの仲は、悪化していく方向でしかなかった。
それでもお父様がいるので、この対立はある程度抑えられていた。
お父様は、なによりも、家族が仲良くすることを望んでいて、わたしたちはその意向に従っていたからだ。
そのような状態が五年ほど続いた。
そして、わたしが様々なことを思い出している今日という日がやってきているのだった。
それにしても、「つらい思いをしてきた少女は、素敵な人に出会い、溺愛されていく」のゲーム内では語られることがなかったことが、わたし自身の記憶として流れ込んできたのは、驚くしかなかった。
もともとリディテーヌというキャラクターは、主人公ではない。
ゲーム内では、主人公の心理描写は細かくされている。
しかし、リディテーヌの心理描写はほとんどされていない。
そして、リディテーヌがオディナティーヌのことをイジメていたというところが強調されていた。
また、継母がリディテーヌのことを嫌っていたという描写も、細かくはされていない。
継母とリディテーヌが打ち解けることができなかったのは、リディテーヌの方に問題があったという描かれ方をしていた。
したがって、「悪役令嬢」であるリディテーヌの方が、一方的に悪い、と言った印象を与えている。
今、いろいろなことを思い返すと、リディテーヌが継母やオディナティーヌと対立するのはよく理解できる。
決して、リディテーヌに問題があっただけではない。
継母の方の対応にも問題があったと言うことが認識できる。
とはいうものの、このままでは、婚約破棄や処断は避けられない。
それを避ける為には、ルシャール殿下との婚約そのものをオディナティーヌに譲るしか手はない。
わたしは改めてこの婚約の断り方を一生懸命検討していく。
そして、この転生においては幸せになりたいという気持ちを強く持とうとしていた。
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