第二話 わたしは反撃する
今日のルシャール殿下はいつもと違う。
今までは、心やさしくわたしに接していて、このような怒声を発することはなかった。
わたしはその剣幕に驚く。
わたしが高らかに笑っても、微笑んでくれていたのだ。
なぜこんなに怒らなくてはならないのだろう。
心外でしょうがない。
まあ、ここは少しわたしが譲ってあげよう。
わたしはルシャール殿下をなだめるべく、
「ルシャール殿下、そんなにお怒りされては、せっかくの美しいお顔が台無しですわ。全く、どうして人が少し笑ったぐらいでお怒りなさるのか、わたしには理解できませんわ。ルシャール殿下はやさしい方だと思っておりますのに」
と言った。
いや、なだめるつもりが、どうしても嘲り笑うような形になってしまう。
まあ、いいや。
わたしがこの後、冗談を言ったことを殿下に厳しく注意すれば、いつものように、わたしに屈することだろう。
わたしがそう思っていると、ルシャール殿下は、
「きみがわたしを怒らせるようなことをするからだろう! 何を言っているんだね、きみは。わたしはそういうきみの傲慢なところが嫌いなんだ」
とさらに怒りを増幅させながら言った。
わたしがルシャール殿下に少し譲ろうとしたらこれだ。
そろそろ厳しく言うべきだろう。
わたしが反撃をしようとしていると、ルシャール殿下は、
「とにかくきみとの婚約は破棄するのだ。これは決定したことだ」
と言った。
わたしはそれに対し、
「まだそんなことをおっしゃるのですか? わたしとの婚約を破棄したとおっしゃるのであれば、当然、次の婚約者は決まっておりますわよね?」
と意地悪い微笑みを浮かべながら言った。
婚約破棄など、でまかせで言っているだけ。
そんな女性、いるわけがない。
わたしほどの才色兼備で、妃にふさわしい女性など、この世の中には存在しないのだから。
さあ、ルシャール殿下、
「婚約破棄のことは冗談でした」
と言ってわたしに謝るべきよ。
そうすれば、わたしの怒りも小さいものですむのですから。
しかし……。
「新しい婚約者は、わたしの隣にいるボードリックス公爵家令嬢オディナティーヌだ!」
ルシャール殿下は、そう高らかに宣言した。
ルシャール殿下のそばで恥ずかしそうに微笑むオディナティーヌ。
まだ騒然となる出席者。
あまりにも意外な人物だったからであろう。
オディナティーヌ。
オクノラール公爵家出身のわたしの継母の連れ子。
ボードリックス公爵家の養子になっている為、わたしの義理の妹で、年齢はわたしの一個年下の十七歳。
わたしはこの王国で一番と言えるほどの美しさを誇っているが、妹もわたしには及ばないけれども、美しい女性ではなる。
甘やかされて育ってきたので、彼女の立ち振る舞いは、厳しくしつけられてきたわたしからすると、貴族としての一般的なレベルにも到達していないように思える。
わたしはいつもそのことを妹に注意をしてきた。
しかし、その場では、
「お姉さまのおっしゃる通りにいたします」
と言うのだが、いわゆる「聞き流し」というもので、一向に聞き入れる気はないようだった。
そんな妹を、婚約者にしようというのだ。
わたしは、
「今まで言ったことのない冗談をおっしゃりますんのね。この妹がルシャール殿下の婚約者だなんて」
と言った後、先程よりもさらにルシャール殿下のことを嘲るように笑った。
ルシャール殿下は、
「なにがそんなにおかしい! 婚約破棄されて、しかも、新しい婚約者をきみの前で披露したというのに、よくそんなに笑っていられるものだ! 普通だったら、しおらしくするものだろう!」
と厳しく言う。
「それは、ルシャール殿下が冗談ばかりおっしゃるからですわ。おかしくて、おかしくて」
「全く、なんというどうしょうもない人なんだ、きみは」
ルシャール殿下は、怒りを通り越したようで、今度はあきれているようだ。
それがまた、わたしのつぼにはまる。
「ルシャール殿下、面白くてたまらないところですが、せっかくの舞踏会でございます。そろそろこのような余興は終わりにしませんか? 第一、わたしが婚約破棄をされる理由が全く思いつきません。ルシャール殿下がわたしとの婚約を破棄されて、妹と婚約されたということは、よほどの理由があったのでしょうね。その理由をお聞かせいただけませんでしょうか? どうせたいした理由などないのでしょうけど」
わたしはルシャール殿下に対して、再び意地の悪い微笑みを向けた。
「面白い」
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