第十九話 別れ話をし始める幼馴染
今、わたしは、ソファーに座り、テーブルをはさんで向かい合っている。
今まであれば、同じソファーに隣どうしになって座り、雰囲気が高まってきたところで、キスをしていくところだ。
そして、冬伸ちゃんの部屋に行き、二人だけの世界に入っていく。
疎遠になり始めているとはいうものの、ソファーに隣合わせで座ることさえできれば、冬伸ちゃんも、今までのことを思い出して、甘い時間を過ごすことができるのでは、と期待をしていた。
しかし、今日は、冬伸ちゃんにお願いをされた為、やむを得ず向かい合わせに座っている。
まずわたしにとってはこれが誤算だった。
これだけでも冬伸ちゃんの心の中で、わたしの位置付けが恋人から幼馴染に後退していることを感じざるをえない。
いや、それではいけない。
わたしは冬伸ちゃんの恋人。
冬伸ちゃんがわたしへの恋する心を失いつつあるのであれば、その心をもう一度蘇らせなければならない。
わたしには冬伸ちゃんしかいないのだから……。
わたしがそう思っていると、冬伸ちゃんは、
「今日は、来てくれてありがとう」
と言った後、一回言葉を切った。
そして、心を整えると、
「俺、今日は、りくらちゃんに大事なことを伝えたくて、来てもらったんだ」
と言った。
「大事なこと?」
「そう。大事なこと」
冬伸ちゃんは、言いにくそうにしていたが、やがて、
「りくらちゃん、俺、好きな女性ができたんだ。申し訳ないんだけど、俺と別れてほしい」
と言った。
「わたしと別れてほしいですって?」
わたしはすぐにはその意味が理解できなかった。
いや、理解したくなかった。
「それは、冗談で言っているんでしょう?」
わたしはそう返事をするのがやっとだった。
冗談だと言ってほしい!
しかし、わたしのその願いもむなしく。
「冗談ではなく本気だ。俺、古土沼さんと付き合うことにしたんだ」
と言われてしまった。
古土沼さん……。
冬伸ちゃんのことを狙っていた女子だ。
わたしが冬伸ちゃんと恋人どうしになったと聞いても、あきらめることはなく、冬伸ちゃんにアプローチをし続けていたのだろう。
多分、この十一月の間に、冬伸ちゃんの心をつかんでしまったのに違いない。
わたしは、冬伸ちゃんが休日のデートを断るようになったことを、それほど深くは考えてはいなかった、
冬伸ちゃんの提案した、
「毎週デートをするのも大変だろうから、これからデートは月一回にしよう」
ということを、そのまま素直に受け取ってしまっていたのだ。
その間に、二人の仲は急速に深まっていったのに違いない。
そう思っていると、冬伸ちゃんは、
「俺、りくらちゃんと付き合って最初の頃は、りくらちゃんと恋人どうしになれてよかったと思っていたんだ。『りくらちゃんのことが好き』『愛している』という言葉は、俺の本心からの言葉だった。それは信じてほしい。でも、付き合っている内に、言葉にするのは難しいところがあるんだけど、フィーリングが微妙に合わないところがある、と思うようになってきた。そんな時、古土沼さんが俺に対してアプローチをしてきたんだ。それまでもアプローチはしてきたんだけど、今まで以上に熱心にアプローチをしてきた。俺はりくらちゃんがいるので断ろうとしたんだけど、その熱心さに押されて、りくらちゃんと最後のデートをした一週間後、デートをすることになった。俺はもうその頃から、りくらちゃんに対する恋する心が弱くなっていたんだと思う。そのデートで、俺は古土沼さんに心を奪われた。フィ-リングがりくらちゃんよりも合う気もしたんだ。その後からは、毎週デートをするようになった。彼女と一緒にいると、りくらちゃんといる時よりも、より一層幸せな気持ちになってくるんだ。それで、俺はりくらちゃんと別れ、古土沼さんと恋人として付き合う決断をしたんだ」
と言った。
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