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誰の1000万円か

作者: 雉白書屋

『……母がね、間違って捨てちゃったみたいなんですよぉ』

『いやぁ、酔っていて落としたみたいでねぇ』

『うちから盗まれたものなんですよ!』

『多分、私のだと思うんですけどね』

『俺のですよ! 俺の! 絶対! 本当に!』

『絶対、うちのなんですぅ』

『旅行中にうっかり落として困っていたんですよ』

『くれよ! くれ! くれ!』

『おじいちゃんが……』

『父が……』



 とある市のゴミ回収施設にて1000万円が見つかったと発表があった。

 落とし主は誰か? 市が情報提供を呼び掛けると瞬く間に

あれは自分の1000万円だと名乗り出る者、その声が多数寄せられた。

 が、電話をかけてきたその者たちから紙幣番号や1000万円が入っていた袋など

これといって具体的な話は何一つ出なかった。

 無論、そんなことは予想の範疇。浅ましい者がいるのだなぁ、と

そのニュースを見た世間は嘲笑った。



『俺が落とし主です』

『私のよ! よこしなさいよ!』

『絶対、自分のです』

『ワタシのデース』

『間違いなく、俺のだ』

『早急に返していただけません?』

『いやぁ、感謝感謝! あの金、俺のなんですよ』

『ニュースを見た途端、あ、うちのだって思って電話したんですがね』

『ちょうど最近無くしたんですよぉ』



 しかし、ニュースが国中に広まると

地面に雨が染みこみ、雑草の芽がぷつぷつと顔を出すように電話の数は増えた。

市外どころか県外からもだ。だが、やはり具体的な情報はでない。

誰も彼も欲深い、と言うより、もはや懸賞に応募するような空気感が形成されていた。

 しかし、それはあながち間違いではなかった。

市は名乗り出た者の中の誰が持ち主かわからないのなら

その者たちの中から抽選で1000万円を渡すと発表したのだ。

 これによりさらに電話が殺到。名乗り出た者、その数は1000人を超えた。

 市は厳正に調査すると発表。ダメ元で、と飢えた犬のように、電話は毎日鳴り響く。



『俺のですよ。間違いなく。え? あ、はい、まあいいっすけど』

『え? でも、ああまあ当然ですよね……』

『はぁ? え、いやまあうん。でも優先してくれたりとか、さ。頼むよ』

『うーん、まあ! 私が落とし主なんでね! ええ、構いませんよ!』

『それで証明できるなら……』

『まあ、仕方ないか……』




「1000万……か」


 市長がそう呟き、見下ろす机の上には何もない。

 そう、1000万円など、ここにも、どこにも。

 そして、落とし主はこれからも見つからないであろう。


 ただ、調査費用や管理費、抽選費だのなんだのと銘打って定期的に金を請求。

 それを名乗り出た者たち全員が支払った訳ではないが

赤字続きの市は潤い始めていた。

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