大人の階段~何度でも~
大人の階段をダッシュで登らされた結衣。
恥ずかしさと困惑が同居するも、愛されていることを実感した。
そんな時、施設長からとある指示が黒夜に下る──
翌朝、結衣は目覚めると体がけだるかった。
股の間もなにかひりひりするし、取りあえず、自室のバスルームへ向かった。
「わぁ……」
腹部には白いカピカピとしたものがついていて、昨日の痴態を思い出し結衣は顔を真っ赤にした。
取りあえず体を洗おうとシャワーを浴びる。
カピカピしたものはぬるぬるとした液体にかわり、ボディーソープをつけて洗えば落ちていった。
「……大人ってああなんだ」
まだ、16年間しか生きていなかった結衣には衝撃的だった。
というか、普段淡泊に見える黒夜があそこまで情熱的だとは思わなかったのだ。
「ロールキャベツ男子とかそういう言葉あったよね……草食系に擬態した肉食系男子だったとは……」
結衣は顔を赤くしてブツブツ言う。
「結衣ちゃーん!」
「は、はいぃ?!」
突如の来訪者に、結衣は慌てた声を上げる。
「新しいお洋服、仮のだけど持ってきたから──後でファッション雑誌見ながら欲しい服探しましょうねー」
「う、うん!」
そう言って女性職員は出て行った。
結衣はドキドキする心臓を押さえ込みシャワーを止めて、バスタオルで体を拭き、そのままタオルで体を包んで部屋へと戻った。
用意された下着を身につけ、綺麗なワンピースに袖を通す。
「……うん!」
鏡を見て、大丈夫だ、といい聞かせて部屋を出る。
「結衣ちゃん大丈夫」
「うん、もう大丈夫。心配させてごめんなさい。迷惑かけてごめんなさい」
職員達に結衣は一人一人謝罪をしていった。
職員の皆は温かく結衣を大丈夫だからと受け止めてくれた。
「結衣」
「黒夜……」
黒夜は結衣の亜麻色の髪を撫でた。
「いちゃついているところ悪いが、結衣、黒夜、話がある」
そこへ所長がやってきてそう言うので、結衣は心臓を再度ばくばくとさせた。
黒夜に促されて漸く、所長室に向かうと、所長はため息をついた。
「私達が引っ越す前のあの場所で今何が起きてるかしってるか?」
「い、いえ」
「教会とカルト集団が潰し合っている」
「え!?」
黒夜の言葉に、結衣は戸惑いの声を上げる。
「魔王を殺したい教会と、魔王を覚醒させたいカルト集団、どちらもきな臭いので潰しておきたい」
そう言うと、所長は黒夜に言った。
「黒夜、潰せるか?」
「可能だ」
「結衣、送り出しても大丈夫か」
「え?」
「お前達はもう夫婦なんだから、妻の意見を聞くのも大事だろう?」
「……うん、黒夜。無事帰ってきてね」
「分かっている」
「職員も何名か派遣する、行ってこい」
「分かった」
「黒夜……」
「行ってくる」
黒夜はそう言って結衣を抱きしめると、分厚い扉の向こうへと行ってしまった。
「黒夜……無事帰ってきてね」
結衣はそう言うと、扉をそっと撫でた。
半日経っても帰ってこない事に、結衣は我慢ができなくなった。
初めて外に出たいと思った。
「迎えにい──」
「ダメだ、奴らの狙いはお前だ結衣。我慢をしろ」
「う゛ー……」
所長に言われて結衣は爪を噛んだ。
しばらくすると帰還の合図がなる。
結衣は急いで自分がでられる領域の扉の前まで行った。
「すまない、思いのほか人数が多くて手間取った」
「黒夜!」
結衣は黒夜に抱きつく。
「……黒夜怪我してる?!」
「大丈夫だ、もう治っている」
「ダメだよ、医療室行こう? 他の皆も!」
「俺達の事もちゃんと見ててくれてありがてぇ……」
「そうだな……」
黒夜の怪我は既に治っており、一緒にいった二名の職員は負傷していたため治療が開始された。
「結衣」
「なぁに、黒夜」
黒夜の自室のベッドの上に二人は座っていた。
「不安にさせてすまなかった」
「でも、お仕事だったんでしょう?」
「ああ」
「私を守る為の」
「ああ」
「だから有り難う」
結衣は黒夜に抱きついた。
「結衣……」
「無事で本当に良かった……!!」
結衣は目元に涙をにじませた。
それくらい不安だったのだ。
「みんな無事で良かった……!」
結衣の言葉に、黒夜は頷き髪を撫でる。
結衣は以前名前を覚えられないとは言っていたが、職員が誰なのかは理解していた。
だから、居なくなると不安になった。
居なくなった職員は、皆記憶を改ざんされ退職している。
だから、教会もカルト集団も見つけられないようになっている。
結衣はそう聞かされていたが、それでも居なくなることは怖かった。
過去に、否前世で愛した者達が殺されるのを見たからもう見たくなかったのだ。
だから、名前を覚えない。
名前を覚えるとより辛くなるから──
「ふぅ……ふぅ……」
「大丈夫か?」
「ん……」
結衣は黒夜のベッドの上で裸になっていた。
ベッドタオルで黒夜が体を隠させる。
「少し休もう」
「ん……」
黒夜は後処理をして、ゴミをゴミ箱に捨てて、温タオルを結衣の元に持って行き、それで結衣の体を拭く。
「暖かい……」
疲れ切っている結衣の体の汚れを落としていく。
「あのね、黒夜」
「なんだ?」
「その、これからも側にいてね」
「勿論だ」
「何度生まれ変わっても、側にいて」
「ああ」
結衣は理解していた。
自分は何度も生まれ変わる。
周期は分からないが生まれ変わって必ず黒夜と出会い、惹かれる。
息子だからじゃない。
黒夜だから、惹かれるのだ。
×××じゃない、黒夜を愛するのだ。
何度でも、何度でも──
大人の階段三段飛ばしくらいで上りました結衣です。
そして、自分の性質を理解します。
自分は黒夜に何度でも恋をする、生まれ変わっても──と