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強制的に大人に

婚約してから黒夜への態度が変わっていた結衣。

黒夜に構って貰いたくてたまらないのに、大人になるまで駄目と言われてしまう。

その結果──




 婚約してから、結衣の黒夜に対する態度だけ変わったが、他の職員への態度は変わらなかった。

 女性職員に嫉妬するわけでもない、男性職員を毛嫌いする訳でもない。

 ただ、黒夜に関して色々変わってはいた。


「黒夜つれないー」

「黒夜さんは結衣ちゃんを大事に思ってるのよ」

「こちとら16歳過ぎて多感で欲求不満のお年頃なのに──」

「あらあら、でも18歳過ぎまでは絶対手をだしてこないわよ」

「大昔なら12歳とかで結婚出産とかあったのにー」

「それは100年以上前の話よね? 参考にしちゃいけないわ」

「むー」

 結衣は不満げだ。



「……結衣ちゃんあんなこと言ってるっすけど、黒夜さんなんもしないんすか?」

「できると思うか」

「せめてキスとかそれくらいは……」

「してない」

「結衣ちゃん欲求不満になるのも分かるっす」

「多感でその……性的なものへの目覚めも来てるからな」

 男性職員がごにょごにょ言いづらそうに言った。

「じゃあ、一緒に寝るとかどうっすか?」

「ダメだ」

「石頭っすね」

「ああ、石頭だ」

「でしょー、黒夜そういうのガチガチに硬いの」

 ひょいと結衣が男性職員達の会話に混じってくる。

「ねーキスくらいいいでしょう?」

「だめだ」

「黒夜のケチ!」

 ふてくされて頬を膨らます結衣。


「ふたりっきりの時くらいいいじゃないか」

「まだ結衣は子どもだ」

「それは分かるけども……」

「大人になったら我慢させた分させる」

「お」

「本当?!」

「結衣……君は本当に耳がいいな」

 突如現れた結衣に、黒夜は額に手を当てる。

「うん、耳だけはいいの」

 結衣はにぱーっと笑った。

「はーやくおとなになっりたいなー♪」

 機嫌良さそうに結衣は歌を歌ってその場を後にした。



「むふー、大人になれば黒夜とキスしても何してもいいんだ!」

 自室のベッドで結衣は横になっていた。

「でも、大人っていうと、18,20歳だよね……」

「あと、最長で4年? やだやだ、我慢できないー!!」

 そのとき、どくんと結衣の心臓が大きく脈打った。

「あれ……心臓、痛い、体も、痛い……」


「助けて……」


 結衣はコールボタンを押してそのまま意識を失った。





「──い、結衣!!」

 黒夜の呼び声で、結衣は目を覚ました。

「黒夜……? 私……、あれ」

 結衣は声が少し変な感じがした、大人びた声になったという感じが。

 手も大きくなっていた。

「……鏡」

「──分かった」

 黒夜は職員に指示し、結衣の姿を鏡で映し出した。

 そこには、亜麻色の長い髪に、茶色の目に、色白の肌の大人の女性が映っていた。

「わ、た、し」

 鏡に触れ、口の動きを見る。

 紛れもなく、結衣自身だった。

「なん、で?」

「結衣、君は大人になりたいと強くおもったりしなかったか?」

「あ゛」

 結衣は昨晩の事を思い出す。


 大人になりたいとベッドの上で駄々をこねていた事を。


「……心当たりあるのか」

「うん……」


 結衣は素直に昨夜のことをはなした。

 黒夜は頭が痛んでいるかのように、額に手を当てていた。

「あの、ごめんね」

「いや、いい。取りあえず所長と話してくるからここで待ってるんだぞ」

 結衣は医療部屋に取り残され、職員と話す。

「結衣ちゃん不安?」

「うん……急に大きくなったから……」

 結衣の言葉に、職員は頭を撫でた。

「……」




「結衣」

「黒夜……」

 結衣は申し訳なさそうな表情で、黒夜を見る。

「引っ越しだ」

「え?」

「職員達も今引っ越し準備をしている」

「ど、どうして?」

「君が急激に大人になったことで魔力が放出されたんだ、この施設では隠しきれない程の」

「……」

 その言葉に、結衣は顔色を蒼白にした。

 黒夜の言葉に、かつて襲撃された事を思い出した。

「わ、私も片付けなきゃ」

「女性職員に手伝って貰え」

「う、うん」


 結衣は仮の服を借りて、女性職員達と大急ぎで荷物を箱詰めしたり、片付け始めた。

「ごめんなさい……」

「いいのよ、結衣ちゃんをけしかけるような事いった私達や男連中にも責任はあるし、黒夜さんにも責任はあるからね」

「……」

「だからそんな顔をしないで、せっかくの綺麗な顔が台無しよ」

 女性職員達は優しい言葉をかけてくれた。

「うん……ありがとう」





 そうして引っ越しを済ませ、新しい施設に着いた結衣は自室に引きこもった。

「結衣ちゃん、出ておいで!」

「結衣ちゃん、出てくるっすー! 誰も君の事を責めたりしないっすよー!」

 職員達が結衣の部屋の前で声をかけるが、結衣は部屋からでてこない。


「どうした?」


「黒夜さん!」

「結衣ちゃんがでてこないっすよ、黒夜さん何とかしてっす!」

 職員達が黒夜に対応を求めた。

 黒夜はふぅと息を吐き、職員達にこの場から離れるように指示した。


「結衣、私しか今はいない、開けてくれるか?」


 がちゃりと鍵が開く音がした。

 少し待ってから黒夜は結衣の部屋に入り、鍵をかけ直した。





 結衣はベッドの上で毛布を被ってうずくまっていた。

「結衣」

「ごめんなさい、ごめんなさい……」

 謝罪の言葉を口にしている。

 結衣は、強い罪悪感を抱いているようだった。

 黒夜は結衣に近づき、頭を撫でる。

「すまなかった」

「なんでぇ……なんで、黒夜が謝るの……?」

「私が君に我慢を強いる発言と、君が早く大人になりたがるような発言をしたからこうなったんだ」

「……」

 黒夜は結衣の泣きはらした目もとの涙を拭った。

「君が大切だから、私は大人になるまで待ちたかった」

「……」

「だから、約束は守らないといけないな。君はもう『大人』になったんだ」

「え……どういう──」

 黒夜は最後まで言わせることなく、結衣の唇に深く口づけをした──







大人になってしまいました、中身はまだ16歳なのに。

黒夜もずっと我慢してきたのが分かると思います。


読んでくださり有り難うございます。

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