魔王の生まれ変わりの少女~6歳、12歳の時期~
よい子に育ちつつある結衣だが、施設の職員は施設で生涯を終えるのは可哀想だと、外に出してあげたいと望む。
しかし結衣は──
「できた」
結衣は職員達が作ったテストの項目を全て埋め、提出する。
「今日の学力検査はここまでだ、結衣後は遊んでいいぞ」
「やった!」
結衣は嬉しそうに笑うとレクリエーション室へと向かう。
「ゲーム、ゲーム」
「結衣ちゃん、本当テレビゲームが好きねぇ」
「TRPGも結構やってるよ?」
「あら、そうなの」
「クリティカルの悪魔と呼ばれてるっす。何もない時は平均的な出目なのに、そうじゃないときはクリティカル出しまくるんで」
「すごいわね」
「おかげでCoCは結衣ちゃんのPCだけ生存率百パーっす」
「……すごいわね」
「でも、本来なら同い年の子どもと遊ばせてあげたいけど……」
女性職員がため息をついて言う。
「ダメっす、所長と、黒夜さんの方針で『ここで一生を終えて貰う、だからどんな施設も設備も用意する』って言ってるっす」
「……どおりでサウナとかエステとか温泉とか色々あるわけだわ……」
別の女性職員が若干呆れの声で言う。
「お金は大丈夫なのかしら?」
「大丈夫らしいっすよ?」
「それならいいけど……」
女性職員が近づいていく。
「ねぇ、結衣ちゃんちょっといいかしら」
「んー?」
ゲームを中断して、結衣は振り向く。
「結衣ちゃんはお外で他の誰かと遊びたいとか思った事ないかしら?」
「ない」
結衣は即答した。
「おそとはきけん。ひとはひとをきずつける、それをみたらわたしはたえられない」
「結衣ちゃん……」
「だから、ここでいいの。それにここでもそととは多少つながれる」
結衣はネット回線の事を言っているのだ。
フィルターはかけられているが、それでも結衣は外がどんなのか知りうることができて満足と言っているのだ。
逆を言うと、これ以上望めば破滅が待っているのを自分で分かっているようだった。
「だからいいの」
「そう……」
「それにしょくいんさんたちがいるし、わたしさびしくないよ」
その言葉に女性職員は結衣を抱きしめた。
「しょくいんさん?」
「ごめんね、ごめんね……」
「どうしてあやまるの?」
女性職員が謝罪する理由を結衣が理解することはなかった。
「テストの結果だが、心理を読み解く以外は全問正解だ」
「やた」
「心理に関しては、こちらもこれが本当に正しいかなど作家本人にしかわからないので模範解答がただしいのかと議論になり、今後は入れないことにした」
「やた」
結衣は喜んだ。
「だが、人の心を読み解く、人の心情に寄り添うというのは大事なことだ本などを読むといい、こちらで準備しよう」
「うん」
黒夜の言葉に結衣は頷いた。
「どんな本がいいだろうか?」
所長が黒夜に問いかける。
「勧善懲悪系等がいいだろう、悪が勝ち逃げとかしたりしたらあの子の心理がガタつく」
「他は?」
「哲学……図鑑……まぁ、色々検討するべきだな」
「ふむ……結衣?」
「結衣どうした?」
所長室の扉を開けてのぞき込む結衣に二人はたずねる。
「……」
だが、結衣は何も言わず立ち去った。
「結衣、ここにいたのか」
プラネタリウムの部屋にいてうずくまる結衣を黒夜は見つけた。
黒夜は隣に腰を下ろし、結衣の亜麻色の髪を撫でる。
「どうしたんだ?」
「……さっきおひるねしたんだけど……」
「怖い夢でもみたのか?」
「うん、たくさんの人が助けてってすがってくる夢を見た」
口調が変わる。
「……」
前世の記憶だろう。
結衣は今も前世の記憶は持っているが、曖昧で自分が魔王の生まれ変わりという事だけははっきりと覚えているが他はそうでもないのだ。
「『×××様助けて、くるしい』『×××様、痛いよ』って皆私に助けを求めるのに、私は何もしてあげられない夢を見たの」
「……」
「前世の私が魔王になった原因なのかな……」
「おそらく」
黒夜はそう言って結衣の頭を撫でた。
「安心しろ、結衣にそんな重荷を背負わせない、君はここで静かに暮らすんだ」
「……うん」
結衣はまだ上手く受け止めきれてないようだった。
「……今日は一緒に寝るか?」
「いいの?」
黒夜が一緒に寝ることを言い出すことは無かった。
結衣から言い出し、黒夜が仕方なく受け入れるのが常だ。
だが、結衣は一人で寝るのに馴れているので言い出すことはめったに無い。
「今日一人で寝ると、悪い夢にうなされるだろう。だから側にいよう、私の寝室においで」
「うん!」
漸く元気になった結衣は嬉しそうに天井の作られた星空を見上げた。
「えへへ、黒夜といっしょ」
嬉しそうに言う結衣に、黒夜は内心苦笑する。
こういうときは子どもだなと実感しているのだ。
「おやすみなさい、黒夜」
「おやすみ、結衣」
すとんと眠りに落ちる結衣を見て、黒夜は安心した。
「どうか前世をあまり思い出さないでくれ、母上」
一人そう呟き、目を閉じた。
結衣は、職員の善意に包まれてすくすく育ち、12歳になった。
しかし、外の世界へ出ることは本人も望まないままだった。
「所長! 一度だけでも、彼女を外の世界に!」
職員達が掛け合うが所長は首を振る。
「ダメだ、外は彼女には危険すぎる。もし覚醒したらどうするんだ? 殺すのか?」
「それは……」
「でもこのままこの施設で生涯を終えるのは悲しいっすよ!」
「私も分かってはいる、だが前回の施設で覚醒しかけたことで、魔王の生まれ変わりを覚醒させるカルト集団と、殺そうとする教会から彼女を守るにはこれしかないんだ」
そう言うと、職員達は黙り込んでしまった。
「みんなまだその話してるの?」
「「「「?!」」」」
「結衣、いつから」
「最初から、外の世界にって所聞いたよ。嬉しいけど、私は外に出たくないの」
「結衣ちゃん……」
「確かに外の世界だと魅力的なものはたくさんあるけど、それ以上に私を魔王に覚醒させる要因が多すぎる気がするの」
「……」
「それに、欲しいものはみんなが買ってきてくれるし、コラボ料理とかも再現してくれるし不満はないよ!」
「だから、私の為を思うなら、外の世界にだそうとしないで、お願い」
結衣はそう言ってうつむいた。
「どうしたんだ?」
出張から戻ってきた黒夜が所長室に入ってきた。
「いや、なに、皆が外の世界に一度だけでも出してあげたいという思いを、本人が否定してしまって気まずい空気になってるだけだ」
所長は苦笑いを浮かべて答える。
「そうか……結衣」
「何?」
「土産だ」
黒夜はぬいぐるみを取り出した。
青くまん丸なぬいぐるみだ。
「わ……! ご当地ぷにっこのぐみのぬいぐるみだ! 有り難う!」
結衣は無邪気に喜んだ。
「どういたしまして」
黒夜は淡い微笑みを彼女に向けて、頬を撫でた。
これが私の世間で言う小学生時期に相当する出来事かな。
ゲームは今も好きだし、やれる幅も広がってきた。
ただ胸くそ悪いゲームとかは所長さんと職員さんがはじいちゃうから、少ないっちゃ少ないね。
TRPGも結構選んで遊んでる、ここぞとばかりにクリティカルが出ちゃうのなんでだろうなぁ。
それと夢。
今も時々見るんだ。
辛いのから幸せなのまで色々……そういうときは黒夜に寝るまで側にいて貰うの、黒夜が側にいてくれると安心するの、どうしてかな。
……前世の息子が側にいてくれるから?
それだけかなぁ?
外の世界への興味はあんまりない。
ゲームとかアニメとコラボする奴は興味あるけど、職員さんが行って全部料理を再現してくれるから行く必要ないし……
コラボ商品とかは職員さんと黒夜が買ってきてくれるからそれで嬉しいし……
それで十分幸せなのだから、これ以上幸せを望むのは身勝手な気がするの。
さて次は私が中学生時期に相当する時の話──
自分が「無菌室」でしか生きられないから、悪意という「ばい菌」だらけの外には出たくないという結衣の願い。
結衣は施設の優しい人達と黒夜がいればそれでいいのです。