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006 映画とグッズ

『ただ今より7番シアター、転生勇者は毒を喰らい進化する劇場版の入場を開始します。チケットをお持ちの方は入場口までお越しください』


 ちょうどいいタイミングで入場案内が始まった。


「じゃあ行きましょうか」

「あっ、待って!」

「え?」

「ポップコーンとジュース買わなきゃ」

「へぇ、食べる派なんですね」

「む……なんか失礼じゃない?」

「いやいや、他意はないですって!」


 この後ランチなのにすごいなと普通に思っただけなのに! それがダメなのか? ラノベには書いてなかったな。

 美影さんはフード列に並んで数分後にポップコーンとジュースを満足そうに持って来た。


「よーしっ、準備完了だね」

「は、はい」


 まさかのLサイズ! 予想外すぎる。

 入場口でチケットを見せて無事に通過できた。そしてお目当ての入場特典であるクリアファイルも手に入れることができた。

 7番シアターの予約してあった席に座ると、続々と客たちが入ってくる。


「こうして見ると異世界ものの人気っぷりがわかりますね」

「そうだねー。あっ、カップルかな?」

「いや、その理論だと俺たちもカップルに見られますよ」


 自分で言い終わってからハッとした。

 美影さんにはそんなつもりないだろうに、わざわざその気を見せてしまった!

 しくじったと思ったが、意外にも美影さんは反論なんてしてこなかった。


「いいんじゃない? そう見られても」

「え? それはどういう……」

「いやいや、他意はないよ」

「さっきの仕返しですか」


 美影さんがポップコーンを買ってきた時に俺が言った言葉を返されてしまった。

 有耶無耶にされてしまったが、頭ごなしに否定されるよりは億倍マシだ。

 上映が始まる前に最新映画情報がたくさん流れてくる。

 アニメ映画を観に来ているので必然的にアニメ映画の宣伝が多いのだが、その中でも異世界ものの比率が想像の倍はあった。

 マジで人気なんだな……なんか異世界に行けたことを初めて誇らしく思えてきた。


「始まりそうだね」


 俺にしか聞こえない声量で小さく呟いた美影さん。なんだか独り占めしているみたいで嬉しくなる。

 映画は原作の7巻と8巻を忠実に映像化しており、余計なアニオリは一切含まれていなかった。

 ネット掲示板とかを見ても原作者の知らないモンスターとか揶揄されたりするから、これが正解の方法なのかもしれないな。

 ちなみにこの作品の1番の見どころである魔王戦の毒を食べるシーンは大いに盛り上がった。

 これまでリスクを恐れ、所持はしていたものの食べることはしなかったデススコーピオンの毒袋。それを意を決して食べるシーンはアニメ界に残る名シーンとして語られてもおかしくないくらい作画も気合が入っていた。

 ふと隣を見ると美影さんも完全に見入っているようだった。瞳がキラキラと輝いている。まるで初めてニチアサを見た少年のようだ。


「あー面白かったー!」

「いい作品でしたね。演出も作画も凄かったです」

「これでやっと原作も読めるー! 劇場版決まってたから読んでなかっただけでちゃんと追っていたんだよ?」

「もちろんわかってますよ。美影さんの熱意は伝わりましたから」

「あ、グッズ買っていってもいい?」

「はい、もちろん。見ましょうか」


 映画を観てからそのままグッズへ。オタクだったら誰しもが通る散財ルートだろう。

 映画を観た後ってなんかふわふわするんだよな。そのふわふわで財布の紐も緩んで諭吉さんがふわふわするわけだ。


「うーん、ヒロインちゃんのアクリルスタンドかぁ」

「いいイラストじゃないですか」

「そうなんだけどねぇ。1200円かぁ」

「バイト1時間と少しっすね」

「むー、またいじわる言う」

「……すんません」


 どうやら俺は一言余計なようだ。これからは変なことを言わないように気をつけよう。


「決めた、買うよ!」

「結構早い決断ですね」

「うん。可愛かったし、護られてばっかりじゃないシーンが好きだからね」


 確かにこの作品のヒロインは護られてばっかりじゃなく、最後は毒のリスクを主人公と折半して魔王を倒した。最近では珍しめな強いヒロインなのだ。

 美影さんは1200円を支払い、ヒロインのアクリルスタンドをゲットした。


「うーん、高いけど原町くんとの思い出が形になったと思えば安いかな」

「すごくいい表現されますね。ちょっと驚きました」

「ふふん、さすが本屋の娘でしょ?」

「もういっそのこと小説を書いてみては?」

「……正直、原町くんも書こうと思ったことあるでしょ」

「はい」

「何で書かなかったのかな?」

「リアル異世界はエンタメに富んでいないからです」

「その通り」


 自分たちで言ってて悲しくなった。

 俺たちは異世界のリアルを知っているから現実を書ける。

 だが読者は異世界のリアルを知らないので、伝わりようがないのだ。そしてエンタメ性に欠ける作品ということで読み捨てられる。火を見るよりも明らかだ。


「さ、さて! 悲しい話は終わりにしてお昼ご飯にしよっか!」

「そ、そうですね」

「この辺りに美味しいご飯屋さんってあったっけ?」

「あ、俺知ってますよ」

「本当? じゃあエスコートしてもらおうかな」


 そう言って美影さんは俺に手を伸ばしてきた。

 マジで? 手を繋いでいいの?

 せっかくだから……とこっちも手を伸ばしたら美影さんは手を引っ込めて顔を赤くした。


「じょ、冗談だから! 原町くんは真面目だなー、もう」


 ……そういう冗談、心臓に悪いのでもうやめてください。いやマジで。

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