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005 デートで批評?

 集合時間は9時だったけど、気合を入れて8時に着いてしまった。気合が入りすぎたか。

 凛音の服を着ているわけだが、やはり少しだけ恥ずかしいな。オシャレであるのは間違いないと思うが。

 45分くらい待ったところで美影さんがやって来た。美影さんも結構早く到着してくれたんだな。


「お待たせー、待たせちゃったかな?」

「いえ。今来たところです」

「よかった!」


 ラノベの主人公もこう言っていたし、問題はないだろう。あとは……


「その服似合っていますね」

「本当? このブルゾン気に入ってるから嬉しいな。っていうか原町くんもオシャレだね。悪いけどちょっと意外かも」

「あはは……」


 服、借りておいて良かったな。褒められて初めてそう思った。

 美影さんの服はブルゾンって言うんだ。そこまではラノベにも書いてなかったな。まぁいいか、似合っているのは事実だし。

 待ってないことを伝える、服を褒める。よし、デートの始まり2点をしっかりと実行できたぞ。


「そうだ、昨日聞き忘れちゃったんだけどお昼とかどうする?」

「俺は時間空いていますよ」

「良かった、じゃあ食べていこうか」


 よしよし、昼食まで約束されたのならこれはもはや正式にデートといっても差し支えないだろ!

 あと気をつけるべきことは車道側を歩くなど細かいことだ。それらすべてを実践して、約4年ぶりに映画館へやって来た。


「ネット予約なんて便利ですよね」

「そうだね。でも私が異世界に行く前からあったよ?」


 あれ? じゃあ俺が異世界に行ってから美影さんが異世界に行くまでの間にできたのか? それとも俺が文明に取り残されていただけか? まぁいいか。


「映画館、よく来られていたんですか?」

「うん。家族でね」

「へー家族で」


 これで彼氏とね、なんて言われていたら脳が破壊されていたかもしれない。助かったと言わざるを得ないだろう。

 ただ家族というワードは実は重かったりする。

 おそらくだが美影さんが異世界に行ってから両親は離婚されている。そして親権は店長であるお父さんが持ったはずだ。それらしきことを面接の時に言っていた気がする。

 まぁ俺の家庭も複雑だしな。子どもが数年も寝ていたら家族関係だって壊れるだろう。


「はいこれ。チケットね」

「はい。いくらですか?」

「いいよいいよ、私の行きたい映画に付き添わせているんだし」

「いやいや、俺だってこの映画は観たかったですよ」


 美影さんから誘われていなかったらたぶん面倒くさいと思って行ってなかっただろうけど。


「ここは奢らせて? ね?」

「う……はい」


 手を合わせてお願いするように言われてしまったら反対できない。あまりにも可愛くてズルいお願い方法だ。パパ何でも買っちゃいそう。

 自分で考えておいてなんかキショイなと思ったので反省する。ありがたく美影さんからチケットを受け取って、昼食は絶対に俺が奢るんだと決意した。


「楽しみだねー、でもまさか劇場版まで作られるなんて思わなかったなー」

「確かにそうですね。ちょっとクセのある作品でしたが、それがウケたんでしょうね」


 今日観に来た『転生勇者は毒を喰らい進化する』はそのタイトル通り、異世界に転生した勇者が毒物や毒虫を食って強くなっていく変化球な作品だ。

 ただありきたりなチートや神に頼らない点や強くなるためなら吐きそうになってでも毒を喰らう主人公が評価され、劇場版までたどり着いたわけだ。


「原作7巻と8巻のところを映画化するんだっけ」

「ラスト2巻ですね。一番盛り上がるところですよ」

「あー言わないで! 私実は読んでないんだ」

「えっ? そうですか? じゃあ俺はネタバレ爆弾を抱えているわけですね」

「むー、原町くんのいじわる」


 ぷくっとむくれてしまった美影さん。世界一可愛い。

 それにしても毒を食って強くなるか。作中でもリスクがあってそれを飲んだ上で毒を食っているわけだが、こうしたリスクありの作品は嫌いじゃない。実にリアルだからだ。


「あ、なんかこの作品の批評しているでしょ」

「な、なんでわかるんですか?」

「なんか顔が険しくなるか哀愁が漂うもん」

「そんなに特徴出るんですか。気をつけよ……」


 客観視しないと気がつけないことはたくさんある。まさか異世界ものについて心の中で批評している時にそんな顔になっていたとは。そりゃすぐに美影さんに気がつかれるわけだ。


「それで? 今回はどんな悪口を思いついていたのかな?」

「いや悪口じゃないですよ。むしろ評価しています。毒を食べて死ぬリスクを背負いながら、いざヒロインを護るって時には迷わず毒を食べるその勇敢さ。俺はかっこいいと思いました」

「そんな場面が原町くんにもあったのかな?」

「ないです」


 そこはきっぱりと断言しておいた。

 そんな胸を張れる出来事なんてなかった。まぁ強いて言うなら王都を守るために一人でドラゴンと戦ったことはあるが、ちょっとこの作品の主人公とベクトルは違うだろう。


「原町くんの異世界話、聞けば聞くほど気になっちゃうなー」

「俺も美影さんの異世界の話は興味ありますけどね」

「えー? 王都をにいたのは3週間くらいで、あとのほぼ丸2年は田舎暮らしだよ? つまらないよ?」

「それでも気になりますよ。俺たちは唯一無二の異世界帰りの書店員ですから」

「確かにそうだね。そんな経験できたの私たちだけだもんね」


 酸いも甘いもと言うにはあまりに酸味が強すぎる異世界生活だったが、今振り返れば好きな人とを繋ぐ架け橋になってくれている。

 だから俺はこの異世界トークという手札を捨てたくはなかったし、一方通行にしたくもなかった。

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