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034 SNS作戦

 次の日の午後、二宮先輩の大学の講義が終わるのを待って俺たちは美影書店に集まった。

 日菜は店を閉めなくてもいいように俺たちが頑張ることを店長に伝えたらしい。店長の反応は微妙だったらしいけど。


「それじゃあ頑張りましょうか!」

「ういっす! 何する?」

「昨日の投稿の確認からしましょう。どうでした?」

「んー……フォロワーちゃんたちは困惑中。アタシが本屋でバイトしているって信じてくれない人多いし。萎え」

「まぁ……確かに」


 大きなショッピングセンターの化粧品コーナーとか、居酒屋とかでバイトしていそうだもんな。勝手なイメージだけど。

 俺もその投稿のコメントを読んでみたが、決して否定的なコメントばっかりではなかった。

 文学ギャルきた! とか、意外性あり! とか好意的と捉えても良さそうなコメントも多い。

 いいねの数も3700と俺から見たら半端ではない数だ。


「悪くないと思うんだけど、由香さん的にはイマイチ?」

「んー……今までで一番バズったのが3万いいね行ったしなぁ」

「さ、3万……」


 破格の数だ。ちなみに何でそんなにいいねをゲットしたか見せてもらったが、ギャル仲間とプールに行った時の写真らしい。納得。


「3万のいいねが最高で、フォロワーが4万人もいるんですよね……どれだけの人望があればそんなに行くんですか?」

「毎日の写真投稿とリプ返とフォロバっしょ」


 マメだ。マメな上に人望がある。二宮先輩なら間違いなく異世界でも成功できるな。

 それだけ努力していたものをタダで借りるのは気が引けるが、二宮先輩だって美影書店が潰れるのは嫌だと言っていた。協力してもらうほかないな。


「もっといい写真を撮るべきかな」

「そうですね。いったん本たちとツーショットでいきましょうか」

「ういっす」


 また謎の棒を取り出してパシャりと写真を撮った。

 構図や背景など、いっさい悩むことなく即決で写真を撮っている。もはやこれは慣れなのだろう。

 ちなみに本のコーナーの指定だけはさせてもらった。異世界もの。俺たちが押し出すべきものに沿った作品を選ばせてもらった。


「おけ、投稿完了」

「ありがとうございます。あとは日菜と俺がどう絡むか……正直言って考えがまとまってないです」

「私としては異世界帰りって言っちゃうとフォロワーさん離れちゃうと思うんだけどなぁ。由香さんのフォロワーさんってアニメとか漫画とかライトノベルとかが好きな人少なそうだし」

「ぶぶー。それ間違い」

「え?」

「ギャルもパリピもウェイ系も、みんな話し合わせるためにアニメとかバリバリ観てるから」

「そ、そうなんだ……知らなかったです」


 人と話を合わせるって大変なんだな。その努力を見てないところでするというのはカッコいいことだ。


「だから何も考えずにアタシのアカに入ってきなよ。日菜とか可愛いし人気出るって」

「そ、そうですかね……」

「ねぇ、拓人っちもそう思うっしょ? ……拓人っち?」


 日菜が二宮先輩のアカウントに登場すればもちろん人気は出るだろう。それは美影書店の存続に繋がると思うし、いいことだ。

 だけど……だけどなんか複雑だ! 好きな子がインターネットの海に流れてしまう。想像するとモヤモヤが止まらない!


「あ、これダメだ」

「えっ? 拓人くんダメなの?」

「うん。大学でよく見る後方彼氏ヅラしてるわ」

「ど、どういうこと?」

「まぁ日菜は知らなくておけ」

「えー?」


 葛藤している間に勝手に俺を分析しているな。

 まぁ勝手に彼氏ヅラしている事実を言われているわけだし、反論できない。


「ともかく日菜の出演は確定。あとは……拓人っちどうする?」

「拓人くんは出ないの?」

「……リスクがな」


 ギャルのアカウントに男が登場する。そのリスクくらいネットに詳しくはない俺でも理解している。

 俺は裏方と、背景にたまに映るモブくらいが丁度いいだろう。映えないし。


「んー、まぁそれは否定しない。おっ、さっきの写真1000いいね行ったよ」

「さすがですね。ここから……日菜、出てくれるか?」

「うん。私でよければいくらでも!」

「いい心がけじゃん? じゃあエプロン着て撮ろっか。あ、名札は外してね」


 ちゃんと身バレを防いでくれるのもさすがだ。

 今度は動画を投稿するらしい。ちょっとだけ日菜と二宮先輩で打ち合わせをしていた。

 俺は黙って見守っていよう。


「ちわー。今日はアタシのバ先に来たよ。あ、今日はバ先休みだけど撮影しているからバイトテロじゃないからね! よろー」


 いい前置きだ。炎上対策バッチリ。


「で、これがバ先の後輩ちゃん。可愛いっしょ?」

「ど、どうもこんにちは!」


 日菜は誰から見てもカチカチに緊張していた。可愛いが、今はもう少し堂々としていて欲しい。

 俺は日菜の緊張をほぐそうと、正面に立って変顔とかしてみた。意外とウケて、笑ってくれた。主に二宮先輩の方が。


「めっちゃいいバ先なんだよねぇ。でも全然お客さん来なくて潰れるかもって言われてぴえん」

「ぴ、ぴえんです!」


 打ち合わせ通りなのだろうが、日菜がギャル用語を使っているのが俺に刺さった。尊いで死にそう。

 1分もしない動画撮影が終了した。最後に二宮先輩が遊びに来てね、と言っていたので何人かは店に来てくれるかもしれない。


「じゃあ今日は解散にしましょう。明日この動画を見た人たちが来てくれることを信じましょう」

「そうだね。恥ずかしかった分くらいは来てほしいな」

「アタシもバ先公開したんだし、少しくらい来てくれないと困るし」


 俺たちは大きな手応えもなく、とりあえず時間なので解散した。

 ……はぁ、上手くいくのかな。

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