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030 女子トーク

「聞かせてくださいよ! 日菜さんの異世界の話!」

「凛音ちゃんすごく興味あるんだね」

「はい! 私そういう話大好きですから!」


 日菜さんとお泊まり会を開いている。

 兄しかいない私にとって、姉という存在に憧れを抱いた瞬間はあった。だから今はすごく楽しい。

 日菜さんは私が理想としている姉そのもので、本当に優しくて温かい人だと出会って数時間でわかった。お兄ちゃんが惚れちゃうのも納得だよ。

 そんな私ですら惚れそうな日菜さんの異世界での好きな人、私が絶対に突き止めてみせる。

 そう、私は今回のお泊まり会でお兄ちゃんのアシストをするつもりなんだ。まぁトランプ大会ではお兄ちゃんが痛恨のミスをしたせいでいいパスも無駄になっちゃったけど、情報を聞き出すことで何か進歩できるかもしれない。


「私の異世界の話、暗くてつまらないよ?」

「構いません! 暗めの作品もたくさん読んでいますから! 私はリアルが知りたいんです!」


 まぁぶっちゃけ、自分が異世界の話に興味があるというのもあるけどね。

 お兄ちゃんが昏睡状態になって、私は一人になった。

 お父さんはお母さんと揉めてどこかへ行ってしまったので、それが孤独を加速させた。

 そんな時、私の前に現れたのがアニメや漫画、ライトノベルたちだった。

 初めてそれらに触れた時のことは感動という安い言葉では言い表せないほどに、私の中に強い衝撃を与えた。

 それから4年間、私は異世界作品を中心に視聴して、今に至る。


「私はそうだな……婚約破棄って知ってる?」

「もちろんです! いくつか読んでいますよ!」

「うん。その婚約破棄をされちゃった人なんだよね」

「兄から聞いています。王子様から婚約破棄されたんですよね?」

「うん。あ、でも全然悲しくなんてなかったからね? むしろ異世界に行っていきなり王子と結婚するって決められていた方が嫌だったもん!」

「そ、それは確かに困惑しますよね」


 大体の主人公は王子と結婚するって決められていた瞬間にもう半分落ちているけど、現実はそう容易くはない。

 日菜さんはたぶんしっかりとした恋愛の価値基準を持っている人だろうから、尚更だろうね。


「そこからは怒涛の毎日だったよ。王子の兄弟のイケメンと結婚! とか、没落貴族のイケメンに求婚される! ……とかあると思うじゃん?」

「は、はい」

「なかったねー。すぐに調査という名目で未開発の森に飛ばされちゃった」

「えぇ……急展開ですね」

「うん。誰も王都では私を守ってくれる人なんていなかった」

「王都では?」

「うん。村で生活している時、いたんだよね。守ってくれる人が」

「ま、まさか日菜さん、その人のこと」

「うん、大好き。今も」


 うわぁ……お兄ちゃんめっちゃ強敵だよぉ。どうするのこれ!

 女の子は守られることに弱い。たぶん。少なくとも私はそうだもん。


「て、照れるねなんか」

「い、いやー。私も照れちゃいますよ」

「でも村での生活も大変だったよ。その人が現れるまで、馴染めずにほとんど一人でいたし」

「日菜さんみたいな方でも馴染めないんですね」

「うん。文化とか宗教とか礼儀作法とかしきたりとかね。こればっかりは難しい!」

「そうですよね……」


 こっちの世界でも環境に馴染めないなんていくらでも聞く。異世界ならそんなの当たり前にあるんだろうね。


「でもその人が現れてくれて、たったの2日だけど私の中では大きな2日だった」

「……ほう?」

「森の中をデートしたり、ご飯を食べたりね」

「……え、ちょっと待ってください。整理していいですか?」


 なんかどこかで聞いた話だと思った私は一度会話の主導権を握ろうとした。

 なんだろう……すっごい引っかかる!


「うん。いいよ」

「まず日菜さんは王都を追放されて田舎の村で住んでいたんですよね?」

「うん」

「で、そこに現れた人に守ってもらったと」

「ゴブリンが村に襲ってきてね。守ってくれたんだ」

「そして森をデート」

「うん。彼から誘ってくれたの。楽しかったよ」

「ご飯も食べた、と」

「美味しいって言ってくれたよ」

「それ……もしかして……」

「ふふっ、凛音ちゃんにはバレたかな?」


 日菜さんはいたずらっ子のように笑った。

 察したけど、言葉にされないと信じられない!


「もしかして……日菜さんを助けた、日菜さんが惚れた人って……」

「うん。拓人くんのことだと思うよ」


 頭を鈍器で殴られたような衝撃だった。

 お兄ちゃん……勝ち目がないと思ってたけどもう勝ってるじゃん!


「ひ、日菜さんはその人がお兄ちゃんって知っているんですよね?」

「うん。拓人くんの話を聞いて間違いないなーって思ったよ。それに拓人くんとデートした時も同じやり取りがあったし、確信するのは簡単だったかな」

「あ、空いた口が塞がらないです」

「ふふ、そんなに?」

「だって日菜さんみたいな人がお兄ちゃんのことを好きだっただなんて……あれ? さっき今も好きって……」

「うん。大好き」

「ひゃあぁ!?」


 発狂するほかなかった。

 少し顔を赤くした日菜さんは優しく微笑んでくれた。


「そ、そのことを知っている人は?」

「凛音ちゃんと、バイト先の先輩だけだよ」

「お兄ちゃんには……」

「言ってない。たぶん拓人くんも異世界での私のこと、好きだよね?」

「……はい」


 正確には日本の日菜さんのことも好きなんだけどね。


「じゃあまだ教えてあげなーい」

「ど、どうしてですか?」

「女心」

「えっ?」

「好きな人に気がついて欲しい。そんな女心かな」


 なんかわかる気がしてしまった。

 私も日菜さんも……いや、女はみんな、悪女の素質を持って生まれてくるのかもしれない。

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