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029 トランプ大会

 凛音の部屋にガッツリ入るのは異世界から帰ってきてからだと初めてなので、その変貌ぶりに驚いた。


「え、何この透明なケースは」

「祭壇だよ?」

「さ、祭壇?」


 凛音はいつの間にか怪しい宗教に毒されてしまったのか!?

 心配する俺の肩に日菜の手が乗せられた。


「拓人くん、祭壇っていうのはオタクが推しのグッズを絢爛に飾るもののことを言うんだよ」

「ほ、ほう」

「ほら、よく見るとありがたいものに見えてこない?」

「えー? ……あぁ、確かに?」


 キャラのフィギュアも色紙も原作小説も、綺麗にぴっちり並んでいたら神々しく見えてきた。

 これが祭壇か……オタクも奥深いな。


「それにしても凛音ちゃんが祭壇作るタイプのオタクだなんて思わなかったよー」

「あはは、意外とガチなんですよー」


 妹がガチなオタクになっていることには複雑だが、それだけ本気になれるものがあるのはいいことだと思う。

 日菜は引いている様子じゃない。こういうところも日菜のいいところだな。


「あ、ここの配置はこうしたほうがいいんじゃないかな?」

「た、確かに!」


 ……ん?


「日菜、ずいぶん詳しいな」

「うん。私の部屋にもあるからね」

「へぇ、日菜の部屋にも……えっ?」

「この前キャラくじで引いた子も新しくお迎えしたよ!」


 そ、そんなペットみたいに言われても。

 日菜もそれなりにオタクだと思っていたが、まさか同じく祭壇タイプだとは……。

 俺の周りにはガチのオタクが多いらしい。凄いことのような、違うような。


「そんなことより布団敷いてトランプしましょうよー!」

「そうだね。私もこの部屋で寝るのかな?」

「はい! 夜はお兄ちゃん抜きでガールズトークですよ! 寝かせるつもりはありませんからねー」

「凛音、客人に寝かせるつもりはないとか言うな」

「モノの例えだよー」


 凛音はムッとしながら布団を敷き始めた。

 俺は下から客人用の布団を持ってきて、凛音の布団の隣に敷いた。


「じゃあ第一回パジャマトランプ大会を始めましょー!」

「わー!」

「どうします? 罰ゲームとか用意します?」

「あんまりエスカレートしない罰ならいいぞ」

「うん。常識の範囲内でね」

「はい! じゃあまずこのババ抜きに負けた人は……勝った人の好きなところを言う! で」

「えっ」

「うん、いいんじゃないかな?」

「えっ」


 何その恥ずかしい罰ゲーム。そしてすぐ飲み込んだ日菜もどうした!?

 俺だけか、俺だけがついていけてないのか。それはまずいな。

 こうして緊張感あるババ抜きが始まった。天から見放されたのか、初期手札で捨てられるものは俺が一番少なかった。


「やった! 私が一番だね」

「ぐぬぬ……お兄ちゃんには負けないから」

「俺も負けられなくなった」


 日菜の好きなところを言うんでしょ? しかも妹の前で。

 そんなの……恥ずかしくて死んでしまうわ。

 そして俺の手札は1枚で凛音の手札は2枚。俺がジョーカーを引かなければ勝ちだ。


「こっちかな? それともこっちか?」

「さぁ? どうだろうねー」


 ちっ、小学生の頃はこれで一発で分かったのに。ポーカーフェイスを覚えたか、凛音よ。

 だが兄の目を誤魔化せると思わないことだな! 

 妹をずっと見守り続けたこの目を、今使うとき!


「こっちだ!!」


 ジョーカー。


「はい、こっち。私の勝ちー!」

「ば、バカな……」


 俺が負けただと……ありえん。


「じゃあお兄ちゃん、罰ゲームだよ」

「ぐっ……」

「拓人くんが私の好きなところを言ってくれるんだ。嬉しいなぁ」


 その嬉しいの意味が聞きたいが、恥ずかしさでそれどころではない。

 日菜の好きなところか……いくらでもあるけど、恥ずかしくないところを言おう。

 いや待て。それでいいのか? 俺は日菜が恋した異世界の男に勝たねばならないのだぞ。逃げてばっかりでいいのか?

 否、断じて違う。それではいつまで経っても異世界の男に勝てない。

 俺がやるべきことは……その男よりも男を見せることだ!


「日菜、お前の好きなところは……」

「う、うん……」

「や、優しいところだ」

「……えっ? あ、ありがとう……」


 なんでこのタイミングでチキるんだよ俺!!

 凛音もそれはないわって顔しているし。わかるよその気持ち。俺でもするもん。


「お兄ちゃんさー、優しいところなんて出会って初日の私でも言えることだよ?」

「う……だ、だって……」

「はぁ、チキンなお兄ちゃんにはこれ以上言うことはありませーん」

「いや、日菜! もっとあるからな! 自信持ってくれよ?」


 なぜか俺がフォローするというわけわからないことになってしまった。我ながら情けない。


「もうお兄ちゃんは出てってください。度胸のない人はトランプ参加禁止です」

「えー……一回の失敗でこの仕打ち?」


 凛音は今までにないくらい俺に冷たい視線を向けてきた。

 たぶんだけど、このトランプと罰ゲームは凛音が俺に気を遣って提案してくれたことなのだろう。俺はそのチャンスを潰してしまった。凛音に申し訳ない。


「今から日菜さんに異世界の話と恋バナを聞かせてもらうもん。もうお兄ちゃんは立ち入り禁止です」

「は、はい」

「じゃあおやすみ」

「拓人くん、おやすみ」

「おう。おやすみ」


 追い出されてしまった。まぁ、当然といえば当然である。

 俺は黙って部屋に戻り、自分のベッドに横たわった。


「はぁ、何やってんだろ」


 このままじゃ異世界の男に勝てない。

 俺はどうすればいいんだ。

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