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028 煩悩退散

「じゃあお風呂入っちゃいましょうか。あの……日菜さん、良かったら私と一緒にお風呂に入ってくれませんか?」

「ぶっっ!」

「うわ! お兄ちゃん汚い!!」


 凛音と日菜が一緒にお風呂だと? なんだよその空間。

 日菜は言わずもがな、凛音だって美少女だ。妹じゃなければ惚れていたかもしれないくらいに。

 アニメだったら絶対に画面録画するやつがいるんだろうなーなんて思いながら日菜の答えを待った。


「凛音ちゃんは甘え上手だねー。私でよければいいよ!」

「本当ですか!? ありがとうございます!」


 意外にも日菜はあっさりとOKを出してしまった。

 凛音はいったい何を考えているのかわからないが、たぶん応援してくれているので黙っていよう。


「じゃあお風呂入ってくるね。お兄ちゃん、覗いたらダメだよ?」

「誰が覗くか!」

「えっー、拓人くん覗くのー?」

「日菜まで……揶揄わないでくれ」

「あはは。じゃあ先にお風呂いただくね」

「おう」


 凛音に背中を押された日菜は風呂へ行ってしまった。

 こうなると日曜日とは違い、俺一人になる。いやまぁこの場に店長や母がいても困るけど。

 一人となるとやることはない。スマホをいじるとか、テレビを見るとかしかないのだが……


「…………落ち着かない」


 ソワソワして、落ち着かない。

 普段俺が何気なく入っている風呂に、今日菜が入っているんだ。なんかこう……繰り返しになるが落ち着かない。

 ただジッとしてしまうとダメだ。風呂場の構造を詳細に知っているからこそどうしてもリアリティある妄想が捗ってしまう。

 ラジオ体操でもしよう。

 はっきりそう思った。


「ラジオ体操第一!」


 体操での一動作を、まるで除夜の鐘一突きのように煩悩を払い飛ばそうと試みた。

 ジャンプしてドタドタしていると、廊下の方からドタドタと聞こえてきた。

 にゅっと頭を出したのは凛音だった。


「……お兄ちゃん何しているの?」

「除夜の鐘だ」

「え?」

「間違えた。ラジオ体操だ」

「何でまた……」

「ってか凛音こそ何しているんだよ。まだ入ったばかりだろ?」

「あっ、待って! 近づかないで!」

「えっ? ……あっ」


 凛音はなんとバスタオル一枚を身に包んで廊下まで来ていたらしい。

 俺の知らない4年間の成長が、薄布一枚の奥に現れていた。


「バッ……なんで服着てないんだよ!」

「急にドタドタ聞こえたから焦ってきたの! お兄ちゃんが悪い!」

「それは……ごめん、反論できないわ」


 冷静に考えればおかしいのは俺だった。むしろ心配で駆けつけてくれた妹を持ったことを神に感謝すべきなのかもしれない。

 凛音はため息をついて風呂へ戻っていった。その際日菜の声で「大丈夫だった?」と聞こえてきたので、風呂場では混乱が生じていたのだろう。

 さてラジオ体操を封じられてしまった俺はどう煩悩を殺せばよいのだろうか。

 悩み抜いた結果、俺は……コンビニに逃げた。


「これでいいんだ、これで」


 明るく輝く夜のコンビニ。

 たむろするマイルドヤンキー。

 仕事帰りのサラリーマン。

 全部が安心感があるものだ。煩悩をくすぐってすらこない。

 まぁせっかくだし、スイーツを買って帰ろう。凛音はプリンとして、日菜は何が好きだろうか。

 記憶を呼び起こしたが好きなスイーツの話をした記憶はなかった。だからまぁ俺の思い出になってしまうが、黒糖わらび餅を買うことにした。

 俺の分は適当にタルトでも買って、10分くらい無駄に過ごして家に帰った。


「ただいまー」

「お兄ちゃん! なんでいないの!?」

「いや……やることなかったし。プリン買ってきたから許してくれ」

「む……こんなもので買収なんて最低だよ。食べるけど」

「突然いなくなってるからびっくりしたよ」

「悪い悪い。日菜にはこれだ」


 パジャマ姿の日菜にときめきながら、冷静を装ってわらび餅を渡した。


「これ……わらび餅?」

「あぁ。日菜は何が好きか知らなくて……苦手だったら俺のタルトと交換するぞ?」

「……ううん。私、わらび餅好きだよ。食べるのも、作るのも」

「へぇ、作れるのか」

「うん! またいつか食べさせてあげようか?」

「お、おう……」


 なんだろう、いつもより日菜の圧が強い気がする。

 凛音はプリンを食べて満足したらしく、ご満悦な表情だった。同じくわらび餅を食べる日菜も満足そうだ。


「じゃ、風呂入ってくるかな」

「行ってらっしゃーい」


 ……待てよ? さっきまでこの風呂には日菜が入っていたんだよな?

 それってダメじゃない? いやいや、意識しなければセーフだったんだろうけど意識した途端にアウトな気がしてきた。

 でも、だとしても、俺は今、猛烈に、風呂に入りたい気分だ。


「うおお! 風呂に入りたい気分だぜぇぇ!!」


 気合を入れてドアを開けると浴槽には綺麗なお湯が、いっぱいに張られていた。

 ……お湯、変えられとる。

 別に残念じゃねぇし。そう何度も念じながら風呂に入った。

 風呂から上がると日菜と凛音はガールズトークに花を咲かせているようだった。

 あの服が可愛い、この美容院がおすすめなど、俺にはついていけない世界だ。


「あっお兄ちゃん、今から私の部屋にお布団敷いてトランプしよ?」

「え? それ俺も参加するの?」

「もちろん! 3人でトランプだよ」

「何それ。日菜はいいのか?」

「うん。楽しそうじゃん!」

「まぁ日菜がいいならいいけど」


 パジャマ姿の女の子とトランプか。

 なんか……リア充にしか許されないイベントに参加させてもらった感があるな。

 あれ、リア充って死語だっけ。まぁいいや。

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