表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

28/38

027 アルバム

「日菜さん、いらっしゃいませ!」


 凛音がエプロン姿で迎えてくれた。きっと夜ご飯を作ってくれているのだろう。


「凛音ちゃんこんばんは。今日はお邪魔しますね」

「はい! 実家だと思ってくつろいでください!」


 そのセリフってどの家に泊まっても言われるの? お決まりなの?


「ほらほらお兄ちゃんは手伝って。日菜さんに美味しいご飯を食べてもらうよ」

「いやいや、俺が手伝っても邪魔だろ?」

「料理はできなくてもスプーンとかなら運べるでしょ? ほら働く!」


 お兄ちゃん、今働いてきたばっかりなんだけどなぁ。

 ただまぁおそらく凛音は俺のいいところを日菜に見せたいのだろう。そういう意味では本当によくできた妹だ。


「じゃーん! 原町家特製のカレーライスでーす!」

「うわぁ! 美味しそう!」


 料理のことになると目がないのか、日菜はカレーに釘付けになった。

 流石にカレーには嫉妬しないな、うん。なんかちょっとだけ安心した自分がいる。


「いただきます。……美味しい!! この酸味はどうやって出しているんですか?」

「ケチャップかな。隠し味だけど少し多めに入れています」

「なるほどー、いい味出ているね」


 料理する2人で盛り上がってしまった。こういう時、俺はどんな表情をしていればいいのだろうか。

 迷っている俺の横腹に凛音の肘が入った。


「痛っ! なに?」

「なに? じゃないよ! せっかく日菜さんが家にいるんだから特別な話をしないと!」

「特別な話ってなんだよ」

「え? それは……とにかく特別な話!」

「曖昧だなぁ……」


 凛音も俺も恋愛の教科書はラノベだ。どうしても限界がある。

 特別な話ってなんだろうか。うーーん……。


「あ、そういえば子どもの頃のお兄ちゃんの写真見ますか?」

「あるの? 見たい見たい!」

「あっ! おい凛音、何勝手に……」


 ご飯中なのに凛音はアルバムを持ち出してきた。

 日菜はもう食べ終わっているからいいが……ってもう食べ終わってる!? まだ2分くらいしか経ってないけど!?

 早食いに驚きつつ、アルバムを開く凛音の手を止めた。


「ちょっとお兄ちゃん何するの! いいところなのに」

「いや恥ずかしいんだが」

「日菜さんは見たいですよね?」

「見たい!」

「ほら、日菜さんこう言ってるよ?」

「えぇ……」


 女子2人の圧力に屈し、俺は渋々手を離した。

 捲られていくアルバム。

 俺の乳児期の写真が視界に入った日菜はよろけてしまった。


「はわわ……可愛いー」

「そんなに可愛いか?」

「可愛いよ! すっごく可愛い!」

「そうか……」


 本当にやけに可愛いと言われるな、俺。もっとカッコいい! とかイケメン! って言われたいんだが。

 そういえば日菜って子どもが好きなんだっけか。

 その好きの対象に過去の俺が含まれるのはなんだか複雑だな。


「もう少し成長したのがこっちですね。子ども園入学のお兄ちゃん」

「かわわっ!」

「小学校入学のお兄ちゃん」

「やんちゃっ子! いい!」

「野球を習い始めた小学3年生のお兄ちゃん」

「坊主頭だ! 可愛いねー」

「……お兄ちゃんなんで顔を伏せているの?」

「やめてくれ……死にそうだ……」


 恥ずかしくて顔から火炎魔法が出そうだ。


「腹を括って拓人くんも一緒に見ようよ。昔の自分を可愛いって褒めてあげよう?」

「いや……しんどいだろそれ」


 でも日菜の気持ちもわかる。だって俺も日菜のアルバムなら見たいし。


「男のアルバムなんて見て面白いのか?」

「面白いよ。坊主頭の拓人くんなんて新鮮だもん」

「まぁ……その1年くらいしかやってなかったけど」

「それに見てよ子ども園入学の拓人くんを。ほら、面影めっちゃ感じる! 可愛い!」

「そうか? 全然今の俺とは違うだろ」

「ううん。この拓人くんから滲み出る可愛さと不器用さが変わっていなくて可愛いよ! 今も含めてね」

「ぐっ……なんか納得いかない」

「まぁまぁお兄ちゃん落ち着いて。日菜さんみたいに綺麗な女の人に可愛いなんて言われる男の人、たぶん世界でも一握りだよ」

「まぁ……確かにそうかもしれないけど」


 金を積んででも可愛いと言われたい男だっているだろうな。

 ただな……実際マジになって言われると超恥ずかしいぞ。


「もっと拓人くんの写真ないの?」

「ありますよ!! 昔はたくさん撮っていたみたいです。えっと……」

「こら凛音、ご飯中に何度も席を立たない!」

「むー、厳しいなぁお兄ちゃんは」

「じゃあご飯食べたらお兄ちゃん抜きでお兄ちゃんの恥ずかしーい写真をいっぱい見ちゃおうか」

「はい!」

「ちょっと? 何だよ恥ずかしい写真って。俺そんなの知らないぞ?」

「お兄ちゃんが初めておねしょした写真とか」

「消せーーーー!!!!」

「あははははは」


 俺と凛音が騒いでいると日菜が大笑いしてしまった。


「な、なんかおかしかったか?」

「うん。拓人くん楽しそうだなーって」

「いや……必死だけどな。でもそれを言うなら日菜、お前だって楽しそうな顔をしているぞ」

「へ?」

「俺のアルバムなんか見て楽しいかねぇ。まぁもういいけどさ。諦めたよ」

「じゃあ今度はお兄ちゃんがお花を持ってきて花飾りを作った写真を……」

「なんでそんなの撮っていてしかも凛音が把握しているんだよ!」

「あははは、うん、楽しいや」


 凛音も、日菜も、まぁ一応俺も。

 誰もがこのお泊まり会が楽しくなると確信するような、そんな夕食になったのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ