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025 凛音の襲来

 月曜日は美影書店が休みで、火曜日は俺のシフトが入っていないのでさらに休み。体の疲れは取ることができた。

 ただ心の疲れというか、日菜が異世界の恋を引きずっているという事実はまだまだ俺に付きまとっていた。


「お兄ちゃん顔暗いよ」

「……そうかな」

「ただでさえ暗めな顔なんだからもっと笑わないと美影さんに嫌われちゃうぞー」

「むぅ……」

「せっかく自分磨きしてちょっといい感じになったのに」

「いい感じになったのならいいんだけどな」

「そろそろ教えてよ、美影さんの家で何かあった?」

「……何もねぇって」

「嘘だね! だったらお兄ちゃんがそんなにダウナーにならないもん!」


 凛音にはすべてを見抜かれる。

 良いことがあれば浮かれるし、悪いことがあればダウナーになる。

 どうやら俺は心の状態が顔や態度に出やすいようだった。


「まぁ……ちょっとな」

「話してみてよ。可愛い可愛い妹ちゃんが相談に乗ってあげるよ?」


 可愛い可愛い妹ちゃんに恋愛相談をするのはどうなんだろう。

 ちょっとだけ悩みつつ、まぁいっかと腹をくくって話すことに決めた。


「実は日菜がな、その……まだ異世界の恋を引きずっているってわかったんだ」

「ほ、ほうほう! 日菜さん異世界で恋しちゃったんだ!」

「あぁ。まぁ2年もいたら恋の一つや二つ……あるよな。ううっ」

「な、泣かないでお兄ちゃん」

「泣いてない……泣いてなんかない」


 どっちが子どもか分からなくなってきたな。


「日菜さんって婚約破棄されたんだよね? じゃあ恋ってやっぱり王族?」

「いや、婚約破棄されて追い出された先で出会った男らしい」

「そ、それはエピソードも相まってお兄ちゃんには太刀打ちが……」

「ううっ……」

「あぁ泣かないで! 本当に泣かないで!」

「泣いてなんかねぇし!」


 目から汗が滲み出ているだけだし。

 落ち着いたところでバイトの時間になった。水、木、土日。週4のバイトはちょうどいい具合に俺を社会活動へ復帰させてくれる。


「じゃあ行ってくる」

「う、うん。行ってらっしゃい」


 まだまだ聞き足りないぞと凛音が無言の圧を飛ばしてきた。

 今日は二宮先輩はシフトに入っておらず、俺と日菜の2人だけだ。まぁ店長がいる可能性はあるがな。

 そっと美影書店に入ると、店長の姿はなかった。


「こんにちは、拓人くん」

「お疲れ。店長はいる?」

「ううん。昨日からまた他県に行ってるよ。何か用事あった?」

「いや、なんでもない」


 よし、日菜と2人きりか。これはテンションも上がるというもの。

 エプロンを身につけて、さぁ日菜とお喋りだ! と思ったら客が来た。そういえばこの時間ってバイト中なんだわ。

 レジ業務に入る。日菜と話したい気持ちを押し殺してのレジ打ちは苦痛だった。

 純文学とラノベを同時に買っていく面白い客だった。いろいろな形の読者がいるんだな。

 客がいなくなったと思ったらまた次の客、次の客と今日は客の足が止まりそうになかった。

 ようやく客足が止まったところで日菜に話しかけることができた。


「なんか今日は客が多いな」

「うん。台風明けから多かったよ?」

「そういうもんなのか」


 客がどのタイミングで増えるのか、まだ慣れていない俺には掴めないな。

 もっと日菜と会話を……と思ったところでまた客が来た。


「いらっしゃ……い……」

「拓人くん? どうしたの?」

「あ、いや……」


 その客は俺のよく知る人物だった。

 幼い顔立ちに、黒髪ポニーテール。見間違うこともなく妹の凛音だった。


「お疲れさまお兄ちゃん。この本ください」

「あ、はい」

「えー!! 拓人くんの妹さん?」

「お、おう。妹の凛音だ」

「初めまして。美影日菜さんですよね?」

「うん。でもどうして私のことを?」

「兄から話は聞いているので」


 話どころかネットから日菜の写真まで手に入れていただろ。とは言わなかった。

 余計なことを言わなくなった分、成長しているといえるな。


「そうなんだ。拓人くんはお家で私のどんな話をするのかな?」

「日菜さんの素晴らしさを事細かに説明してくれます」

「お、おい。余計なことを言うな」


 余計なことを言う癖は原町家に受け継がれたDNAに刻まれてしまっているのだろうか。


「へー、拓人くんが私の素晴らしさをねー。ニヤニヤ」

「あんまり見つめないでくれ。照れるから」

「この本屋さん店員さんがイチャイチャしてるーって話題になってない? 大丈夫?」

「普段は客がいたら黙っているから心配は無用だ。それで凛音、何しに来たんだよ」


 基本は電子で読むはずだし、本を買うにしても街の大きな本屋さんで買っていたはずだ。

 なぜ今ここで美影書店に来たのか。気になって仕方がない。


「それはもちろん日菜さんに会いに来たからだよ!」

「えっ? 私?」

「はい! 兄から毎日聞かされる日菜さんってどんな人なんだろうなーって思ってきました! すっごく美人さんで驚いています!」

「そ、そんな美人さんだなんて……」


 照れ顔の日菜はレアだ。よくやったぞ凛音。


「頼りない兄ですが今後ともよろしくお願いします」

「頼りないことなんてないよ! 拓人くんはお店のことほとんどできるし、話し相手になってくれるしそれに……」

「それに?」

「う、ううん。なんでもない」


 なぜかこの空間の支配者が凛音になっている。

 俺の妹はもしかしたらすごい成長を遂げてしまったのかもしれない。

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