021 夢②
「く、来るな! この村はお前たちゴブリンに屈したりなどしない!」
「なぜゴブリンが我らの村に来る! くそっ!」
「父ちゃん、俺だって戦う!」
子どもまで加勢しているところを見るに本当に極限状態なのだろう。勇敢な子どもだ。ただ……
「魔法剣、迅雷の刃」
「ぐぎゃ!?」
「ゴゴッ!!」
その勇気は、大人になるまで取っておけ。
村人に迫るゴブリンを離れたところから雷で攻撃。瞬時に焼き払った。
「な、なんだ!?」
「落ち着いてください。俺は王国防衛省から派遣された者です」
「王国防衛省……なぜ王国に属さない我々の村に……」
「それは末端の俺に知ることではありません。魔法剣、風魔の刃」
「何を!」
後ろから火矢を放とうとしていたゴブリンたちを風で切り裂く。少し木を傷つけてしまったが、これは許してほしい。
ゴブリンたちは通常7から20ほどの中隊規模で動く。なのでまだまだ隠れているはずだ。
「俺は逃げていないゴブリンを倒します。ここを離れる間、先ほどのように時間を稼いでください。ゴブリンが襲ってきたらこれを」
「これは?」
「魔法で作った俺のオリジナルアイテム、花火というものです。空に向かって投げれば位置を把握できるので」
「わ、わかった」
日本人だから思いついた魔法アイテムだ。
よくある異世界ものならこれで大儲けしたりできるはずなんだけどな。花火は王都にいる異世界人の感性には刺さらなかったらしい。
ゴブリンたちが潜んでいた気に向かって走り出す。斬った数は雷で2、風で4。計6。
まだまだ潜んでいたって不思議ではない。
「ギッ!」
飛んできた石を掴み、魔力で包んで投げてお返しする。
「ぎゃっ!?」
石はゴブリンの鼻先から突き刺さり、脳幹を貫通した。
こんな風に草陰に隠れられると体の色が緑色のゴブリンは保護色になって見つけることは困難になる。
だから実力者以外が森を歩くのは危険なんだ。視覚情報からゴブリンの位置を割り出せない以上、先手を確実にゴブリンに握られることになるのだから。
少し奥へ進んで3体ほどを倒した時、パァン! と村の方から音が聞こえた。
俺の渡した花火だ。襲撃に似合わぬ夏祭りのシンボルが空に輝いている。
加速して村へ戻ると今度は8体という大所帯で村に襲撃に来ていた。これがリーダー部隊か。
「む、剣士様!」
「剣士様はやめてくれ。むず痒い」
村人とゴブリンの間に立つ。
ゴブリンたちのセンターに立つのはひと回り大きいゴブリンだ。どう見てもボスだな。
「人の言葉はわかるか? 俺とお前たちでは実力が違いすぎる。これ以上仲間を失いたくないのなら去れ」
言葉を返すことはなかったが、ゴブリンのボスはこっちの言葉は理解したようだ。
そのままゴブリンたちを統率し、森の中へと去っていく。
途端に大きな家から歓声があがり、たくさんの人が流れ出てきた。
「こ、こんなにいたのか」
「すごい! あなたは英雄だ!」
「そ、そんなこと言われるのは初めてだな。あれ……涙が……」
異世界に来てから誰かに必要とされた経験はほとんどない。こうして歓迎されたことが今までの苦労と手を染めた凶行を洗い流してくれた。
歓迎ムードは高まっていき、ぞろぞろと広場に机などが並んでいった。
俺はあれよあれよと座らされ、本日の主役となってしまった。
「いやはや本当に感謝しております剣士様」
「いや、探索のついでだ。感謝されることじゃない」
「なんと謙虚なお方だ。いやいや私たちは村娘全員を差し出す断腸の覚悟も決めていたのに」
「いったいどんな悪人だと思っているんだよ」
異世界の辺境に住む村人たちは排他的な者たちが多い。
だから俺も例外なく追い出されるかと思ったが、村単位で救ったとなると話は変わってくるようだ。
「剣士様、もう少しでお料理が完成しますわ」
「そ、そりゃどうも」
やけにセクシーな美魔女さんが谷間が見えるほど屈んで話しかけてくるものだから困る。
村を救った礼に、俺の歓迎会を開いてくれるそうだ。
「それでは村を救ってくださった剣士様からのお言葉です」
「いやいや!? 聞いていなんだけど!?」
「みんながあなたの言葉を待っています。よろしくお願いしますよ、剣士様」
「む……みなさん、今日は災難な日だったと思います。そもそもゴブリンたちが襲ってきたのは山賊たちがゴブリンの住処を荒らしたからではないかと俺は見ています。山賊はこの村に入れないでしょうがゴブリンは入ってこれる。このシステムを変えませんか? 俺の力があればゴブリンも立ち寄れない結界を作ることができます」
俺はいい提案をしたと思った。が、村長含め村人たちの表情が急に暗くなった。
「剣士様、それはできません」
「なぜです?」
「古代よりお守りいただいているエルフ様の結界を変えるなど、そんな不敬な真似はできませんのです」
「なるほど……」
この世界には信仰が根深い。俺だって異端審問会にかけられたほどだ。
この人たちにとっての神様はエルフなんだな。
「ではこうしましょう。俺が魔力を込めた人形を置いていきます。そうすれば俺がこの村を去ってもずっと守り続けてくれることでしょう」
「おぉ! それならば願ったり叶ったりです!」
よし、少しは転生者らしいことができたな。
「ではみなのもの、今日はめいっぱい食べておくれ!」
村長の号令により、宴が始まった。




