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020 夢①

 王都から東に40キロメートルほどのところから広がるアロンの森は未開発エリアとして一般人であればまず立ち寄ることのないエリアになっていた。

 ここで見かける人間といえば山賊か、昔からここに住む民族くらいのものだろう。

 俺は王国防衛省よりここの探索を命じられた。

 奴らの本音は探索できてもラッキー、死んでもまぁ厄介払いできてラッキーといったところだろう。

 それくらい、勇者パーティから追放されたという前科は重くつくのだ。

 森に入って7分、異変に感づいた。異変といっても可愛いもので、ただの殺気だ。

 数は……6か。


「撃て!」


 木の上から放たれた6本の矢。このまま無抵抗でいれば俺は蜂の巣になることだろう。


「風よ、荒れ狂いて我が身を護れ」

「なにっ!?」


 暴風を身に纏い、矢を地面に叩きつけた。

 一応魔法ランクAなんでね。そう簡単にはいかないさ。

 山賊たちが混乱している間に木の上まで風を使って飛翔し、1人の首を短刀で掻き切った。鮮血が噴き上げ、木に染み込んでいく。

 こんなこと、ここに来たばかりの頃はもちろんできなかった。それゆえに騙されたこともあるし、殺されかけたこともある。

 だから気がついた。やらなければ、やられると。

 自分の感覚が3年半で麻痺してしまったのはわかっている。いつか日本に帰った時、心支えがなければ崩れてしまう危険性も自覚していた。


「くそ!」


 隣の木にいた山賊が再び俺を仕留めようと弦を引いていた。

 放たれた矢を剣で落とし、足で枝を蹴って隣の木へ移動した。


「たすけ……」


 迷うことなく首を切り、2人目の血飛沫を上げさせた。


「やばい逃げろ!」

「くそ、こんな奴が来るなんて聞いてねぇぞ!」


 山賊たちは木を伝って逃げようとした。

 地形は向こうの方が把握しているし、俺への敵意が無くなったのなら無理に追うことはしない。殺しを楽しんでいるわけではないからな。

 ただ1人はガイドとして置いていってもらわねば困る。


「魔力よ、蜘蛛の糸となれ」


 アメリカ映画みたく、俺の手から蜘蛛の糸を放出させて山賊の1人をとらえた。

 誰も仲間を救おうとはせずに一目散に去っていく。この世界は、そういう世界だ。


「ひぃぃ……お、俺を殺したって何もないぞ!」

「殺す気はない。いくつか質問に答えれば解放する。なぜ俺を狙った」

「こ、この森に来る人間なんて滅多にいねぇ。だがわざわざ来る人間は調査に来るお偉いさんかボンボンだ。人間を見つけ次第殺して身包み剥いでいるんだよ!」


 なるほどな、無差別的に攻撃しているわけか。

 頻度は少ないが一発がでかい、博打的な山賊だったか。


「もう一つ質問だ。この辺りに村やモンスターの住処はないか?」

「村はある。俺たちは近寄れないがな」

「どういうことだ?」

「村全体に古くよりエルフがかけた魔法がある。汚れた人間は入ることのできない結界だ」

「なるほど、お前たちはそいつらを狩ることはできないわけだ」

「あぁ。手出しできねぇよ」

「モンスターの住処は?」

「いくつかはあるがざっくりしか知らねぇ。その辺りには近づくなくらいにしか言われてねぇからな」

「モンスターの種類は何だ」

「ゴブリンやオーク……珍しいものはいないぞ」

「そうか。ご苦労だった。解」


 俺は蜘蛛の糸に流し込んでいた魔力の流れを止めて粘着力を無くした。

 解放された山賊は蜘蛛の糸を手で払い、仲間が走った方向へ向かって逃げていった。

 どこにあるかわからないモンスターの住処と、汚れた者は入れない村か。


「俺が探索に来た意味はあるんだろうか」


 やはり厄介者払いに感じざるを得なかった。

 森を歩き進めると5キロにつき4匹はゴブリンが襲ってくる。まったく愉快な森だと思う。

 勇者パーティのように探索、ヒーラー、魔法、剣士、テイマーといった多様性のあるものたちならこの森の攻略は簡単だろう。だが俺はソロ。1人で全部やるしかないのだ。

 気になるのはなぜゴブリンがこんなに襲ってくるのかだ。

 通常、ゴブリンは住処の近くで狩猟を行う。だから移動している俺と並行して動き、襲ってくるなどまずあり得ないのだ。

 山賊たちは俺の討伐に失敗した。山賊が人間を狩ることに失敗すると、その牙はゴブリンたちに向かうケースが過去にあった。

 ゴブリンたちはたまにだが財宝を持っている場合がある。それ狙いで山賊がゴブリンの住処に奇襲をかけているのだとしたら、ゴブリンたちは凶暴化し、人間たちを積極的に襲うようになる可能性がある。


「嫌な予感がするな」


 俺は歩く速度を上げ、探索を続けた。

 森の入り口からおよそ12キロ地点。ついに結界の魔力を捕捉した。

 古代エルフの結界なら弱まっていても数キロに影響が出るはずだ。だが逆にいえば数キロ以内に村があるということだ。

 結界が濃くなるのを肌で感じていたが、不思議と拒まれているようには感じなかった。まだ俺は汚れていない。そう自分を肯定できて、安堵する。

 建物の屋根らしきものが見えた時に地面を蹴って加速すると、悪い予感が当たっていたようでゴブリンが村を襲撃しているところだった。

 村の男たちが大きな家を背にゴブリンたちを剣で追い払おうとしているがあまりに実戦慣れしていないのは見ればわかった。

 このままでは15分ともたないだろう。

 俺はゆっくりと剣を抜いた。

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