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015 清潔感

「はいじゃあこれとこれとこれ。試着してきて!」

「選ぶの早くない?」


 さすが現役JK。服を一瞬で見繕ってくれた。

 サイズ感とかわかっているのかな? と不安だったがそこも兄妹なのでわかってくれているみたいだ。

 試着室のカーテンを開けると、なんだか視線を集めるようで恥ずかしかった。絶対に自意識過剰なだけだけど。


「ど、どうだ?」

「いいと思う。はい次」

「そんな事務的にやるものなのか?」

「時間ないしお兄ちゃん優柔不断だから後で悩むでしょ?」

「すみませんでした」


 全部俺のことを理解してくれた上での進行だったのか。

 俺がこの展開をラノベとかで読んだらもう妹ルートでいいじゃんとか思ってしまう。ただ凛音はヒロインというよりあれだ、おかんに近づいてきたな。

 次の服はまたさっきのと系統が違うな。そもそも日菜はどんな服が好みなんだろう。凛音の服を着た時はオシャレと言ってくれたよな。


「なぁ、この前の凛音みたいな服を買えばいいんじゃないか?」

「分かってないな〜、違う服で違う一面を見せるのがまたいいんだよ」

「そ、そうなんだ」


 凛音、いったい誰に違う一面を見せられていい思いをしているんだい? お兄ちゃんが認められるような男かい?

 試着室でシスコンを発動しながら着替えていると、3着目はやけにしっくりきた気がする。


「これいいな。落ち着いた色と袖が好きだ」

「7部丈カーディガンかぁ。いいんじゃない? お兄ちゃんに合ってるかも」


 梅雨だからムシムシする日もあるし、これから夏に入るにあたり以外に肌寒い日もあるだろう。

 そんな時にこの7部丈があれば安心だし、あまり背伸びしすぎていないから落ち着ける。


「じゃあお兄ちゃんがいいと思ったそれを買おうか」

「え? 凛音の意見は……」

「あくまで着るのはお兄ちゃんだもん。ファッションを楽しむことも覚えて欲しかったんだ」

「凛音……」


 いい妹すぎる! 抱きしめてやりたいけどそこまでいったら引かれる気がするから我慢だ!

 出費は5200円とまぁまぁ痛いが日菜との今後のための投資と思えば安すぎるくらいだろう。


「さ、美容院行こうか」

「マジで行くのか……」

「そんなに不安?」

「なんかあぁいうところってオシャレな奴がさらにオシャレになるために行くってイメージがあるからな。俺みたいな無頓着野郎は追い出されるんじゃないかと」

「いいじゃん。異世界でパーティから追い出された経験あるからもう怖いものないでしょ」

「……納得しかけた自分が怖いわ」


 まさか勇者パーティから追放された経験が美容院に行くことを後押ししてくれるとはな。俺を追い出したあいつもびっくりだろうよ。


「こんにちはー!」

「いらっしゃい凛音ちゃん。あら? その人は彼氏さん?」

「ち、違いますよぉ! ちゃんと備考欄に書いたじゃないですか、兄をお願いしますって」

「冗談よ冗談。凛音ちゃん可愛いからつい揶揄いたくなっちゃう」


 わかる。

 ってか美容師さんってこんなに若くて綺麗な人なの? 俺はおっさんを想定していたんだけど。


「じゃあお兄ちゃんさんこっち座ってくれる?」

「は、はい!」

「どんな感じにしよっか」

「えっと……えぇ……」

「お兄ちゃんはとある女の子に好かれたいので、まず土俵に上がらせてあげてください」

「なるほどなるほどー、その子の写真とかある?」

「この子です」

「うわ、めっちゃ美人! 高嶺の花狙いねー」


 ツッコミどころが多すぎる!

 まずなんで凛音は日菜の写真を保存しているんだ!

 そして美容師! こんな美容院ビギナーな俺に一発目から聞くな! 答えられるわけないだろう!


「OKだいたいわかった。たぶんその子はチャラい髪型は好きじゃないわね」

「わかるんですか?」

「なんとなく」


 えぇ……。

 不安だがまぁこの道のプロなんだ、信頼しよう。


「じゃあ清潔感出していこうか。ナチュラルなツーブロでマッシュほんのりで」

「…………ん?」


 なんだ今の二郎系ラーメンの注文みたいなやつは。


「あーごめんなさい。お兄ちゃんにそんなこと言っても二郎系ラーメンの注文くらいにしか伝わりません」

「あ、そうなの? えっと……厳つくならない程度にサイドを剃って、あとは君の元からある髪の流れに従って整えるって感じ」

「……ありがとうございます」


 なんだこの日本語訳してもらった感は。そして負けた感は。

 カットが始まるとすぐに美容師は話しかけてきた。カットに集中して欲しいんだけど?


「お兄ちゃんは写真の子のどんなところが好きなのかなー?」

「まぁ俺と共通の出来事がありまして、そこ繋がりで話ができるようになったんですけど……話をするうちにその子の優しさとか温かさとか、そういうのが伝わってきていつの間にか……って感じです」

「うはー! 甘酸っぱい!」

「お兄ちゃん良いこと言う! 『顔ですね』とかで終わったらどうしようかと思ってた!」

「もちろん顔も好きだ。全部好きだぞ」

「やるねー!」


 パチン! って後頭部を叩かれた。

 え? なんで?

 美容師さんは興奮すると客の頭を叩くのか。覚えておこう。


「はい、ざっくりカットはこんな感じでどうかな?」


 生まれ変わった自分がそこにいる……は言いすぎた。

 ただ1時間前の俺より清潔というか、人前に出ても恥ずかしくない俺がそこに座っていた。


「いい感じです。ありがとうございます」

「うんうん。じゃあブローしてシェービングしてスパするからね」

「えっ!? まだ続くの!?」


 俺は美容院というものを甘く見ていた。

 まさか2時間もかかるなんてな。

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