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014 自分磨き

 日曜日は夕方からのショート出勤なので、家でゴロゴロと過ごすことができる。

 といってもテレビは台風速報しか流れないし、追ってる作品の新刊も読み切ってしまったので圧倒的に暇なのである。

 よってリビングでジュースとお菓子を食べながらだらけていた。


「お兄ちゃんダメ人間になっちゃうよ?」

「ダメ人間か、言い得て妙だな」

「何開き直ってるのさ」


 昨日の品出し中の自己嫌悪スパイラルのせいで自己肯定感がどん底に沈んでいる。

 まさか異世界での生活よりも日本での生活の方が胸が苦しくなるとはな。


「そんな暗い顔していたら美影さんに嫌われちゃうよ?」

「そ、それは嫌だ」

「……ベタ惚れじゃん」

「日菜に嫌われるなんて俺は……あぁ凛音! 俺はどうすればいい!?」

「ちょっ、急に抱きつかないでよ! ……ってあれ? 日菜?」

「あぁうん。美影日菜」

「いつの間に名前で呼ぶようになったの?」

「いや、この前の映画デートからだけど」

「何それ! その日の夜に問い詰めた時はそんなこと言ってなかったじゃん!」


 デートの日、帰ってきたら凛音に色々と質問攻めにあったけど下の名で呼ぶようになったとは言っていなかったな。まぁ聞かれていないから答えなかっただけなんだけど。

 凛音に話したことといえば目星をつけたレストランが休みだったこと、森で散歩デートしたことくらいだ。


「下の名前で呼ぶようになったくらいで騒ぐなよ」

「いやいやお兄ちゃん、それは大きな間違いだよ」

「間違い?」

「うん。名字呼びと名前呼びでは全然心の距離が違ってこと!」

「まぁ……それは理解しているけど」

「全然理解してない! 例えばお兄ちゃんは好きじゃない女の人に下の名前で呼ばれたらどう思う?」

「馴れ馴れしいな、と思うか少しドキッとするかの2択だな」

「男の子はそうだろうね。でもはっきりと言うけど、女の子は好きでもない異性から下の名前で呼ばれたら、気持ち悪い! って思うから!」

「ま、マジで!?」


 つまり逆説的に捉えると日菜は俺に下の名前で呼ばれることを気持ち悪いと思っていないわけで、それすなわち俺のことを大なり小なり好きではあるということ!?


「でも注意ね。だからといって思い上がらないこと」

「あ、はい。気をつけます」


 危ない危ない。凛音がいなかったら思い上がって余計なことを今日のバイトで言っていた気がする。


「まさかお兄ちゃんがそこまで進むなんてなぁ」

「俺も予想外だったよ」

「あとはお兄ちゃんの見た目だね」

「み、見た目か……」

「異世界でだって剣や魔法の力を磨いたんでしょ? だったら日本では自分を磨こうよ!」


 なんかすごく筋が通っている話のように思えてきた。うちの妹は天才かもしれない。


「自分磨きねぇ。何をすればいいんだ?」

「まず1000円以下の散髪をやめよ?」

「むぅ、いきなりハードルが高いなぁ」

「お兄ちゃん今日の出勤まであとどれだけある?」

「ん? あと6時間くらいあるけど」

「じゃあ今から美容院ね。私と同じところだから紹介割でカット、ブロー、シェービング、スパで7000円くらいで済むと思う」

「いや高いわ!」


 とても気軽に出せる金額じゃないが、凛音は俺の了承を待たずにネット予約してしまった。

 自分磨きとか、今まで一度も向き合ったことなかったんだけど。


「嫌がっているけどぶっちゃけ本気出せばそこそこイケてるって思ってるでしょ」

「いやそんなこと思ったことは……」

「正直に!」

「少しくらいなら……」

「よろしい」


 何この妹。俺の内面を透かしているかのように語ってくる! 恐ろしい子……!

 いつかメンタリストになる! とか言い出したりしないか怖いところで凛音は外出の準備を始めた。

 ぼさっとしていたら置いていかれると思ったので慌てて俺も着替えて準備をした。今日は傘も必須だな。


「ってか予約する時間早くないか? もう少し余裕があっても……」

「ううん。服も買うから」

「いやいや、服なんて買っても今日はバイトだから意味ないぞ!」

「それでも買うの! お兄ちゃんがデートのたびに私の服を着ていくなんて恥ずかしいって!」

「そ、それもそうか」


 よく考えたら俺の方も恥ずかしいわ、それ。

 ついに服を買いに行くのかー。異世界ぶりだな。

 あの時は日本で着ていた服だったから悪目立ちしたので渋々買ったんだが、今思えば通貨の価値も知らないでよく買ったものだ。

 結局同じ服を何着か買って、それを着まわしていたからな。俺の服への関心の薄さがよくわかる。


「じゃあ行こっか。ってすごい雨……」

「台風が来るからな。ピークになる前に急ごう」

「うん! あ、美容院に近いところに行くから」


 結構強い雨の中、傘をさしてゆっくりと歩いていく。

 ショッピングセンターは家から近いので、そんなに濡れることなくたどり着くことができた。


「うーん! いい場所だね、ここは」

「個人的にはこの雰囲気はあまり好きじゃないんだけど」

「それはお兄ちゃんが陰の者だからだよ」

「ストレートに殴らないでくれ。泣きそうだ」


 服を買って、美容院に行ってか。

 まぁちょっとだけ、ちょっとだけではあるが楽しみだな。

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