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013 高嶺の花狙い

 今日は主に漫画本の入荷が多いようだ。漫画といっても異世界もの原作がコミカライズ化したものが多く、あんまり一昨日との違いは感じ取れない。

 ただコミカライズ化までたどり着いた作品はノベライズより人気があるケースの方が多いので、玉石混交の玉比率は高いのかもしれない。


「異世界恋愛系が多いなぁ」


 ちょうど甘酸っぱい初恋の話をしてきたところなので、どうしてもそういったものは目に止まってしまう。

 定番の婚約破棄から聖女系、悪役令嬢系など多岐にわたる。女性向けも多いな。


「えー? マジ? 森デート!?」


 何だ? やけにレジが騒がしいが……あぁ、日菜と二宮先輩が話しているのか。

 今の時間帯も客はいない。明日台風が来ると言われているが、明日はもっと客なんていないだろうな。

 自分で思っていてアレだが、よく潰れないなこの店。店長もほぼ顔を出さないし。


「うわ、やば!」


 ……二宮先輩声でかいな。さっきの会話、日菜に聞こえていなかっただろうな? ここまででかいと不安になるぞ。

 黙々と漫画を品出ししつつも、やはりレジの会話は気になってしまう。断片的にしか聞こえてこないが、相当な盛り上がりを見せているようだ。


「つまり異世界でも……が……と……したってわけ?」

「うん。そうなるね」

「激ヤバじゃん!」


 大事なところが聞こえねー。まぁいっか。


「いつ気づいたん?」

「昨日、かな」

「激ヤバ!!!」


 盛り上がってんなー。二宮先輩、俺の話の時はそこまでエキサイトしてなかっただろ。俺の話し方が悪かったのかな。うーん、自信無くすわぁ。

 品出しは1人の時間になるため、必然的に自分の世界に入りやすい。

 今考えていることは日菜と恋人になることだった。

 うん、今告白するのは無謀だよな。ってか俺って中卒だし魔法使えないし頭悪いし男としての魅力なくないか?

 マイナス思考に脳が侵されてしまう。漫画からなんか恋愛のヒントとか得てみるか。えっと……これが一番入荷しているから一番人気なのかな?


「って最初から主人公への好感度マックスやないかい!」


 数ページ読んだだけでわかる。このヒロイン想定では意味がないと。

 売り物の本を床に投げ捨て……は流石にしないけど、したくなる気持ちだった。

 最近の作品は全肯定ヒロインが主流なんだなぁ。異世界に行く前はツンデレだの暴力系だのグロ飯系だの色々いたのに。

 読んでいて癒されるかもしれないが、参考になることはなさそうだった。


「きゃーーーー!?」


 二宮先輩の叫び声だ! 不審者か!?

 颯爽と漫画を置いてレジへ走った。……が、特に何かに怯えている様子はなかった。


「二宮先輩、大丈夫ですか!?」

「おーう。んー、拓人っちは帰った帰った」

「……へ?」


 不審者の影も形もなく、ただ赤面してちょっと涙目の日菜とそれを抱きしめる二宮先輩がいるだけだった。

 何この空間。人によっては「尊い」って呟いてぶっ倒れそうだけど。


「何で叫んだんですか?」

「拓人っち、今はこっちに来るの禁止で」

「え? いや気になるんですけど」

「先輩命令っしょ」

「……はぁ」


 よくわからんが、ともかく不審者とかでないのなら良かった。人騒がせな、とは思うけど。少なくともゴキブリくらいは覚悟していたのに。

 品出しに戻ってもまた叫び声が聞こえてきた。また覗きにいけば追い返されて、いつかオオカミ少年みたいになっても知らんぞと思いながら品出しを続けた。


「オオカミに護られながら異世界攻略……こんなのも流行っているのか」


 俺も護られたかったなぁなんて思いながら平積みした。他人任せの異世界攻略なんてどれほど楽しいだろうか。

 ……それにしても、まさか異世界に行く前は漫画の新刊コーナーの6割以上を異世界作品が埋める時代がくるなんて思ってもいなかったなぁ。

 変わらないのはチート、追放、婚約破棄が3種の神器として君臨していることくらいか。

 そういや日菜は婚約破棄した王子のことをいいやつって言ってたよな。まさか好き……とかじゃないよな?

 もし未練があるのだとしたら俺に勝ち目はない。まぁ王子にだって愛人から妃にランクアップした相手がいるから日菜にも勝ち目はないんだけど、共倒れという最悪の結末を迎える可能性だってある。

 これはいつか聞かないといけないかもな。王子のこと、どう思っているのかを。ただそのタイミングがなぁ、いつかってのが問題だ。2人きりで静かなタイミングが望ましい。


「はぁ、高嶺の花狙いってのは一筋縄ではいかないな」


 わかってはいた。日菜を好きになったら茨の道だってことくらい。

 日菜は可愛いし、優しいし、人気のある子だ。男子なら関わればほとんどの奴が好きになるだろう。

 そして俺がそんな人を好きになっていいのかと疑問に思うことくらい、自分でも分かっていた。

 俺に残っているのは魔法が使えないこと、中卒であること、フリーターであることだけ。

 こんな俺が、日菜に見合う男になれるだろうか。それだけ自分を認められるだろうか。

 この答えは品出し中に出ることはなさそうだった。

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