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012 初恋の話

「楽しい話といえば女の子とのデートの思い出ですね」

「それはまんじ」

「ま、まんじ?」

「続けて」

「は、はぁ」


 何の意味もない知らない相槌を打たないでほしい。困る以外のリアクションが取れないからな。


「えっと、前提として俺は勇者パーティから追放されてソロで異世界を旅していたのは知っていますよね?」

「うん。それは聞いた」

「異世界に行ってから追放されるまでが約5ヶ月で、そこから3年と半年くらいはソロでした。日本に帰ってくる4ヶ月前くらいですかね、俺が未開拓の森を探索していたらたまたま村に出たんです」

「ふんふん。ありがちじゃん?」

「でもその村はちょうどゴブリンたちに襲われていました」

「うっわ。マジでゴブリンとかいるんだ」

「正直言ってゴブリンも山賊もそう大差ないですよ。強さも知能もね。殺すときに罪悪感があるかないかくらいで」

「……拓人っちってもしかして割と感覚バグってる?」


 それは否定できないかもしれない。あまり人に言えないようなこともしたし。

 もし深掘りされたら正当化するわけじゃないけど、生きるためには仕方がなかったとだけ言っておこう。


「それでまぁゴブリンはちゃちゃっと倒して、村を救うことに成功したんです」

「拓人っち話聞いていると割と強いよね」

「まぁ一応勇者候補のパーティにいましたからね。魔法はAランクで剣はBランク、魔法剣はSランクだったので。自分で言うのもなんですけどそこそこ強いっす」

「ぱねぇ」


 語彙力ぅ……。


「まぁそれで村には歓迎されてご馳走とか出してもらったんです。そんな時でした、エルフのように美しい女性がその村にいたんです。ただその村の新入りらしく、あまり村の活動に参加している様子はありませんでした」

「あーね、異世界の村ってなんていうか閉鎖的なイメージあるわ」

「その通りです。普段なら勇気は出なかったんですけど、その時だけなぜか体が動いたんですよ。で、話しかけたんです。君と食事したいって」

「うわっ、アッツ!」


 二宮先輩は体を揺らして興奮しているようだった。

 異世界話も好きだけど、たぶんこの様子を見るに恋バナも好きなんだろうなぁ。


「クールな子かな? と思っていたんですけど案外フレンドリーで、一緒に飯を食べてくれました。今思えば俺より食べていたり可愛い面もありましたね」

「ガチ惚れじゃん、ウケる」

「それでさらに勇気を出したんですよ、一緒に森を歩かないか? って」

「デートキタコレ!」

「そうです。そしたら彼女は快く承諾してくれて。野鳥の声を聞きながらデートして、モンスターが出たら彼女に指一本触れさせることなく倒したりして」

「ふふん、拓人っちカッコいいじゃん。流石アタシの仲間っしょ」


 いつの間にか仲間になっているが、カッコいいと言われることに文句はないし、気分はいいな。

 さて、ここから先はあまり楽しくない思い出も入ってくるが……まぁ最後まで話さないとつまらないよな。


「雰囲気もいいし、イケると思ったんです。決意しました。この子に告白するんだって。俺の異世界での青春はここから始まるんだって」

「おお! いけ拓人っち!」

「そんな時でした。俺を管理する王国防衛省から伝書鳩で離れた火山にモンスターが出現したから狩りに行ってくれと通達が来たんです」

「うわ! 空気読めし!」

「行くしかありませんでした。給料はそこから出ていましたし、貯金もそんなになかったので留まっているわけにもいかなかったんです」


 そうだ、あの時のことはよく覚えている。

 村に戻ってどうするかを悩みに悩んだ。名も知らぬ彼女のことを思うと胸が痛かった。だから俺は……


「俺は村の誰にも何も言うことなく、明け方に去りました」

「えっ!? なんで!?」

「別れが辛かったんでしょうね。辛い思いをすることから逃げた。最低ですよ、俺」

「…………」


 二宮先輩は立ち上がり、俺の頭を撫でた。

 突然の行動に驚きを隠せなかった。でも心地よくて、それに甘えてしまう。


「最低なんかじゃないっしょ。そりゃその子にひと言あった方が良かったとは思う。でも下手な悲しさを残さなかったのは拓人っちの優しさじゃん? 火山のモンスターだって生きて帰ってこれるかもわからないわけっしょ?」

「もちろんです。実際4回くらい死にかけましたし」

「アタシは拓人っちの決断を非難したくはない。拓人っちの優しさがわかるし、それにアタシらは仲間じゃん?」

「二宮先輩……」


 目頭が熱くなった。

 このエピソードは比較的いいエピソードなのに今まで詳細に話してこなかった。なぜなら誰にも認められないと思ったからだ。

 それを二宮先輩は優しく包み込んでくれた。異世界帰りに優しいギャルは実在したんだ。


「まっ、また異世界に行けたらちゃんと謝るところからっしょ」

「はは、そうですね。また異世界に行けたら絶対に会いたいです。でも……告白はしません」

「え? 何で何で?」

「好きな人、こっちでできたんで」


 返答が無かったので二宮先輩の方を見るとニヤッと口角を上げて笑っていた。


「日菜っしょ? 分かりやすいやつだなー、拓人っちは」

「ええっ!? そんな分かりやすいっすか?」

「日菜と話している顔を見たらわかるっての。ギャル舐めんなし」

「ギャル関係ありますかね……でも絶対内緒ですよ!?」

「分かってるしー、そこまでアホじゃないしー。あと少し感心した」

「え?」

「たまに未練たらたらな奴いるけど、拓人っちはちゃんと異世界の子への思いに決着つけてんだね。偉いじゃん?」

「まぁ……そうかもっすね」


 初恋は初恋。今の恋とは別の話だ。


「2人ともお待たせー、検品終わったよ」


 日菜が検品を終えレジへやって来た。

 何でだろうな。今一瞬だけど名も知らない彼女の顔と重なったよ。


「じゃあ品出ししてきます!」


 俺は日菜とレジを交代して品出しに向かった。

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