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010 キャラくじ戦争

 デートが終わった翌日。

 俺はいつもの時間に美影書店へと向かい、従業員室で似合わぬエプロンを着てアルバイトを開始した。

 バックヤードに物が多いが、今日ってそんなに新刊予定あったかな?

 レジに向かうと日菜はもうすでに準備を終えていた。日菜と呼ぶのが少し勇気がいるが、ここは頑張ろう。


「日菜、おはよう」

「おはよう拓人くん。昨日は楽しかったね」

「うん。めっちゃ楽しかった」


 昨日の思い出は風化することないだろう。なぜなら呼び名や喋り方が大きく変わっているからな!

 形として残ったものもある。それは「転生勇者は毒を喰らい進化する」のアクリルスタンドだ。

 めっちゃ嬉しかったのか、日菜はレジのギリギリ客から見えない死角にそれを置いていた。

 二宮先輩も異世界好きだし、咎められることはないだろう。


「さて、今日は忙しくなるよ」

「え? そうなの?」

「先週言ったでしょー? 今日はキャラくじがあるって」

「あぁ、キャラくじ……言ってた気がするかも」


 キャラくじとはアニメ作品キャラクターグッズが当たるハズレなしのくじ引きのことだ。

 やけにバックヤードに物が多かったのはそれが理由か!


「ちゃんと覚えてね? くじは1人で10回まで。入荷ロットは3で、1ロット80くじで終わりだから最低何人で終わる?」

「えっと……24人?」

「正解! やるじゃん」

「いや算数じゃん」

「あはは……ちょっとバカにしてました」


 まったく……確かに俺は頭が悪い。勉強も苦手だった。

 もし頭が良ければ異世界でも知恵の勇者なんて言われて持ち上げられていたかもな。


「それで何のキャラくじなんだ?」

「見てわからない? これだよ!」


 日菜が俺に見せてきたのは一体のフィギュア。あぁ、このキャラって……


「『転生勇者は毒を喰らい進化する』じゃん」

「そうだよ。劇場版公開に合わせてくじも発売するの」

「へー、商売が上手いなぁ」

「あ、私は開店と同時に10分の休憩をいただきますので拓人くんはレジをお願いね」

「……え? なんで?」

「なんでって……そりゃくじを引くためだよ」

「なんでわざわざ休憩を? 今引けばいいじゃん」

「むー、わかってないなぁ。ここで従業員が引いちゃったらお店への信用を無くしちゃうでしょ?」

「そういうもんか」


 よくわからない。まだバイトを始めて2ヶ月だしな。キャラくじを担当するのも初めてだし。

 そうこうしている間に開店3分前になった。


「やば! じゃあちょっと抜けるね!」

「あ、マジで!?」


 ワンオペかよ。まぁいいけどさ……

 開店と同時にドアの鍵がオートで開いた。その次の瞬間だった。


「うぉぉおお!」

「レジレジレジ!!」


 祭りか? って思うくらいに男たちがレジへと詰めかけてきた。


「ちゃ、ちゃんと並んで! 1人につき10回の制限がありますから!」

「俺10回!」

「こっちも10回!」


 すげぇな、みんな上限の10回を引いていくじゃん。

 えっとくじ1回が800円で10回だから……8000円!? 1日分のバイト代が吹っ飛ぶじゃないか。

 8000円を使っても最低賞であるラバーストラップと、その1個上であるキーチェーンしか当たらない人だっている。闇鍋だ……と思わざるを得ない。

 そういや異世界に行く前からスマホでガチャるのが流行っていたな。じゃあこういうくじが流行るのも理解できるな。


「私も10回お願いします!」

「はーー……い……」


 一瞬気がつかなかったが、この客はどう見ても日菜だ。

 ご丁寧にサイドテールを解いて茶髪のロングヘアになっている。

 どうして意中の相手が髪型を変えるとドキッとするのだろう。俺は普通にドキドキして見惚れていた。


「店員さーん?」

「あっ、すみません。どうぞ」


 あくまでも信用が大事みたいだな。まさか変装してまでくるとは思わなかったぞ。


「やったぁ! B賞だ!」


 えっとB賞は……あぁ、3人ヒロインのうちの真ん中の子のフィギュアか。

 日菜が昨日買ったアクリルスタンドのキャラだから推しを当てたということだろう。俺としては知らんやつにフィギュアがいくより日菜に渡った方が当然嬉しい。笑顔も見れたしな。


「おめでとうございます。どうぞ」

「ありがとうございます!」


 日菜の笑顔はキラッキラに輝いていた。昨日よりもいい笑顔だったので、少しだけB賞のヒロインに嫉妬してしまう。

 まぁ推しの力は偉大だからな、仕方がないだろう。

 数分経ってもまだまだ客足は途絶えなかった。

 客の話を盗み聞きしたところ、大きな本屋ではすでに何十人と並んでいたためにこっちに流れてきたのだとわかった。


「拓人くんお待たせ! 今から私もレジ入るね」

「ありがとう。分業でいこう」


 茶髪ロングからいつものサイドテールに戻った日菜。やはり似合っているな、などと勝手に考えて自分の気持ち悪さに気がついた。

 くじを引かせる係と景品を渡す係。分業すればかなりのスピードアップが期待できる。


「ありがとうございましたー」


 開店からおよそ1時間半。ついにキャラくじを捌き切った。


「あー、疲れた。もうキャラくじの日は出勤したくない」

「普段はキャラくじの日でもこんなに来ないんだけどね。人気作品だから」

「3ロットで助かったよ。もし5ロットや10ロットもあったらって考えると……」

「うーん、それは軽くホラーだからやめようか」


 あまりの疲れにお互いに渇いた笑いしか出てこなかった。

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