000 異世界帰りの書店員
JKサキュバスをギャンブルで恋人にする話」が始まっております! そちらもぜひどうぞ!
「その異世界作品、やめといた方がいいっすよ」
俺は無意識のうちに発していた言葉の意味を理解してハッとした。
「は?」
「あっ、いや……なんでもないっす。ありがとうございましたー」
場所、美影書店。
天気、曇りのち雨。
時刻、午後3時。
季節、梅雨。
服装、制服のエプロン(原町拓人と記された名前プレート付き)。
19歳の俺は大学や専門学校に通うことなく、この美影書店という小さな本屋でアルバイトをしていた。
「原町くんお疲れ様ー。レジ代わるから品出ししてもらえる?」
「あ、はい。行ってきます美影さん」
俺に話しかけてきたのは美影日菜さん。名字から分かる通り、彼女はここの店長の娘だ。
明るい茶色のサイドテールに長いまつ毛、女優のように整った顔。美影さん目当てに来客する客もいるくらいだ。何一つ俺とは共通点がないと思える。
……が、そうではない。俺と彼女には大きな共通点がある。それは……
「あ、そうだ原町くん! ……終わったらまた異世界の話、しようね」
レジが空いているからと美影さんは俺に近づき、背伸びして俺の耳に小さく囁いてきた。
そう、月とスッポンに思える俺と彼女の共通点。それは……異世界帰りの人間であるということである。
入荷してきた本の表紙に記される追放、ざまぁ、チート、婚約破棄、悪役令嬢……などなどの文字。
品出ししていて思うが、4年前と比べてはるかに異世界作品の数が増えている。
書店員だからこそ言えるが、この作品たちは玉石混交で、ロケット返品することもあればアニメ化までたどり着く作品まである。作者側もギャンブルで書いているのかもしれない。
中には書店が推していて、無料立ち読みできる作品もある。平日この時間帯は客が少ないので、パラパラと新刊を流し読みしてみる。
感想「浅い」
追放されたその先で隠された才能が発揮されて女の子と新しいパーティを組んで無双ねぇ。羨ましいことで。
「そんなに甘くないっての」
「まーた異世界作品に文句言ってる」
「うわっ!? 美影さんか、驚かさないでくださいよ」
「ごめんごめん。でもサボりはよくないぞー?」
「すんません。でも美影さんこそレジは……」
「今お客さんいないし」
「この本屋さん大丈夫なんすか?」
「それにしてもまた異世界ものの新刊かー。よく出るよねー、うわ婚約破棄物だ」
「美影さんは婚約破棄されたんですよね? その経験から言わせるとどうですか?」
「浅い」
「俺と同じ感想じゃないっすか」
そう、俺は異世界で勇者パーティから追放された。そして美影さんは王子に婚約破棄された。
俺たちは……異世界帰りの書店員なのである。
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