前編 昭和十四年七月二十五日
大変長らくお待たせしました。佐藤大輔よろしく続編を待たせるというようなことはできる限り(おい)無くしていきますので、今後とも是非よろしくお願いします。
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七月の京都は蒸し暑い。それは少し緯度が上がっても変わらないということを思い知らされる人間は毎年のように現れる。排煙でやや煤けた海軍の礼装を海軍士官にしか出来ない優雅さで払い、流れる汗を拭った士官もその一人だった。二本の線に桜が一つの肩章が陽光にきらめき、通りすがりの女学生の脳裏に物憂げな顔とともに記憶される。
佐々木政一少佐は彼女が乙女と女の狭間にいるような顔でこちらを見ていることに気がついていた。逃げるようにして、どうして女学生という生き物の基準は顔なのかという考察を始める。憂鬱の擬人化たる彼はこの数秒前までこの世の八割方を嫌い、そのような自分さえも嫌っていた。
これには理由がない訳ではない。海兵五九期をお世辞にも良いとは言えない成績で卒業した佐々木は、日清戦争のときの威海衛夜襲に憧れて入学したいかにも日本的な水雷屋であった。だが昇進を伝えた上官によれば、佐々木が初めて得る自らの城は秋月型駆逐艦だというではないか。「駆逐艦乗りたちの反乱」に参加した身には季節外れの四月馬鹿としか思えなかったがどうやら真実らしい。
「……はぁ……」
怨念のこもった吐息を地面にプレゼントする。恐らく、自分が敵艦隊に水雷戦を仕掛けることは無いだろう。祖国が戦争へ向かいつつあるというのに、鍛え抜いた水雷戦の技量を発揮することが出来ないという悲しみに、佐々木の心はラーゲリへ向かう思想犯の如く沈んでいた。




